フランクな愛って難しい!?/小山テリハの「人生は編集できない」
テレビ朝日プロデューサー、ディレクターの小山テリハさん。自分や後輩の女性たちが少しでも生きやすく、でも面白い(ここ、重要!) 番組を作るために奮闘中の彼女が綴る、日々の悩みや疑問。第7回目は今、大活躍中の「あのちゃん」をテレビのバラエティ番組でMCに大抜擢した伝説の番組「あのちゃんねる」復活について。いっときの熱烈な「愛」もあるけど、長〜く寄り添うのも「愛」なのかもしれない。
「あのちゃんねる」が先日、復活した。
なんのことやらという方も多いかもしれないが、私にとってはとても思い入れのある番組で、放送されたのは2020年10月、テレ朝深夜帯に「バラバラ大作戦」という20分の番組ゾーンができた最初のタイミングだった。
今やテレビで大活躍の「あのちゃん」の初の冠番組で、番組内容は一言でいうと、あのちゃんが色んな事に挑戦するバラエティ。ティモンディ高岸さんとキャッチボールをしたり、ノーカットで動物園を走り回ったり、習字や粘土工作をしてもらったりと自由な内容だった。
地上波での放送は約1年間だったが、番組でやりたいと思うなるべく全部を詰め込んだ。アクスタや独特なアートの額縁など番組グッズをいち早く作成したり、EXシアター六本木でのイベントやCSでのスピンオフ放送など、誰がどう見てもライフワークだとわかるくらい、あのちゃんねるは、私の愛が暴走する形でいろんな人を巻き込みながら突き進み、展開された番組だった。
そして先日ようやく、テレ朝の公式YouTube「動画、はじめてみました」で晴れて復活した。
執着していると聞くとゾッとするけれど、愛が深いと聞くとなんか耳心地がよく感じる。コンテンツに関わる仕事は多分愛がないとやってらんない。人に関わる仕事もきっと同じで、マネージャーは、タレントのことを深く愛してると思う。お金だけがモチベだと、ハードな仕事はなかなか続けられない。
テレビ番組は、流動的だし、サイクルが早い。1クールごとに新番組が並ぶし、どんな人気番組でも「永遠に枠が決まってるんです」なんて聞いたことがないし、1回で終わってしまう特番は数えきれないほどある。
「終わらないことを目標に頑張る」というのは、結構孤独な戦いだ。目指すわかりやすいゴールがあるわけでなく、終わらせないためにヒットを狙う。終わりのない戦いをするために、戦う。
「終わった時に打ち上げができるドラマがうらやましい。バラエティの打ち上げって、行われるときには終了ってことだから、どうしてもしんみりしちゃう。」よくバラエティ制作の現場では耳にする話だ。ゴールした達成感よりも、もう走れない喪失感のほうが大きいに決まってる。
番組は我が子と同じだ。生まれたからにはたくさんの人に愛されてほしいし、できるだけ長生きしてほしい。存続するためならば、もはや放送される媒体や手段は選ばない。そう思ってしまうほど、私はあきらめが悪く執着してしまう。でもそれは組織や会社にとってあまり必要がない感情だということ、頭ではわかっているが、心の整理はついていない。
自信満々に世に送り出した番組のリアクションがイマイチだったことへの反省として、まだこのコンテンツや演出方法は世の中的に早すぎたんだとか、若干尖ってしまってたなとか、時代が追い付いてこなかったんだと思うことがある。(負け惜しみっぽく聞こえるけど)
「あのちゃんねる」は、私が一貫して「スタンスを貫き続けた」番組だった。競争が激しい中で、「媚びない」ことに徹した。彼女を心底信頼している、私なりのプライドだった。
放送が終わってしばらくしてからも「伝説の番組」とか「DVDボックス化希望」と根強く言っていただくことがあって、あのちゃんが今テレビで見ない日はないほど活躍してて、私は「時代が追い付いたってこういうこと?」とか思ったりした。
そしてどうしても番組を復活させたかった私は、しつこくしつこく可能性を追い求めていった。時間はすごくかかったけれど、執着したしつこさが、いや深めの愛が、どうにか再始動までたどり着かせてくれた。これも一人ではなく、周りにこの感情を一緒に持って動いてくれた人がいるおかげ、そして待ってくれてる人がいるおかげだった。一人ではきっと、果てない作業の道のりの長さに心折れていただろう。
愛の深さは、失わないと気付かない。
恋人と別れた後の景色がなんだか寂しく感じたり、いなくなったら、意外と自分が楽しんでいたんだなと気づくように。番組終了のニュースが流れて、「終わらないで」と声を上げてもそれでは遅い。別れようとどちらかの心が冷め切った後に修復が困難なことよりも、よっぽど。
先日「あのちゃんねる」の復帰後、初ロケを行った。
あのちゃんと会ってなかったわけでもなかったけど、それでもやっぱり「あのちゃんねる」の撮影で会うのは特別だった。
あのちゃんはあれからいろんな番組に呼ばれていたので、テレビに慣れてしまった部分もあるかな、変わってしまったかなと少しドキドキした。でも、彼女はテレビに出るずっと前からあのちゃんのままなので、その変わらなさにホッとした。
我々が何も味付けしなくても勝手に奇跡を起こす人なので、ロケではたくさん笑った。当時番組を見てなかった人も、見てもらえたら彼女の唯一無二さや面白さ、そしてひたむきさにファンになるのではと思う。(あのちゃんの良さを語るには文字数が足りないので、ぜひ動画を見てみてください)
永遠に変わらずに存在し続けるコンテンツなんて、ほぼありえない。(特に人が作って、人が出演するテレビ番組において)だからこそ今私が愛するものすべてに深い愛を注ぎ、執着していきたいなと思う。今年のバレンタインは、自分にチョコを買うほど褒められることしてないよなと我慢したので、チョコを渡したのは番組のスタッフだけだった。押し付けられて迷惑な愛だったかもしれないけれど、どうか今だけ、大目に見て許してほしい。