蛙亭イワクラ「なんで相方が男なんだよ! 」 | 連載【即断すぎて周りがとめる】 vol.3 LEARN 2024.02.12

蛙亭イワクラさんは一見おっとりしているようだが、実は意志が強く、即断即決の人(早すぎて周りが「ちょっと待って、一回考えよう」と止めることもあるそう)。でも「イワクラを見ると周りが何かしてあげたくなる」ようなほっとけなさもある。「お笑いが人生を楽にしてくれた、自由にしてくれた」という彼女が見てきた景色、最近思うことについて少しずつ話してもらう連載です。
イラストはコンビの相方、中野周平さんが担当。

相方との出会いも直感だったし、彼と別れたのも直感でした。

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 大阪のNSCに入ったのはハタチのころ。高校を出てから2年間、せっせとバイトをしてお金を貯めて入学しました。
  バイトの時給ってやっぱり地域格差がものすごくあって。わたしの地元・宮崎は、東京や大阪といった大都市やその近郊と比べると2割ぐらい安く、最低賃金ランキングではワースト10にいつも入るほど。わたしがバイトしていた当時で600円代だったかな。その中でいちばん高かったのが焼肉屋さん。1000円だったんです。接客が苦手だったんですけど、なんとか踏ん張りました。毎日毎日「声が小さい!」って怒られながら。
  あと、もうひとつバイトを掛け持ちしていました。交通整理のバイトです。ただ、朝9時から夕方5時まで、毎日毎日、雨が降ろうが槍が降ろうが外に立つだけ。冬も夏も、寒いし暑いし、田舎だから家畜や堆肥の匂いを嗅ぎながら。で、交通整理のバイトが終わると、夕方6時から焼き肉屋さん。そういう生活を2年間続けました。結構、地獄でした。でも、夢に向かってがんばってると思えば、ぜんぜん苦ではなかったんです。
  相方・中野周平とはNSCで出会いました。NSCは、もともと同級生や友だち同士で入ってくる人が多く、わたしは1人で入学したので、相方を見つけることがなかなかできなかった。陽キャの人なら誰かをすぐに誘ったりもできる。でも、わたしはなかなか。まず、人とすぐに仲良くなれない。謎のプライドもある。だから逆に、誘われると断ってしまったり。女の子に誘われたこともあるんです。5人組でやろうよって。でも、それだとわたしの思い描く笑いとは違ってしまう。人に対して強く出られないのに、イヤだと思うとすぐ逃げてしまうんです。
  そんなときに、「相方探しの会」で出会ったのが中野でした。1ヵ月ぐらい何人かで一緒に遊ぶうちに、やさしいし面白いし、この人となら自分を褒めてもらえるからいいなって。というのも、彼はわたしのことを「面白いね」っていつも言ってくれてたんです。あと、男女でコンビを組むのはまだ珍しい時代。インパクトもあるし憶えてもらいやすい、というのもありました。ただ、当時付き合ってた彼からはめっちゃ文句言われました。「なんで相方が男なんだよ!」って。
  彼とは宮崎から一緒に大阪へ来たんです。わたしが「NSCに入るから大阪に行く」というと、「じゃあオレも大阪行って仕事をして支えるわ」って。でも、結局、すれ違うことが多くなってしまったんです。彼は目標もなく大阪にいるだけだったし、わたしはわたしで毎日NSCが楽しくて、面白くて、夜遅くまでネタ合わせをするから家に帰ってこない。だんだん喧嘩や揉めごとが多くなっていって。そして、わたしが将来も芸人としてやっていきたいと言うと、「え? オレと結婚するんじゃなかったの?」って。彼は、わたしが大真面目に芸人を目指してるとは思ってなかったんです。
  もしかして彼と結婚したほうがいいのか、と一瞬思ったりもしました。コンビを組んだとはいえ、デビューしたわけでもないし、それで仕事をしてるわけでもない。やめることもすぐできる。でも、それは「違う」と思ったんです。
  めちゃくちゃ直感で動くタイプです。相方との出会いも直感だったし、彼と別れたのも直感。人生の岐路に立ったとき、我ながらいい選択をしてきたなと思います。ただ、大事な決断をすぐにパッと決めようとするところがあるので、「一旦落ち着け」というのは周りからよく言われることでもあって。なので、最近は、同期や先輩に相談するようにしてるんです。
  元彼は、わたしと別れた後すぐに結婚し、いまは幸せに暮らしていると聞きました。わたしにとっても彼にとっても、あのとき結婚という選択をしなかったのは正解だったとつくづく思いますね。
イワクラさんと中野周平さんは「相方探しの会」で知り合い蛙亭を結成。NSCの同期には、オ
ズワルド、空気階段、さや香、コットン、隣人といったコンビも。
イワクラさんと中野周平さんは「相方探しの会」で知り合い蛙亭を結成。NSCの同期には、オ
ズワルド、空気階段、さや香、コットン、隣人といったコンビも。
illustration_Shuhei Nakano(kaerutei) edit_Izumi Karashima

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