上出遼平「生まれたときから余生。生きてるうちに、やりたいようにやる」| 連載【Age,35】 #6
35歳。まだまだ先も長いけど、けっこう生きてきた気もする。35歳は長い人生の中で一つの区切りだったり、ステージが変わる、あるいは踊り場のようなものかもしれない。人間関係、恋愛、親、家族、人生観の変化...。今を生きる35歳の人々は、なにをどんなふうに考えているのか?
今回、お話を聞いたのは映像ディレクター、作家の上出遼平さん。テレビ東京を辞し、ニューヨークに居を移し、映像のみならず文筆業もこなしているが、35歳にして「これまでのんびりしすぎたかも」と。その心は?
「出し惜しみする人にいいものを作れる人はいないですから」
いつの間にか20歳になり、30歳になり、35歳になり、という感じですね。ただ、これまでよりもちょっとゾッとするかも。死が近づいているようで切迫感があるというか、これまでのんびりやってきちゃってるなと改めて感じます。
のんびり、というのは仕事の話です。といっても自分の欲望を満たすことでもあるので、自分自身の話とも言えますね。欲望というのははっきり2つあって、ひとつは旅をすること。そしてもうひとつは人を驚かすこと。この2つのことに時間を使いたいから、趣味じゃなくて仕事でやる。そのためにやれること、やりたいことはいくつもあってこのままじゃ時間が足りないぞと。それに今でも「ハイパー」(『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京系)のことを言ってくれる人もいるけれど、嬉しい反面、まだあれを越えられてないんだなとも思います。
33歳でテレビ東京を退社してからは、映像ではある程度好みのスケール感、つまり少数チームでの制作ができているし、本の執筆など新たなチャレンジにも取り組めています。会社では本当にうまくいかない時期もありました。組織は効率が命で、属人性を嫌う。でも人を驚かすのには属人性は欠かせない。そのジレンマにハマった時期ですね。一方で、7日間24時間働き続けるような、完全に限界を超えている日々もありました。でも結局忍耐がクオリティを高めるんですよ。出し惜しみする人にいいものを作れる人はいないですから。
とはいえ経験を積んで知恵はつくけれど、体力は減っていく。焦りが募りますね。
心地悪く、エネルギッシュなニューヨーク暮らし。
昨年からニューヨークで暮らしています。NY、かっこいいぞと思って(笑)。あと移住にあたっては心地悪いところを選ぼうとは思っていました。やっぱり体力がないといられませんから。実際、心地悪いですよ(笑)。なにもかも速いし、高いし、激烈な人ばかりが揃ってる。と同時に、ポジティブなエネルギーに満ちた街でもあります。とにかく何かに挑戦している人ばかり。僕自身、日本では超ワーカホリックみたいに言われることもありますが、ニューヨークではごく普通の存在です。現地だと「日本人は99%成功が見えてないと手を付けない」と聞きます。それで言うと、彼らは10%成功する可能性があればやってる、というくらいとりあえずやってみるという感じで。「ニューヨークでは」「では」って出羽守にはならないようにしようって決めてたんですけど、でも、無理です(笑)。
たまに帰ってくると、日本は安全だし安い。でも人のエネルギーはない。ちょうど『マトリックス』のような世界だなと感じることがあるんです。家畜化された末の心地よさのなかに生きているみたいな。劇中のキアヌ・リーブスよろしく頭に繋がったクダを抜いてみたら? と。人生に焦りを感じる35歳くらいの時期は、クダ抜きにうってつけのタイミングかもしれませんね。
『ありえない仕事術 正しい“正義”の使い方』上出遼平/著 ¥1,650(徳間書店)
「世に出ている『仕事術』なんて噓ばっかり」と綴る上出さんによるビジネス論。全二部構成で、前半は成功・幸福・睡眠などをテーマに据えた総論的な仕事論。後半は「チーム編成」「進捗報告」など制作日誌のスタイルを借りたいわば実践編。