〈+CEL〉インタビューvol.4 (後編)
料理家たかはしよしこさんが母から受け継いだ 自分の手で、
なにかを作り出す大切さ。
ランドセルブランド〈+CEL〉と親から子へ受け継ぎたいものについて教えてもらうインタビュー企画。シリーズ4回目にご登場いただいたのは、北海道・美瑛で家族と暮らす料理家のたかはしよしこさん。前編で伺った北海道ではじめた暮らしも、夫・前田景さんの祖父から父へ、父から息子へとつながっていくものでした。後編では、たかはしさんが母から受け継いだもの、そして現在9歳の娘さん・季乃ちゃんへと受け継ぎたいものについてお話を伺います。
母が長年続けている梅仕事と手作りの洋服。
――“受け継ぐ”というキーワードからどのようなことを考えられましたか?
「このインタビューのお話をいただいた時、徳島で暮らす私の母がこちらにきてくれていたんです。夏の時期は、徳島が暑いので実家の両親が美瑛にくるのが移住してからの定番になっています。母は、こちらにくるといろいろな作業を手伝ってくれます。彼女は、なんでも自分で手を動かして作る人で、和裁も洋裁もできるし、保存食も作る。そういうことをとても大事にしているんですね。私は、料理だけですが、でも、自分の手で作ることを大事にしている、というのは受け継いでいるんじゃないかと思いました。そこにあるものを生かして、何かを作るということ。今の時代、なんでも手に入りますし、あるもので簡単に済ますことももちろんできるけれど、自分の好みに作ったほうがおいしいよな、とか、より気にいるものが作れたら素敵だな、とか、そういう感覚を受け継いでいるかもしれない、と思いました。そして、それは娘にも同じようにつながっていってくれたらうれしいなと思っています」
―ー今回ご用意してくださったのも、お母さんの手作りのものです。
「はい。梅干しは、母が梅の時期にこちらにくるようになってから一緒に和歌山の梅を取り寄せて梅仕事をするようになりました。梅干しだけじゃなくて、梅ジュースや梅酒を仕込みます。こっちにきてもやるんだな、とちょっとびっくりしたんですけれど、でも季乃も作業を面白がって手伝ってくれるので、それはいいなと思っています。もちろん、小さい頃から母は梅を漬けていたので、私もずっと季乃くらいの頃からヘタをとったり、梅に穴を開けたり、アルコール消毒をしたり、という手伝いをしていました。母の実家は漬物屋さんだったんですよ。野菜を作って何百キロと漬物を漬けていた。母はそれを見ながら育った。だから、あるものでなにかを作る、というのが自然とやるべきこととして身についているんだと思います。その感覚を受け継いだ私は、今、調味料を作っているというのも、面白いものだな、と思います」
――もうひとつは、かわいい子ども服ですね。
「母は気にいるものがないからと、自分が着るウェディングドレスまで自作したほど洋裁、和裁も得意。私も子どもの頃にはワンピースなどを作ってもらっていました。今は、季乃をはじめ孫たちの洋服や小物などを手作りしてくれます。お気に入りのニットの赤い帽子と、2着のワンピースは生地を母と選びにいって、作ってもらったものです。このほかにも、姉の子どもたちが着ていたものを季乃が譲ってもらったものもあります。手作りのものは、やはり愛着が生まれます。大事にとっておけば、次の世代にも大事に着てもらえるんじゃないかなと思っています」
――そして、〈拓真館〉の再生プロジェクトの中にもお母さんの手作りのアイテムがあるそうですね。
「そうなんです。白樺の葉を使ったヴィヒタは、この地域で採れるもので、なにか訪れてくださったみなさんに、持ち帰ってもらえるものができないかと考えて生まれたもの。〈拓真館〉の森には、白樺の木がたくさんあります。それでこれを作ってはどうかと思いました。ヴィヒタは、フィンランドのサウナで使われるもので、サウナ室内に吊るして香りを楽しんだり、水に浸した葉で全身を叩いて血行促進に使われたりするものです。サウナ以外でも、玄関など部屋に吊るすだけでもおしゃれなインテリアになると思います。6月の新緑の季節に、きれいな葉っぱの新芽だけをとって、洗って、乾かして、束ねて作ります。今は、その作業を母が一手に引き受けてくれている。〈拓真館〉で人気のアイテムとなり、毎年買いにきてくださる方もいます。手間はかかりますが、この場所で採れたもので作り続けていけるもの、受け継いでいけるものなので、大事に作り続けていきたいと思っています」
――食べるものにしろ、身にまとうもの、日々に使う物など、自分たちで気にいるものを手を動かして作ることができる、という意識を育てるのは大事なことかもしれません。今の時代、便利になんでも買って手に入てしまう分、想像力もなくしてしまっているようにも思います。
「母もそうですし、私もですが、好きなものや好みがはっきりしているんだと思います。母がウェディングドレスを手作りしたのも、市販のものは華美なものが多くて好みじゃなかったからだったそうです。それで、すごくシンプルなデザインの素敵なドレスを作った。自分で作ることで、私はこういうものが好き、これがいいと思う、というのがはっきりしていくんじゃないでしょうか。季乃も、私や母のはっきりした好みを受け継いで、これはアリ、ナシがけっこうきっぱりしています。お気に入りのキャラクターがないからと、自分でキャラクターを作って描いてみたりだとか。そういえば、ランドセルを選んだときも、即決だったんですよ。1回、試着してみようかってお店を訪れたら、もうそこで、ネイビーのランドセルを“これがいい!”と決めちゃった」
――即決!
「はい(笑)。どんな色を選ぶのか、けっこうドキドキしていたんですが“派手な色を選ぶと高学年になったときに飽きるかもしれないから”と。けっこう、渋好みなんだなと驚きました。でも、私としても苦手な派手な色味は選んで欲しくないなと思っていたので、ホッとしました。ランドセルって、おもちゃの類みたいに、子ども部屋にしまっておくことはできないじゃないですか。玄関に転がっていたり、居間に放り投げてあったりと、実は日常の中でずっと目にするものです。だから大人にとっても、家にあっても不自然じゃないカラーやデザインのものを選びたいなと思いました」
――ほかにはなにか購入されるときに気にしたポイントはありましたか?
「“重い”とはよく言っているので、軽さでしょうか。教科書をぎゅうぎゅうに詰め込んで帰ってきます。重いとそれだけで背負いたくなくなりますよね。せっかく買ったものだから大事に使い続けて欲しい。そのための、背負いやすさとか、軽さはかなり重要だと思います。今回、〈+CEL〉のランドセルは、一目みたときに重厚な印象があったので、ちょっと重いのかもしれない、と思ったのですが、実際に手にしたら、すごく軽いので驚きましたね。実は、〈+CEL〉登場した時にインスタで写真をチェックしていたんです。でも、実物を今日、見せていただいて、軽さを実感して。これは、実際に見て背負ってみるのが大事だなと感じました。印象が全然、違います」
――ほかに気になったところはありますか?
「開けた時に、“わっ”てなりました。普通、ランドセルってあけるとだいたいお名前プレートがあるんです。〈+CEL〉にはそれがない! 前段のポケット部分の中に名前プレートがかくされているんです。ランドセルカバーを開いたカブセ裏も、ビニールシートになっていて時間割などが入れられるようになっているのが定番だと思いますが、そこも柚木沙弥郎のプリントが敷いてあって、とても大人っぽい雰囲気です。ランドセルを開いたときの佇まいの美しさというのでしょうか。ベルトの感じも雰囲気があって、大人の鞄のようです。とてもおしゃれで感動しました。外見は定番のランドセルのようでいて、開いた内側にワクワクできる要素があるのが、すごくいいなと思いました。ランドセルってこういうものだよね、というのをいい意味で裏切ってくれる感じがします。大人の視点で考えてくれていて、“いいもの”を子どもたちに受け渡していきたい、という気持ちがすごく伝わってきました」