自分への誕生日プレゼント選び。半年待って買ったバッグや、腕時計の話|前田エマの、日々のモノ選び。#16 

自分への誕生日プレゼント選び。半年待って買ったバッグや、腕時計の話|前田エマの、日々のモノ選び。#16 
自分への誕生日プレゼント選び。半年待って買ったバッグや、腕時計の話|前田エマの、日々のモノ選び。#16 
LEARN 2024.09.17


30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第16回目は“誕生日の買い物”について。 

9月になった。私が生まれた月だ。実は12月に産まれる予定だったと聞いたのは20歳の時で、母から漆の箱をもらった。 

そこには、私が産まれてから退院するまでの数ヶ月間、看護師さんと母との間で交わされた日記帳や母子手帳、へその緒やエコー写真などが入っていた。 

その時に「ああ、誕生日があるっていいな」と思った。何かを伝えたり、贈ったりするいいきっかけになる。 

しかし、私は誕生日を祝われるのがあまり得意ではない。祝ってもらえるというのは本当に幸せなことだと思うのだが、サプライズなどのリアクションに困ってしまう。 

それに、私にとっては特別な日だが、他人にとってはいつもと変わらない普通の日なので「えー!今日誕生日だったの?!知らなくてごめん!何も用意していないの……」なんて言われちゃうと、どうも申し訳ない。 

なので、なるべく誕生日を他人に伝えないようにして、そういう事態を避けて生きている。そうなると、親しい友人たちも私の誕生日がうろ覚え。3ヶ月遅れで祝われたことも何度かある。それくらい適当な方がありがたかったりもする。 

考えてみると20代の頃は欲しいもので世界が溢れていたのに、ここ数年は物欲がだいぶ減った。物を買うよりは、旅や留学、スポーツや習い事などにお金を積極的に使うようになった。 

そんな私にとって、誕生日は買い物を許せる理由になっていると感じる。 

私は自他ともに認めるケチなので「それなら誕生日にも物を買わなければいいじゃないか」という気持ちがないわけじゃない。しかし時にはガツンと買い物をしないと、心がしょぼくれていってしてしまう気がする。自分にとっての“いいもの”を揃えていくことは、心を整えることになる場合もある。 

ケチであるが故に、私は物の“終わりどき”や“買うべき時”を見極めるのが下手だと自覚している。そんな私の背中を押してくれるのが“誕生日の買い物”なのだ。 

手入れして使っていても、どうしても傷んでくるし、使い込んでいる様子が素敵に見える場合もあるけれど、貧相だったり、みすぼらしく感じられるときもある。 

半年待って買った〈アーツアンドサイエンス〉のバッグ 

初めて自分で自分の誕生日のために買ったのは、〈アーツアンドサイエンス〉の《Simple bowling bag mini》だ。 

20代後半だったと思う。お店に行って一目惚れし、しかし買う勇気が出なくて、家に帰ってうんうん悩み、後日お店へ行ってみると「半年ほどの入荷待ち」と言われた。 

私はそこで少しホッとした。半年の間、お金を稼いで貯めることができる。 

すぐに手にするよりも、バッグを待つ間に、想いのようなものがより一層強くなっていった。 

30歳になった時に買った、〈IENA〉と〈SEIKO〉がコラボした腕時計 

30歳になった時、腕時計を買った。 

それまではずっと、祖父が愛用していたという〈クレドール〉の時計を、祖母から譲り受けて使っていたのだが、ある時からすぐに止まってしまうようになった。 

その度に、何度も修理店へ行っていたのだが「もう、これはダメかもしれないですね」と言われ、新しいものを見つけなくてはと考えはじめた。 

〈カルティエ〉の《タンク》がいいなと思い、いろんなヴィンテージウォッチの専門店へ行ってみたのだが、しっくり来るものとはなかなか出会えなかった。しかも時間が経つほどに「ヴィンテージウォッチは修理やメンテナンスが大変そう…」と思い始めた。 

しかし新品は、すごく無理をしないと買えない値段……。 

そこまでするほど情熱や覚悟があるわけではないなと思っていた時に出会ったのが、〈IENA〉と〈SEIKO〉がコラボしていた腕時計だった。 

保証もしっかりしているし、私の祖母も母も〈SEIKO〉の時計を使っているので、それも何だか嬉しく、私にはちょうどいい買い物だと納得することができた。 

それから2年ほど経つが、毎日のように身につけているので、つけ忘れた日にはソワソワして落ち着かない。それくらい私に馴染んでいて、満足する買い物だった。 

プロフィール
前田エマ
前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。6月20日に韓国カルチャーガイドブック『アニョハセヨ韓国』(三栄)を刊行。
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