子供の頃読んだ絵本から憧れた、セーラーカラーの洋服|前田エマの、日々のモノ選び。#14

子供の頃読んだ絵本から憧れた、セーラーカラーの洋服|前田エマの、日々のモノ選び。#14
子供の頃読んだ絵本から憧れた、セーラーカラーの洋服|前田エマの、日々のモノ選び。#14
LEARN 2024.08.15


30代という年齢は、“モノを選ぶ眼”が育ち養われてくる年齢ではないだろうか?流行りものやブランドものではなく、自分が心地いいモノを選びたい。生産の背景を知り好きになるモノだったり、多少値が張っても人生をかけて大切にしたいと思えるモノだったり…。そういった視点でモノを選ぶ前田エマさんが、ご自身の私物とともに「モノの選び方」について綴る連載です。第14回目は“セーラーカラーのお洋服”について。

買い物のちょっぴり悔しい経験というものは、誰の心の中にも残っているものなのだろうか。

大学生の頃だったと思う。

原宿の古着屋さんで、セーラーカラーがデザインされたワンピースと出会った。

セーラーカラーというのは、水兵服に由来する襟のデザインのことだ。

その時に惹かれたのは、白色のワンピースに、紺色のラインが施されたもの。

値段は1万円と少し。

それは当時の私にとって、財布をサッと差し出すには、少し悩む絶妙なライン。

「白色の服は汚れるしなあ」という気持ちもあって、試着までしてみたが一度店を出た。

しかしその後、原宿をぶらぶらしていても、家に帰ってからも、ずっとあのワンピースが頭から離れない。

その日の夜、やっぱり買おうと心に決め、翌日再び店に向かったのだが、もうそこには無く、幻のワンピースとなってしまった。

その古着屋さんには、それまでも何度か足を運んだことがあって、そこで買った白いレースのワンピースは、今でも直しながら着続けている。

古着は一期一会だと言うが、セーラーカラーのワンピースを買い逃した思い出は、それを実感した出来事となった。

あの日から、セーラーカラーの服を見ると、なんだか胸がざわつく。

そして、もうあんな後悔はしたくないと、財布の紐が緩みがちだ。

ここ数年、私が大切に着ているのは、〈olive〉で購入したセーラーカラー。

ひとつは、黒色に白いラインが施されたトップスだ。

白と黒のリボンを付け替えて、雰囲気を変えてみたり、リボンを外してそのままカジュアルに着たり。

袖がパフスリーブなところも、ガーリーで気に入っている。

もうひとつは、水色のノースリーブワンピース。

私にとって、夏の制服のような一着だと言っても過言ではない。

とにかく爽やか。

可愛らしいのにシンプルなデザインで、飽きがこない。

私は水色の服が好きなのだが、なかなか本当に気に入る水色と出会えないので、嬉しい買い物だった。

olive〉は、ものづくりをしている姉妹ユニットだ。

お姉さんのさつきさんが食を担当していて、妹のひとみさんが衣服を担当している。

不定期でイベントを行っていて、お姉さんの作ったお菓子や喫茶と、妹さんが作ったお洋服などが楽しめる。

私が購入したセーラーカラーの服たちは、妹のひとみさんがひとつひとつ縫って作ったものだ。

先日、ひとみさんの個展に伺った。

そこでは彼女たちのお母様が、お二人が幼い時に縫い上げたお洋服たちと、ひとみさんがその服たちを再解釈し、今のご自分のサイズでデザインし直したお洋服たちが、インスタレーションのかたちで一緒に展示されていた。

ひとみさんの服に、私はなぜ惹かれるのだろうと考えてみると、そういった幼少期の体験が、創作の根源にあるからなのだろう。

私は昔からセーラーカラーの服が好きで、それは幼い頃に繰り返し読んだ絵本の影響だと思う。

『マザー・グースのうた第1集』(詩人・谷川俊太郎さんの訳と絵本作家・堀内誠一さんの絵)に、セーラーカラーを着た子どもたちが出てくるのだが、その姿に何度憧れたことか。

その他にも『素晴らしい季節』(ターシャ・テューダー)という、ひとりの少女の1年間を描いていた絵本には、季節ごとに違った服装を楽しんでいる少女の姿が本当に魅力的なのだが、ひとみさんの作るお洋服たちは、まるでそこから飛び出してきたような世界観なのだ。

年齢を重ねても、たいして好きなものは変わらないのだなあと、これを書きながら思ってみたりしたのだが、自分が好きなものを好きなように着る自由と、その年齢、時代、体型、生活などに合わせながら楽しめるよう人でありたい気持ちとが、いい具合で混じり合いながらやって行けたらいいなと思う。

プロフィール
前田エマ
前田エマ

1992年神奈川県生まれ。東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーの留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。アート、映画、本にまつわるエッセイを雑誌やWEBで寄稿している。2022年、初の小説集『動物になる日』(ミシマ社)を上梓。6月20日に韓国カルチャーガイドブック『アニョハセヨ韓国』(三栄)を刊行。
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