言いたいコト、書きたいコトバ…混じり気ナシ! 弘中綾香の「純度100%」~第7回~

LEARN 2019.07.26

ひろなかあやか…勤務地、六本木。職業、アナウンサー。テレビという華やかな世界に身を置き、日々働きながら感じる喜怒哀楽の数々を、自分自身の言葉で書き綴る本連載。第7回は「憎たらしいあいつ」について。

「トド」

 犬が、苦手だ。道を歩いていて犬が駆け寄ってきたら、逃げる。犬を抱いている人には極力近づきたくない。犬を飼っているお家にお邪魔しても、家主の手前「可愛いワンちゃんですね」とは言うが、さわらない。近寄ってこられたら、距離を取る。それくらい苦手。もちろん一度も飼ったことがない。

 犬が嫌いになった理由は、およそ20年前までさかのぼる。「トド」が原因だ。トドというのは、私が小学生の時に住んでいたマンションの上の階に住む人が飼っていたテリアで、全長が1m50cmはあったと思う。小学生の私よりも大きく、そして、誰がどう見てもトドは私のことをナメていた。
 私は下の階に住んでいる同級生のゆかちゃんと学校に行っていたので、ゆかちゃんの家に行くために朝エレベーターを待っていると、散歩に行くトドと飼い主に鉢合わせすることが多かった。トドは、エレベーターのドアが開いて、私が待っていると分かった瞬間に「ブォウブォウ」と吠えてくる。エレベーターが揺れるくらいの大きな声で。飼い主のおばさんがなだめても、全くお構いなし。リードを振り切って、前足を私の肩にかけようとしてくる。恐くて同じエレベーターには絶対に乗らなかった。一刻も早くドアが閉まることを願うばかりだった。自分より体格の大きい犬に襲いかかられそうになる…トラウマになるのも納得できるだろう。
 百歩譲って吠えるだけなら、許そう。許せないのは、このトドは私が親と一緒にいる時には吠えないのに、私がゆかちゃんといる時や、一人の時だけここぞとばかりに吠えてくるという点だ。飼い主や大人にはクンクンとすり寄っているクセに、自分より弱い子どもには力まかせに向かってくる。瞬時に自分より格上か格下かを見極めて、態度を変えているのだ!当時、下唇を噛みながら思った。こんな性格の犬とは友達になれない。このトドとの出来事が私の犬に対するイメージを屈折させたことは間違いない。

 そのあとも極力犬とのふれあいを避けて大人になってしまったので、昨今の「可愛い」の代名詞のようなチワワやトイプードルといったような小型犬も、いつ手のひらを返してくるんだ、と身構えてしまう。常に気を張っていないと、してやられるのではないかと思う。もちろん可愛いなんてひとかけらも思えない。
 トドめ、いま思い返しても憎たらしい犬だ。中学生になって登校時間が変わり会うことがなくなったが、強烈なトラウマは私に植え付けられた。あれから20年、トドはもういない。もしいま再会できたとしたら、トドはどんな態度をとるのだろうか。私のことを大人と認めてくれるだろうか。それともまだ吠えられるのだろうか。どちらにしても「お前のせいで犬嫌いになったよ」と、ひとこと文句を言ってやりたい。

Photo:moron_non
Photo:moron_non

(次回は8月9日更新予定)

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