ハナコラボSDGsレポート スポーツで長期療養中の子どもたちに青春を。〈認定NPO法人 Being ALIVE Japan〉|編集者・藤田華子

SUSTAINABLE 2023.02.07

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、〈認定NPO法人 Being ALIVE Japan〉理事長の北野華子さんに話を伺いました。

〈Being ALIVE Japan〉理事長の北野華子さん。チャイルド・ライフ・スペシャリスト、セラピューティック・レクレーションスペシャリスト。慶應義塾大学環境情報学部卒業、京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻を修了。米国に留学し、アトランタパラリンピックのレガシー団体〈BlazeSports America〉やシンシナティ小児医療センターでの実践を経て帰国。埼玉県立小児医療センターでチャイルド・ライフ・スペシャリストとして勤務しながら、入院中の子どものスポーツ活動を展開。現在は、専属職員として従事する。
〈Being ALIVE Japan〉理事長の北野華子さん。チャイルド・ライフ・スペシャリスト、セラピューティック・レクレーションスペシャリスト。慶應義塾大学環境情報学部卒業、京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻を修了。米国に留学し、アトランタパラリンピックのレガシー団体〈BlazeSports America〉やシンシナティ小児医療センターでの実践を経て帰国。埼玉県立小児医療センターでチャイルド・ライフ・スペシャリストとして勤務しながら、入院中の子どものスポーツ活動を展開。現在は、専属職員として従事する。

疾病などで長期間の療養を必要とする「長期療養児」が日本には約25万人いるといわれています。数カ月から十数年、自宅で、病院で、ベッドの上で、長く辛い治療・入院生活を送る子どもたち。そんな彼らに、スポーツを通し仲間(TEAMMATES)を創出することで、青春と自立を支援しているのが〈Being ALIVE Japan〉です。

子どもたちは、スポーツチームに入団してチーム活動に参加したり、病院でアスリートやチームと一緒にスポーツをしたり、退院後にも地域で親や友人、きょうだいと一緒にスポーツを楽しんだり…体調やお住まいの地域、希望に合わせたプログラムを通して「仲間との時間」を過ごします。

自身も難病と闘った経験からこの活動を始めたという理事長の北野華子さんに、これまでの歩みと想い、そして未来について伺いました。一度きりの青春時代を、思い切り輝かしいものにーー。

「大人になって病気が治っても、子ども時代は戻ってこない」。自身の経験がきっかけに

ーー北野さんご自身も、5歳~18歳まで長期療養児として過ごされていたそうですね。

「当時、私を含め診断時は国内で30数名の症例しかなかった“家族性地中海熱”というめずらしい病気でした。学校行事を治療や発作で欠席しなくちゃいけないことがあっても、主治医の先生や親に『病気が治ったら色々できるから頑張ろう』と言われ前向きに治療していたのですが、小学校3年生のころ『大人になって病気が治っても、子ども時代は戻ってこない』と話したんです。自分のなかでずっと、引っかかっていたんでしょうね。18歳になり治療法がわかり『これから同世代の友だちといろんなことができるんだ!』と思ったのですが、学校の運動会や修学旅行の青春はもう戻ってこないと思い寂しくなりました。
もちろん、病気だったからこそ知り合えた友だちや経験もたくさんあったのも事実です。ただ、そういった子どもたちの青春や、何かを諦めなくてもいい医療社会を作りたいと大学の頃からイメージするようになりました」

北野さんはアメリカで“チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)”の資格を取得。現在の活動に繋がっています。
北野さんはアメリカで“チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)”の資格を取得。現在の活動に繋がっています。

ーーなるほど、それで大学卒業と同時に海外の大学へ留学され、“チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)”を取られたんですね。日本ではあまり聞き慣れない資格ですが、どのようなものでしょう?

「医療環境にある子どもやご家族に、心理社会的支援をする専門職です。たとえば手術に恐怖を抱いている子どもに手術室ツアーを行い、1日の流れのイメージをつけることで気持ちの不安を軽減したり。まだアメリカでしか取れない資格なのですが、日本でも小児科の先生には認知され、いろんな病院にいろいろな病院にCLSが働いています」

--医療の現場をご自身で経験されたことが、いまの活動と強く結びついているように見えます。

「そうですね。病院で働き始めて1年半くらい経ったころ、退院した子どもと外来で会った時に、『一歩病院の外に出たら、自分で頑張らなくてはいけないんだな』と改めて気づかされて。病院には理解者がたくさんいるけど、外の社会でいろんな人の支援を受けるには、自分自身やご家族から動かない限りは得られないものが多いんです。それで、病院の外で何かサポートできることがないかと始めました」

病院にアスリートやスポーツチームが訪問し、一緒にスポーツを楽しむ「病院プログラム」の様子。
病院にアスリートやスポーツチームが訪問し、一緒にスポーツを楽しむ「病院プログラム」の様子。

ーーそうして〈Being ALIVE Japan〉がスタートしていくんですね。

「単純に自分のやりたい気持ちだけでスタートしたことだったので、法人を設立して活動をするみたいな大きなことをする必要があるのか最初は悩んだんですけど、いろいろな病院や学校でNPOの方が活動しやすいとアドバイスをいただきいまのかたちにしました」

--これまで累計1,294名(2023年1月26日時点)のお子さまが参加し、青春を届けてこられたと伺っています。どんなリアクションがありましたか?

「どの子も、活動が終わった時に『仲間にしてくれてありがとう』と伝えてくれるんです。友達がいて、学校でも周囲からの理解があり優しくしてもらっていたとしても、スポーツでの体験を通じて、自分が自分らしくいられる仲間と出逢える感覚、病気の有無に関係なく、“一人の存在”としてチームが受け入れてくれていることを感じているのかなと思います。
あと、チームメイトに『ありがとう』と言ってもらえることが嬉しいとの声もありました。私自身もそうだったのですが、普段何かをご家族やまわりの方、病院でやってもらうことが多くなりがちなので、その逆の機会が新鮮なんだと思います」

ーー千葉ロッテマリーンズに入団した宇都宮幹汰くんの活動をTVで拝見したのですが、たしかに選手の方々から「ありがとう」と声をかけてもらっていましたし、選手たちも幹汰くんの存在が頑張るパワーになるとおっしゃっていました。

「入団前に子どもたちを受け入れてくれる球団の皆様には、ゲストではなくてチームの一員として受け入れていただきたいとお伝えしています。ワンシーズン一緒にいることは、スポーツチームからすると普段のお仕事と合わせてプラスの活動になります。それでも、1日ではなく長期間受け入れて活動をする必要性や、なぜこれを実施しているのか選手やチームスタッフ、球団職員の方々に趣旨を理解いただくこと、どういう子どもが入るのか、病気のことは本人にはどう伝わっているかなど、丁寧にコミュニケーションをとらせていただいています」

「治療が大変だったという思い出ではなくて、チームでいた時が楽しかったと語りたくなる青春を」

--国籍や年齢、出自を超えた感動を私たちに届けるスポーツを通すからこそできることはあると思いますか?

「そうですね。アメリカでアトランタパラリンピックレガシー団体〈BlazeSports America〉でインターンをした際、パラリンピックを開催したことによって街の公共交通機関が整い、雇用が増えるなど、病気や障害関係なく楽しめる環境づくりや制度ができたと知りました。スポーツが新しい価値観や機会を作ると聞いて、その時に自分の中でスポーツを通じて病気のある子どものこれからの選択肢や可能性、価値観を広げられるきっかけを作りたいと思ったんです」

--子どもの体調や住んでいる地域に合わせられるよう、プログラムの数も増えてきました。どのようにして輪を広げていますか?

「最初はビーチバレー選手の幼なじみに考えを話したら、『やろう!手伝うよ』と言ってくれて、少しずつアスリートの方とのつながりができて。私も新聞記事を読んで『この選手に来て欲しい!』と思ったら、所属チームに電話をかけて、またその選手から次の選手につなげてくださって…本当に地道に始めたのですが、今は入団のプログラムだと、プロ野球、バスケットボールやラグビー、Jリーグチームや大学スポーツチーム等、合計14チームと協働(活動)をさせていただいています」

子どもたちの話をする北野さん。
子どもたちの話をする北野さん。

--北野さんの考える青春とは、どんなものでしょう?

「青春は自分で切り開くものなので、私たちはあくまでも青春につながるきっかけを提供させていただいている感覚です。そして子どもたちが大人になって振り返った時に、最初に思い出すのが『治療が大変だった』という思い出ではなくて、チームでいた時が楽しかったと語りたくなるような青春になれば嬉しいです」

--今後の夢やビジョンを教えてください。

「日本全国にこのような子どもたちがいるので、青春を一緒に実現してくれる仲間やチームがどこにでもあるという状況を目指していきたいです。活動作りに関わってくれる企業や個人寄付者、ボランティアの方々、入団することを受け入れてくれるスポーツチーム、地域で寄り添ってくれる存在。病院で子どもたちが治療しながら青春を送る機会を作っていくのも、先生の理解や協力なしではできませんから。活動を一つ一つ積み重ねていきたいです」

〈認定NPO法人 Being ALIVE Japan〉

photo:Kaori Ouchi

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