ゲストのお悩み、解決するのはこの一冊! 美容コラムニスト・福本敦子さんのために選んだ一冊とは?/木村綾子の『あなたに効く本、処方します。』

LEARN 2019.07.21

〈本屋B&B〉のスタッフ、木村綾子さんがさまざまな業界で活躍する「働く女性」に、今のその人に寄り添う本を処方していくこちらの連載。第3回目は、Hanako.tokyoでの連載『Hanako週末美容』でもお馴染み、ハナコラボの福本敦子さんを迎え、アーユルヴェーダの哲学にまで飛躍した対談が繰り広げられました。

今回のゲストは、美容コラム二ストの福本敦子さん。

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雑誌やWEBでの美容コラムの執筆や、コスメやナチュラルフードなどのPRなどマルチに活躍。連載『Hanako週末美容』では、すぐ取り入れられる美容法や厳選アイテムを紹介されています。

はじめましてのおふたり。話題は、最近ハマっているというNetfrixの番組から!

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木村「福本さんは、今は美容コラムニストさんなんですね」

福本「はい、今はコスメなどのPRをやりながら、美容のコラムを書いています」

木村「実は私、お化粧品にしてもボディケア商品にしても、いま使っているコレは果たして本当に自分に合っているものなのかなぁ…って、いつもちょっとのモヤモヤを抱えつつ、なんとなくここまで生きてきちゃったって感覚があるんです。だから今日は福本さんに本を紹介するという名目で、美容の秘訣も盗んじゃおうかな、なんて密かな企みを抱いてお待ちしていました(笑)」

福本「私も初めて会った人に、ささやかなコミュニケーションからその人に合う化粧品を紹介する仕事をしているので、木村さんお仕事にも通じるものがありそうだなって、とっても楽しみにしてきました」

木村「美容の道に進もうって思いは学生の頃からあったんですか?」

福本「はい。若い頃は、「美容の仕事=美容師」くらいの狭い知識しかなかったので、美容専門学校に進んで美容師になりました。でも実際なってみると、私の目指していた仕事は本当にこれだったのかな?って疑問が湧いてきて…。それで美容師は1年で辞めて、その後、ナチュラルコスメとの出会いをきっかけに〈Cosme Kitchen〉で14年働いて、2018年からフリーランスとして独立しました」

木村「紆余曲折あっての今、というところでは私の経歴にも通じるものを感じます。今日はお互いのことを話しながら、福本さんの人となりを知っていけるといいな」

福本「この連載は、本で悩みを解決してもらうって切り口じゃないですか。悩みって本と全然関係なくてもいいんですか?」

木村「もちろん。どんな小さな悩みでも大丈夫ですよ」

福本「それなら私、眠れる本を勧めてほしいです」

木村「いきなりピンポイントな悩みが来た(笑)…不眠に悩んでいるんですか?」

福本「実は最近、寝る前の「Netfrix」が止められないんです。神経を落ち着かせられる本があったらいいなって」

木村「え、「Netfrix」私もめっちゃ観ますよ!何が好きなんですか?」

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福本「今は『ル・ポールのドラァグ・レース』っていう作品にハマっています。ドラァグクイーンたちがエンターテイメント性を競い、全米No.1を目指すっていう番組なんですけど、基本的に壁紙がショッキングピンクなんですよ。だから毎晩、寝る前ベッドの中で観ていると、眼も脳も刺激を受けちゃって逆に覚醒しちゃうんです(笑)」

木村「『ル・ポールのドラァグ・レース』人気ですよね。この間の『Hanako』本誌でも紹介されていた気がする!」

福本「この番組で優勝すると、その人の人生が劇的に変わるんです。フォロワーが100万人に増えたり、世界的スターたちが集まるファッションの祭典に招待されたり。ひとりひとりの個性を見ていても面白いし、そういうドラマティックな展開にも興奮しちゃうんですよね」

木村「そんな人生譚を寝る前に見ちゃうのは、たしかに刺激過多(笑)」

福本さんのお悩み、その1。「テレビの中の登場人物を占ってしまう」

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福本「私、少しだけ「星占い」ができるんですよ。それで今ハマっているのが、『ル・ポールのドラァグ・レース』に出てくる人の生年月日や出身地を調べて、勝手に星占いするって遊びなんです」

木村「なにそれ面白い(笑)」

福本「すごく面白くて、歴史上の人物や世界的スター、スキャンダルでワイドショーを賑わせている人まで調べるようになっちゃいました」

木村「自分や身近な人の運勢だけじゃなくて、気になる人はまず占う、って独特ですね(笑)そこから見えてくるものはあるんですか?」

福本「例えば、この人はこういうチャートだから晩年に成功を収めたのか、とか。いまこんなに注目を集めているのは星のめぐりが関係しているんだ、とか。いろんなことが分かるんです。私って性格的に、人生の転機に裏付けを求めたくなっちゃうのかもしれない」

木村「生き方のパターンをサンプリングしているんですね」

木村さんが処方した本は…『ありがちな女じゃない(レナ・ダナム著、山崎まどか訳)』

『ありがちな女じゃない』(河出書房新社)「共感しながらも、その人間臭さに笑ってしまう」(木村さん)
『ありがちな女じゃない』(河出書房新社)「共感しながらも、その人間臭さに笑ってしまう」(木村さん)

木村「「Netflix」では海外ドキュメンタリーやドラマが好きで、人の人生に思いを馳せるのが好き。だったらこの本はどうだろう…。著者のレナ・ダナムは、人気の海外ドラマ「Girls/ガールズ」の製作&脚本&監督&主演を務めた人って言ったらピンときてもらえるかな。『ありがちな女じゃない』は、彼女が書いた初エッセイ。自分の心をさらけ出したような体験記録であり、半自伝でもあり、全米ベストセラーになりました」

福本「「意地悪な男に弱いのには理由がある」「ダイエット、この卑猥な言葉」「私の子宮を揺るがすのは誰だ?」「ひどいことをした訳でもないのに、奴らに怒鳴られたの」…。目次を見ただけでもかなり気になるワードが!」

木村「ちっとも楽しくなかった学生時代、性暴力を受けたことを認めたくなくて自分を偽っていた過去を振り返りながら、友情やセックス、両親との関係、外見コンプレックス、仕事やフェミニズムまで、堂々と告白していくんです。異性に送って大失敗した注釈付きメールや、もっと勇気があったら送っていたかもしれないメールとかも載っていて、「うわ、分かるー!」って、その人間臭さに共感しちゃうんですよね。きっと彼女の生き様は、福本さんの占い欲を刺激すると思います」

福本さんのお悩み、その2。「ニュースを見ながら妄想してしまう」

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福本「ナチュラルコスメの中には、精神を安定させる効能を持つものがあるんです。私、ニュースなどで悲しい事件を見るたびに、「この人がもし、犯行直前にゼラニウムの香りを嗅いでいたとしたら…」なんて妄想しちゃうんです」

木村「香りには人の悪事を踏みとどませる力がある、と」

福本「大袈裟ではなくて、香りひとつで運命が変わることもあるって希望を、どうしても抱いてしまうんですよ」

木村「それは私も支持したいな。太宰治の「葉」っていう作品には、「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。」という言葉があるんですけど、私はこの言葉に何度も救われてきました。私たちの命を繋いでいるものって、きっとこれくらい単純で、他の誰かが聞いたら笑い飛ばしてしまうくらい些細なことだったりするんだろうな、って」

木村さんが処方した本は…『ワンダフル・ワールド(村山由佳)』

『ワンダフル・ワールド』(新潮社)「物語がうっとりと匂い立ってくる感覚」(木村さん)
『ワンダフル・ワールド』(新潮社)「物語がうっとりと匂い立ってくる感覚」(木村さん)

木村「『ワンダフル・ワールド』は、香りをテーマにした恋愛短編小説です。描かれているのは、簡単な言葉ではその関係を形づくることのできない、男女の物語。“道ならぬ恋”の終焉にふっと香る匂い、それに導かれるようにして立ち上がる記憶などが美しく綴られているんです」

福本「香りが呼び覚ます記憶って、なんであんなに鮮明なんでしょうね。私にも香りにまつわる思い出があるから、共感して読めそう」

木村「同じ香水でも、肌につけたときの香りの印象が人によって違うように、どの物語にも、替えのきかない「彼」と「彼女」がそこに存在している触感さえ感じられるんですよ。物語がうっとりと匂い立ってくる感覚、というか。最初に、「眠れる本が知りたい」ってリクエストをもらいましたが、これこそベッドの中で読むのにオススメです」

福本さんのお悩み、その3。「幼少時代の「変わっているね」のひと言。」

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福本「私、幼少期から「変わっているね」って言われることが多かったんです。でも一言で「変わっている」って言われても、誰と比べてどこがどう違うのか。その言葉の真意ってなんなのかを誰もはっきりとは教えてくれない。そのモヤモヤから、自分のあり方に悩んでしまっていた時期があったんです」

木村「それはいつ頃だったんですか?」

福本「ピークは美容師をしていた頃ですね。でも仕事はしなくちゃ生きていけない。このモヤモヤをなんとかしなくちゃ!と思った時、「誰も教えてくれないんなら、自分で自分のことを知っていこう」と考え方を切り替えたんです。そのときに出会ったのが「アーユルヴェーダ」の考え方でした」

木村「アーユルヴェーダはインドの伝統的医学ですよね?私、ざっくりした知識しかないので、詳しく知りたいです」

福本「アーユルヴェーダは、人それぞれの持っているエネルギーのバランスを見ることで、個人がより生きやすくなるように導いていく哲学です。具体的には、「ヴァータ(風)・ピッタ(火)・カパ(水)」のエネルギーで人は構成されていて、この3つのバランスが取れている状態がベスト。季節や体調の変化、心身の状態でこのバランスは変わってしまうんです。そうすると体の巡りが悪くなって体調を壊したり、心のバランスが崩れてネガティブになったり、人付き合いが円滑に行かなくなってしまったりするんですね。自分を「個」として知ることで、心と身体の健康を保つ予防医学です」

木村「なるほど。自分のエネルギー構成を知っていれば、バランスが崩れたなと感じたときに何を補ってあげればいいのかが分かるわけですね」

福本「そうなんです。例えば、「最近怒りっぽいな」と感じたときには「ピッタ」のエネルギーが悪化している症状。そういうときは肌荒れや消化不良も起こしやすくなっているから、塩味を控えた食事をとってたくさん眠ることを心がけよう。というように、自分の体と向き合うことで不調を乗り越えられるんです」

木村「イライラしているときって、どうしてもその原因を人のせいにしてしまいがちだけど、一呼吸おいて、対自分、対世間、を捉えられるんですね。その考え方は、人を生きやすさにつなげてくれる気がします」

「シュタイナー哲学」を機に出会った、「ナチュラルコスメ」という存在。

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福本「実は、シュタイナー哲学を学んでいるときに出会ったのが、ナチュラルコスメだったんです」

木村「シュタイナー哲学からナチュラルコスメ?」

福本「〈WELEDA〉というコスメブランドが、シュタイナー哲学の理念に基づいて開発されていることを知ったんです。香りを嗅いだとき、ふわっと心が軽くなった体験が衝撃的で。そこからナチュラルコスメを色々調べていくうちに、ハマっていきました」

木村「ナチュラルコスメにまつわるいろんな哲学が自分を知り、さらには今の福本さんをつくる存在になったんですね」

福本「はい。コスメで人生が変わるという経験を私自身がしてしまったからこそ、人に商品を紹介する時には、ものすごく正直でいたいと思うんですよね」

木村「福本さんと今日いろいろ話していて感じたのは、人を決して表面だけでは捉えない誠実さでした。それと、短い会話の中にも、言葉以上の思いがあることを想像できる人。すごく感受性の強い方なんだなって」

木村さんが処方した本は…『ラブという薬(いとうせいこう、星野概念)』

『ラブという薬』(リトル・モア)「星野さんの佇まいにはたくさんの学びを得られると思う」(木村さん)
『ラブという薬』(リトル・モア)「星野さんの佇まいにはたくさんの学びを得られると思う」(木村さん)

木村「最後にオススメしたいのは、『ラブという薬』という本です。これは、いとうせいこうさんと、精神科の主治医でもある星野概念さんが、普段の診療でどんな会話をしているかを収めた対談本。これだけ聞くと、「え、あのいとうせいこうが精神科に通っているの!?」って驚く人もいると思うんですよね。でもお二人は、それが世に伝わることこそ大切なんだと捉えていて。「誰だって怪我したら外科に行くように、つらいなら精神科へ行くのは当たり前」っていうことを、イチ患者として公開してくれています」

福本「診療室って完全に閉じられた空間だから、そこでどんなカウンセリングが行われているのか興味があります」

木村「いいなと思ったのが、自分の役割に対する星野さんの考え方。「精神科医やカウンセラーの役割は患者さんを治すことじゃなくて、その人が自分で治るのを応援することなんだ」って言うんですよ。そのために、「傾聴」と「対話」を大切にしている、って。元も子もないことを言っちゃうと、人の辛さは当人にしか分からない。でも、一緒に問題と向き合ってみて、「私はこう考えたけど、どうかな?」と提案することならできますよね。微妙なニュアンスの違いだけど、そこで「私ならこうする」「こうするべきだ」って言っちゃったら、相手を否定して自分の価値観を押し付けることになっちゃう。美容も人の生活に寄り添うお仕事だから、星野さんの佇まいにはたくさんの学びを得られると思いますよ」

カウンセリングを終えて…「本を勧めることと化粧品を勧めることって似ているのかも!」

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福本「私も、お客さまをカウンセリングしながらコスメを勧める仕事を長い間やってきたけど、木村さんは本当に凄いです。こんな本、自分一人では見つけられない!」

木村「そう言ってもらえて嬉しいです!本も化粧品も、「勧める」という行為には共通する部分があるのかもしれないですね」

福本「共通する部分?」

木村「どちらも、相手のことをまず知るために、それこそ「傾聴」と「対話」が重要なところ。「発売したばかりだから」「流行っているから」は単なる押しつけで、その人に寄り添ったものを提案していることにはならないですよね。ひとりひとり、その人の生活にはいま何が欠けていて、何を補ったら潤うのかは違う。そこに気づけるかどうかだと思うんです」

福本「確かに。化粧品の提案も、肌質に合うだけじゃだめだし、その人の気持ちまで汲み取らないといけないです。今季の流行色だからってパステル系の化粧品とかを勧めても、相手が今は落ち着きたい気分だったら、「そういうのじゃないんだよな」ってなりますもんね」

木村「朝起きたときのお肌の調子だけじゃなく、メイクに取り入れるカラーひとつでその日のテンションって全然変わるから。朝どんなコスメを選んで一日を始めるかって、健やかに暮らすために実はめちゃくちゃ重要なことですよね」

今回、ご購入いただいたのは…

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対談後、『ラブという薬/星野概念』をご購入いただいた福本さん。「自分一人ではきっと出会えなかったジャンルです。私も今度、本を出すことになったで、その参考にもできれば!」とにこやかに話してくれました。彼女のデビュー作品にも乞うご期待!

☆前回の「エッセイスト・犬山紙子さんのために選んだ一冊」はこちらから

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