自分に優しく、人に優しく。SDGsのニュールール。 【私と、SDGs】FILE #2/キャスティングディレクター・髙野力哉さん「みんながフラットに出演できる映画を。」
環境、社会、経済……。SDGsの17の目標は多岐にわたりますが、その根底にあるのは「あらゆる人々、後から来る世代のために、今の社会や生活を変えよう」ということ。それは我慢することや楽しみを減らすのではなく、むしろ「なんでこっちのライフスタイルや社会にしなかったんだろう。早く言ってよ!」と言いたくなるようなモデルチェンジ。働く時間を減らしたり、家族との時間を増やしたり、大量消費ではなくモノを大切にする……。豊かな未来への原動力となるのは「優しさ」。「自分に優しく、人に優しく」をニュールールに、これからのSDGsについて考えました。今回は、『私と、SDGs』をテーマにキャスティングディレクター・髙野力哉さんにお話を聞きました。
【MOVIE】『モザイク・ストリート』
企画・脚本・製作総指揮はハリウッドで活躍する日本人俳優の松崎悠希、監督は深田志穂。多様性が受け入れられた後の日本を舞台にした探偵ドラマ。さまざまな人種やセクシャリティが登場。YouTubeで配信中。
人種、セクシャリティ、ハンディキャップ、みんながフラットに出演できる映画を。
昨今のハリウッド映画は、出演者や製作スタッフにさまざまな人種やセクシャリティが関わっていることが常識で、テーマも含め、どれだけ「多様性」に富んだ作品かが評価をわけるといわれている。日本をベースにキャスティングディレクターとして活動する髙野力哉さんに聞くと、そういった傾向はここ5~6年で顕著になったことだと話す。
「多様性のあるエンターテインメントを目指す動きは、2000年くらいから始まっていて。そんなに昔のことではないんです。アメリカ国内では、1960年代から人種差別や女性差別撤廃の運動が行われてきましたが、ハリウッド内では変革が進まなかった。でも、国内における非白人種の割合がどんどん増え、映画界にも増えてきた。いまでは、アフリカ系、ヒスパニック系、アジア系、さまざまな人種が出ている作品がヒットするようになりました。そして2016年、アカデミー賞の俳優部門の候補者がすべて白人で占められ、『オスカー・ソー・ホワイト』と抗議の声があがった。アカデミーの会員が白人男性ばかりであることに批判が集まり、女性や有色人種、アメリカ以外の映画関係者などが加わるようになったんです。
そして、2020年にポン・ジュノ監督が『パラサイト 半地下の家族』で、2021年にクロエ・ジャオ監督が『ノマドランド』でアカデミー賞を受賞する。ですから、ハリウッド内でシフトチェンジしたのはここ数年のことなんです。そして、いまは、“インクルージョン・ライダー”がハリウッドの新常識。日本語に訳せば『多様な人々を受け入れる条項』。俳優や監督、スタッフなどが映画会社と契約を交わす際、この条項を追加する人が増えています。
『あらゆる人種、性的マイノリティ、ハンディキャップのある人々を受け入れる作品でなければ私は仕事をしません』と。『ノマドランド』の主演女優フランシス・マクドーマンドの受賞スピーチから広がったもので、映画業界に限らず、雇用される側がする側に対して要求できる権利として社会全体に認知されました。私のキャスティング会社でも、キャスティングの募集概要を送るとき、『すべての人種、セクシャリティ、ハンディキャップを持つ人を受け入れます』という文言を必ず添えています。最近は、アフリカ系俳優が主人公の作品が増え、メインキャストが全員アジア系の『クレイジー・リッチ!』もスマッシュヒットしました。ただ、LGBTQの俳優を主役でとなると、大手映画会社ではまだまだ。でも、時代の流れに乗り『多様性』を意識しすぎることで、当事者を傷つけることも増えています。
昨年『モザイク・ストリート』という短編映画をプロデュースしました。探偵ドラマですが、主人公の探偵はトランスジェンダー女性の俳優、その相棒はレズビアンの俳優、助手はアフリカ系日本人女性の俳優が演じていて。人種、性別、ハンディキャップの有無、性的指向などが特別視されず、それぞれのキャラクターが、それぞれの属性を保ったまま、社会に受け入れられた状態で登場する、これからのエンターテインメントのあり方を提示しているんです。意識しなくても、自然に、すべての人が平等に描かれる作品作りがこれからは必要だと思います」
Profile…キャスティングディレクター・髙野力哉(たかの・りきや)
カリフォルニア州立大学ノースリッジ校で映画製作を専攻。ハリウッド映画の現場で働き、帰国後、国内外のCMやドラマ、映画のキャスティングディレクターに。