小池栄子のお悩み相談室 最終回:「悩みとはどう付き合うべきか」
本日のお題
悩みとは一体なにか?
どう付き合うべきか?
――小池さんにはこれまで、たくさんのお悩み相談を受けていただき、ありがとうございました。それらを踏まえて、いま“悩み”について思っていることはありますか?
いろいろな種類の悩みがありましたが、振り返ってみると、全体を通して自信がなくて1歩踏み出せない人が多いんだな、という印象です。自分のことについてもそうだし、他人との関わり方についても自信が持てないから、どんなふうに対処したらいいのかわからないんだろうな、と。
――自信のなさが悩みを大きくしてしまう、というのは納得します。小池さんにもそういう時期がありましたか?
若い頃はやっぱりそうでした。でも、自信って経験に伴うものであり、しんどいことを乗り越えた先で手にするものなんでしょうね。
――それを実感したエピソードはありますか?
日々経験を重ねて、時間をかけることで自信が生まれるとすれば、いつこの時がこうとは言えないですが…ひとつ言えるのは、若い頃に先輩たちから厳しく教えてもらったことが今につながっているなということ。それも、ただ厳しく指摘するだけではなく、ちゃんと手を差しのべてもらいました。その方々のことはずっと忘れられないし、今でも感謝しています。
――怒られっぱなしだと自信を失う一方ですもんね。すくい上げてもらうことで、少しずつ自信に繋がっていったんですね。
はい。それに、自分をちゃんと見てくれている人がいるとか、味方がいるんだと思えるだけで、前を向いて歩いていけそうな気がしますよね。
――経験とキャリアを重ね、いま小池さんは手を差しのべる立場にもなったわけですが。
そうですね。若い役者さんの中には、撮影現場でベテランの方々に囲まれると萎縮しちゃう方もいます。なので私は、若い子にはなるべく声をかけるようにしていますね。連ドラだと3~4か月一緒にいるわけですし、せっかくなら楽しい思い出にしてもらいたくて。今の若い子って他人と直接会って話す機会が減ったり、交流が少なくなって、自信をつける機会が減っているのかもしれないですね。だからこそ、自分の経験からも、年上から手を差しのべるべきだなと思っていて。
――若い子たちとどう接していくかという新たな悩みも出てきたのですね。
はい、いくつになっても悩みは出てくるものだし、尽きないんじゃない? でも“悩む”こと自体が、前進している証拠だと思うんです。だって自分がもっとこうありたいとか、自分のマイナス面をこう改善していきたいと考えて悩むわけですから。悩むこと自体は全然悪いことではないし、何かを掴もうと必死に生きている証拠。逆に、自分はもうこれでいいと悩むことをやめた人は、成長が止まってしまうような気がします。
悩みは解決しなくても、苦しい気持ちを
ごまかす方法は持っておくといい。
――人は悩み続けるのだとしたら、どうやって悩みに向き合ったり、付き合っていくのがいいのでしょうか。
一番良くないのが、他者のせいにして悩み続けること。そうではなくて、悩むと同時に、自分が変わっていかなければいけないと思います。そのためには、自分の悩みの状態を俯瞰で見られるようにしておくことも大事かと。
――悩むのが趣味の人っていますもんね。
悩みの中に閉じこもって「辛い、どうしよう」と言い続けているなんて、時間がすごくもったいないし、解決策は自分で見つける努力をしないと。私は、よく知っている友人がそうだった場合ははっきり言ったりもします。例えば「痩せない、痩せない」って3年間言い続けていた友人がいるんです。その子が深刻な顔をして“痩せなくて悩んでいるんだよね…”と口にしたとき、「やるやる詐欺と同じだね。これが仕事だったらとっくに信用なくなっているし、もしかしたら、さよならしてるかも(笑)。今度は痩せてから会おう!」って言いました。
――ズバっとおっしゃいましたね!親しくて、その人を大事に思っているからこそ言えることですね。そうしたら、お相手はどんな反応を?
しばらくして連絡が来て「1キロ痩せました!」って。だから「おめでとう、じゃあお茶しようよ」って返しました。そんなことを経て、時間を割いて悩みを聞いてもらうなら、その友人のように結果を出してちゃんと報告したいなって思ったんです。悩みとはいえ、自分の発言には責任を持たないと。
――なるほど。
あとはグループLINEで、「最近全然やる気が起きなくて、もう自分には何もできる気がしない」って悩んでいる子がいて、別の子が「でも、今日も健康に生きていてくれただけでありがとうだよ」って返していたのを見て、いい言葉だなって思いました。その子もその言葉で少し楽になった感じだったから。
――素敵な言葉です。
ありきたりですけれど、いま健康で明日がある私はどれだけ幸せなことだろうと思うんです。たとえ仕事で落ち込んだり悩んだりしても、それは生きている証であり、感謝すべきことだなぁと。
――悩みに振り回されずに、そう思えるようになったのはいつ頃からですか?
経験と年齢を重ねて、仕事で責任ある立場になってきた頃。一人でくよくよして前に進めないことが、いかに周りに迷惑や心配をかけるかに気づいた時かな。30代後半ぐらいです。
――悩みとの向き合い方も変わってくるんですね。ちなみに、日々生まれる悩みとはどう向き合うのがいいのでしょうか。解決しないままだと、やっぱり辛いですよね。
もちろん真正面から解決策を探るのも大事。と同時に、心に溜めているものを発散して、自分が救われる方法は何かを知るといいと思います。美味しいご飯を食べることでスッキリする人もいるし、自分の気持ちが落ち着く場所を探すのもいい。悩みはすぐに解決しなくてもいいから、とりあえず、自分の苦しい気持ちを逃す、あるいはごまかす方法は持っておくといいと思います。ちなみに私の場合、ドラマや舞台など作品に入っている期間に繰り返し聴いている曲があります。
――その曲とは?
ミュージカル『アニー』の主題歌『TOMORROW』。いろんな人のバージョンを聴いていますが “ブリテンズ・ゴット・タレント”に出たシドニー・クリスマスの『TOMORROW』が最高で、寝る前に毎日聴いています。彼女の歌うこの曲を聴くと、明日も頑張ろうと思えるんですよね。
――確かに前向きな歌詞ですもんね。でも毎日聴いていらっしゃるとは!
毎日同じ曲を聴いていると、自分の気持ちの波がすごくわかるということに気づいたんです。“落ち込んでいる今日は、この曲がすごく励みになっている”とか、あるいは“今日はいいことがあったから明るい気分で聴けている!”とか。そうやって自分の心と向き合っているのかも。
――すごくいい方法ですね。そして、悩みは解決しなくてもいい、と言われるとなんだか救われる気がします。
すぐに解決する問題もあれば、何年かかっても解決しない問題もある。そこで焦ってしまうと自分が苦しくなるだけだと思うんです。今日はもういいか、って思える手段を持つのはいいことです。それにあえて外に出て、親しい人にグチっているうちに初めて自分が抱く感情に気づいて、一歩前進するかもしれませんし。
――親友とか信頼している仲間の言葉に救われることは、大いにありますよね。
人生で一番悩んだ時期に、信頼する仲間から「栄子なら大丈夫だよ」って背中を押されたことで、一歩踏み出せたという経験があるんです。次は私がそういう言葉を誰かにかけようと思いました。時代に寄り添えるようにアンテナを張りながら、時には厳しい言葉や、応援するあたたかい言葉も、両方あげられる人になりたいですね。
――素晴らしいお話をありがとうございます。最後に、小池さんにとって“悩み”とは?
役者という仕事をしているのも関係していますが、悩んだ時の自分の感情や、複雑な気持ちも、いつか何かのために役立つと信じています。つまり悩むことは、自分の成長にも繋がる。だから“悩んだら、ラッキー”と楽しむべきだと思っています。
こいけ・えいこ/1980年11月20日生まれ、東京都出身。俳優として舞台、映画、TV、CMなど幅広く活躍。近年出演した主な作品は、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、主演ドラマ『コタツがない家』ほか多数。現在放送中のドラマ『新宿野戦病院』では仲野太賀とW主演を務めているほか、Netflixにて『地面師たち』が配信中。
Photo : Syu Yamamoto text : Aya Wakayama