「 ニラなし餃子トースト 」 児玉雨子のきょうも何かを刻みたくて|Menu #7 FOOD 2023.03.14

「生きること」とは「食べること」。うれしいときも、落ち込んだときも、いそがしい日も、なにもない日も、人間、お腹だけは空くのです。そしてあり合わせのものでちゃっちゃと作ったごはんのほうがなぜか心に染みわたる。作詞家であり作家の児玉雨子さんが書く日々のできごととズボラ飯のこと。

餃子のタネは、豚挽肉100gに対し、長ネギ1/2本、キャベツ1/4玉、にんにく・生姜チューブ各3センチと、やや野菜多め。炒めたタネはそのままだと落ちやすいので、シュレッドチーズを載せてトーストする。
餃子のタネは、豚挽肉100gに対し、長ネギ1/2本、キャベツ1/4玉、にんにく・生姜チューブ各3センチと、やや野菜多め。炒めたタネはそのままだと落ちやすいので、シュレッドチーズを載せてトーストする。

あの子との最後の思い出は夕日、濡れた瞼、水餃子。

友人と飲茶ランチの約束をしていたら、直前になって彼女の妊娠が判明。つわりも始まり、予定は延期になった。高校時代に塾で知り合った友人なので、もうそんな……と嬉しいやら、さみしいやら。しんみりしつつ頭の中は飲茶でいっぱいだったので、休みの今日は自宅で餃子を作ることにした。

餃子といえば、必ず思い出す女の子がいる。小学校低学年のころ、母が仕事の間は習い事に通ったり、同級生の家にお邪魔したりした。特にあやめちゃん(仮名)という子の家には、母親同士の仲が良く、頻繁にお世話になった。

あやめちゃんは優秀だった。勉強もスポーツもピアノも英語も、すべて上手にこなした。一方、私は何をやってもダメだった。私にとって、何でもできるあやめちゃんは憧れだった。

けれど、彼女からしてみれば、鈍臭い私と一緒に過ごすのはきっとストレスだったと思う。彼女はいい子だから親に言い出せず、苛立ちを溜め込んでいたのだろう。いつからか私に小さな「罰」を与えるようになった。何かを間違えるたび、つま先を踏みつけるのだ。ドミノを作れば、完成間近で倒してすべて台無しにし、ピアノを連弾すれば指がもつれ、ドリルは半分以上間違える。私はそのたびにつま先を踏まれ、爪が変形してしまった。

ある日、あやめちゃんのお母さんがその「罰」に気づいて、彼女を叱った。あやめちゃんはお母さんに泣いて謝って、私とは一度も目を合わせなかった。

その日の夕方、私の母が迎えに来るまで、三人で餃子を作って茹で、ごまだれにつけて食べた。私の家は冷凍餃子を買って焼いていたので、タネから作るのも茹でるのも初めてだった。あやめちゃんの家のニラを入れない水餃子は、やさしい味がした。

それ以来、あやめちゃんの家に行くことはなかった。学校でも話さなくなり、彼女は中学受験をしてすっかり関係が切れた。

高校生になり、冒頭の友人と塾で出会ったのだが、偶然、彼女とあやめちゃんが同じ学校だったことを知る。あんなことがあっても、憧れなのは変わらなかった。「会いたい」と友人に頼ることもできるけど、ぐっと飲み込んで、今もゆっくりと消化し続けている。

普段は冷凍のものだけど、あれから餃子を自分で作るときはニラを入れない。今日は多めにタネを作ってしまったので、余った分を炒めてパンに載せ、お昼ご飯にした。用事を済ませたら、夕飯のためにごまだれを買いにゆく。

photo & text : Ameko Kodama edit : Izumi Karashima

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