「おかげさまで」を伝えたい。 「“女性”という枠を超えて、活躍する希望を持てました。」映画監督・西川美和さんに贈る【Hanako Empower Award】

LEARN 2021.11.16

コロナ禍で友達にも会えず、おいしいものも食べていない。それでも止まらない仕事や家事、体調の変化……。それでもふと顔をあげれば、耳を澄ませば、本を開けば、私たちに勇気をくれるものがたくさんありました。「姿を見ていると元気が出る!」「この作品を毎週楽しみに生きてきた」という人や作品を、Hanako編集部が「おかげさまで! ありがとう!」と勝手に表彰する“Hanako Empower Award”、開幕です。10月28日(木)発売 Hanako1202号「気持ちいい生活の選びかた。」よりお届け。

ハナコから西川美和さまへ「“女性”という枠を超えて、活躍する希望を持てました。」

西川監督_メイキングスチール

業界内で女性の割合が少ないと、仕事の内容よりも性別が取り沙汰されがち。まだ数的に男性優位な映画業界で、作品の力が性差を超えて評価されることを、日本映画界を代表する監督である西川美和さんが示してくれた。

西川監督の作品が、性別を超えて伝わる理由。

2020年度の東京国際映画祭の公式上映作品138本のうち、女性が監督を務めた(男女共同監督作品を含む)のは23本、全体の16・7%という比率だった。欧米を中心とした映画界では業界内の男女の不均衡を「セルロイドの天井」と呼び問題視し、男女比をそろえることを目指す「50/50 by 2020」キャンペーンが立ち上げられたが、日本の映画祭はこれに参加していない。そんな状況の中、西川美和さんの活躍は、業界内でマイノリティであっても作品の内容次第で評価されることを示した希望の光ともいえる。

―監督として第一線で20年以上ご活躍していますが、どのようにして“映画監督”になったのでしょうか。

「監督になった今でも、『監督になりたくなかったな』と思います(笑)。映画が好きで仕事に就きたいと思っていたときに、是枝裕和監督を手伝う機会に恵まれて助監督をやらせていただくことになりましたが、実際はすごく過酷な仕事で続けていける気がしなかった。そうして『書き物だったらできるだろう』と脚本を書き始めたのですが、助監督として現場の経験もありましたし、結局自分で監督をすることになってここまで来ています。専門家や技術者とコミュニケーションを重ねて作品を作るのでずっと興味が尽きず、なんとか続けられています」

―女性比率は成長の最中ですが、西川さんが業界に入った当時はもっと低い割合だったと思います。不安を感じることはなかったですか。

「当時から映画にまつわる仕事、特に現場に関わる職種は男女関係なく不安定で、『それでも映画がやりたい』と強く思っている人しか残らないようなところでした。『女だからやるな』と言う人も私の周りにはおらず、当時は特に性差による不便は幸い感じていなかったですね。数こそ少ないけれど、現場にいる女性はみんな優秀で、技術ある女性には男性も頭が上がらないという実力社会でした。一方で、『妻帯者の男性』と『単身者の女性』がそれぞれ多いことは実感しています。男性の体力にシフトして作られた仕組みやスケジュールで不規則な長時間労働、保障も手当もなく、とても家庭生活を送りながらできる仕事だとは思えませんでした。男性スタッフが何カ月も仕事に付きっきりになっている間、その裏側ではパートナーが家事や子育てに従事していたのかもしれない。また私を含め、周りを見る限り女性の既婚率・出産率は低い。もちろん家族が全てではないですし、『面白い仕事ができている』という気概はあれど、職種に『家庭が作れない』理由があるとすれば、その根底には映画界だけでなく社会全体の性別的役割についての既成概念の刷新が追いついていないからだとも思います」

―西川さん自身、「マイノリティ側の性」の環境に身を置いたときに気をつけていることはありますか。

「いわゆる“シスターフッド”的な関係性に支えられることももちろんありますが、同性であっても異性であっても、積極的にコミュニケーションをとるのが大切だと思っています。性差というものに圧倒されないために、他者をよく知り、相手の弱さも優れているところも観察して理解する。あとは『相手に伝わる言葉を選んで話す』というのは、私が映画を作るときにも意識していることです。自分たちにしかわからない感性で作り上げる閉鎖的な世界の面白さもありますが、私は違う性や違う国・民族の人にも伝わる言葉を紡いでいきたい。そう思っているから、作品が『“女性”監督の〜』という文脈で語られることが人より少ないのかもしれません」

【私が勇気づけられたもの】「ラジオ番組」

「優れた映画があることで、自分ももっと良いものを作りたいと思います」という西川さんが、日常的に心の支えにしているのはラジオ番組。「撮影に入るまでは一人で粛々と執筆していることが多いので、家事の最中に聴いて癒されています」

映画監督/西川美和(にしかわ・みわ)

1974年、広島県生まれ。早稲田大学在学中に是枝裕和監督と出会い、助監督を経て2002年に『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビュー。長編第二作『ゆれる』で、第59回カンヌ国際映画祭に出品。

(Hanako1202号掲載/photo : Naoto Ohkawa, Satoko Imazu hair & make : Satomi Horie illustration : Masami Ushikubotext : Kimiko Yamada , Rio Hirai, Makoto Tozuka, Momoka Oba, Ayako Nozawa edit : Rio Hirai (FIUME Inc.))

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