「長すぎる」| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第67回

「長すぎる」| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第67回
「長すぎる」| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第67回
LEARN 2025.04.30
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Yasuyo Tanaka(cheek one)

人生、あまりにも長い。働きながら大学に通っていた頃がもう10年以上前のように感じるけれど、数えたらまだ5年しか経っていなくて愕然としている。尚、この5年に暇な時間はほとんどなかった。濃厚で刺激の強い日々に戸惑いながら、体力や根気や探究心を総動員させて生きてきたはずなのに、「20代なんてあっという間だよ!」「若い頃は良かったなあ」と還暦前後の先輩方がたびたびおっしゃっている言葉を全く理解できずにいる。10代にも20代にも戻りたいと思うことが1ミリもない。

「社会に出てたかが十数年の経験や知識だけで物事を理解した気になるのは本当に良くない」という前提がありつつ、人は何回も同じようなことを繰り返しながら生きていくのだと思う。頑張る前からおおよその結果が何となく見えるようになり、次に必要な行動も頭では分かるようになる。「こうしたら大体こうなるだろうな」を目指し、「こういうこと前にもあったよな」と過去の記憶を追体験していくと、及第点くらいまではいける。だが私のような楽しくないと頑張れない典型的な自営向き人間は、この永劫回帰を感じてしまったら最後。退屈という病を発症し、「長生きしてもなあ」という思いに捕まりがち。だって長いんだもの。ここまで来るのに何周してるんや。タイムスリップなんて絶対イヤ。断る。

実際に長生きできるかどうかは別として、日本人女性の健康寿命は2022年の推計で75.45歳。どうやってこの永劫回帰を楽しく進めていくかによって確実に体感速度が変わる。SNSばかり見ていると近い未来しか見えなくなってきたりもして、考える時間の短さも退屈につながるのだろう。裏を返せば、一筋縄では解釈不能な事柄に向き合ったり、やったことがないことをやってみる時間を増やすと、精神的に満たされるのでは? もしかして、「やりたくてやってるけどしんどい、でももっと大変な人もいるし、恵まれているのも分かってる。がむしゃらな姿勢を褒めてくれる人もいる。だからキツイって言えない」みたいな辛さや苦しさを「まあ好きでやってるからな!!!!!」の一点突破で制圧しようとしている自分を、救えるのではないか?

思えば、社会性は徐々に身につき始めているのに実績や人間関係がまだ積み重なっておらず精神的な余裕がなかった10代のうちは、時間稼ぎの一環として貪るように本を読み、脳内では常に旅をしていた。ウユニ塩湖の水平線から昇る朝日、イエローナイフの夜空に広がるオーロラ、サマルカンドの青く壮麗なイスラム建築、シュトゥットガルトの世界最大のクリスマスマーケット。どの作品で知ったのかは正直記憶にないが、知らない世界を知っていくことこそが生きる面白さなのだと学んだ。あんなに世界地図を眺めながら過ごしていたのだから、肉眼で見るまで死ねない。

今の仕事はできれば長く続けたいと願うものばかりだけど、キャリアプランなんてほとんどあってないようなものだし、自分の思いへの諦めや手放しにも慣れてきた。仮に仕事が全部なくなった時のことを想像してみると、案外楽しく暮らせそうで安心している。海外はすぐには行けないけれど、大層なものばかり求める必要はない。自分の生まれ年に連載が始まった漫画『ONE PIECE』を1巻から読んでみたり、中学受験まで数ヵ月だけ習っていたギター、20歳前後で独学していた中国語など、中途半端にかじってきたことをやり直すのもあり。

仕事を第一に考えてきた結果「都心を離れる」という発想にずっと至らなかったのだが、船舶免許を取って釣った魚を捌いたりしながら離島に住むのも憧れる。東京育ちで働き始めるのも早かったからか、海の見える家の縁側で本を読みふける、みたいな時間にはものすごく飢えている。本名と顔を晒して公人扱いの仕事をやっている限りは法で定められた刑罰以上に社会的制裁の方が怖いので(何が起きるか分からないから)、自分で車の運転なんてしない方が良いのでは、と考えてしまっていたけれど、その抵抗感もだんだん薄れていくのかもしれない。

体感速度が遅かれ早かれ、人間は皆等しく老いていく。どうせ気づいたら毎日体のどこかが痛かったり(今も肩痛い)、好物だろうが何だろうが食べられる量が減るし(今もラーメン1杯ですら厳しい)、ちょっとした階段を上っただけで息切れするようになる(今も……)ので、最低限の健康管理だけは気を使っておこうと思う。まもなく28歳、もはや予定調和の退屈さには忌々しさすら覚えるので、そこを脱却する瞬間を欲している自分がいる。楽しく新鮮に生きていけますように。

トップス 23,980円、ベスト 35,970円、パンツ33,990円(全てユナイテッドアローズ |ユナイテッドアローズ 新宿店●050-8893-4220)/ソックス 550円(靴下屋|タビオ●0120-315-924)/スニーカー19,800円(アシックス|アシックスジャパン カスタマーサポート部 https://www.asics.com/ )/リング110,000円(プリーク|エイチ ビューティアンドユース●050-8890-9491)/バッグ157,000円(キキイトウ|office. koizumi.  contact@officekoizumi.com

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