花井悠希の朝パン日誌 “いつものパン”を探しに行こう。茨城〈BREAD & BAGEL Ordinary〉の個性あふれるパン
「ordinary」といえば、英会話を学んでいたなかで、自分の口からすんなり「ordinary」が出てきたときに「私、成長したな」とニヤっとした思い出があります(パンとは関係ない話)。ちなみにもう一つは「common」です(聞いてない)。“普通の、いつもの”という意味のそれをお店の名前にしているパン屋さん。“いつものパン”ってなんかいいな。期待に胸が高まります。
トランスしちゃうクロワッサン!?
「ここのこれが食べたくて買いに行ってるの」って、自分の“いつものパン”を教えてくれながら、〈1966カルテット〉メンバーのみのりちゃんが買ってきてくれたのが〈Ordinary〉さんとの出会いです。もらった袋から漂う香りに我慢できず、その日の夜すぐに食べてみたら個性あふれるパンのおいしさにたまげたお店。『朝パン日誌』で紹介したかった!と夜に食べきってしまったのを後悔するほど心に残っていました。また買ってきてくれたので、満を持しての登場です(ちゃんと夜は我慢した)。
バッキバキです(褒めてます)。もはやバリンバリン!なほど、噛んだ瞬間冴え渡る1番上の層。サクサクのもっともっと上、パキンと割れる心地は思わず「ふふふ」って笑みがこぼれちゃうこと間違いなし。クロワッサンはサクサクじゃなきゃって方にはぜひ、こちらのサクサクの向こう側を試してもらいたいです。と思えば、その奥で待っているのは相反して柔らかく、甘さがこぼれる生地。表面にシロップが塗られているから、分かりやすく甘さが舌から伝わってくるのに、クロワッサンの層に練り込んであるターメリックからはスパイスの香ばしさとオリエンタルな世界へと導く奥深い香りが渦巻いて、うっかりトランスしそうになります(危険人物)。
舌は甘いけどターメリックの香りはカレー未満のお食事系の香りなので、脳が追いつかない!好みはあるかもしれませんが、甘い系なのか食事系なのか、このどっちつかずの迷宮に迷い込むような世界観が私はとんでもなく好きです。甘く口内に残る余韻はバターのコクとターメリック。ランプをこすっているわけでもないのに鼻に抜けるスメルから、いちいちジーニーが出てきそうなのも良いです(※個人の感想です)。
みのりちゃんおすすめの1つ。酸味と小麦の香りが対等に台頭して(ダジャレ…)力強い。大地の躍動を感じてしまうようなエネルギーに満ち溢れた味わいです。どんな強い香りの食事と一緒に食べても存在感は損わず、むしろこの子色に染めてしまうような気概すら感じます。内側はちゅるちゅると水分を蓄えて、湿り気を帯びた湿原。ここにだけにひっそり咲くような花や植物がありそうなほど、生命力としっとりとした質感に満ちあふれたカンパーニュ。
ダイナミックに飾られたかぼちゃは、そのサイズもグラマラスで、迫力満点。ねとっと崩れてしまうギリギリのところで火入れされたかぼちゃは香ばしく、ほっくほくと弾み、この大きさだからこそ余すことなくその甘みとほくほくさを口いっぱいに味わえます。幸福パラメーターは無限大。かぼちゃ好きならなおさらえらいこっちゃです(←私)。
これまた湿度が高く、しとしとふわふわの花園のような香り高いアーモンドクリームからとろとろカスタードに着地するそのなめらかさも、甘く響くクランブルのカリカリ表面も、スライスとまるっと一つと両方入っているアーモンドも、この子を構成する全部が全部、わたしを満たしてやみません。ボリューム満点なはずなのにペロッと食べてしまいました。
みのりちゃんの“いつものパン”。〈Ordinary〉の「パンオショコラ」が好きなのって教えてくれました。この日は雨がひどく、その湿度のせいでしっとりとしてしまいましたが、薄い層が想像よりずっとたくさん重ねられているのはちゃんとわかります。厚みのある食感なのに、その厚みは何枚も何枚も重ねられた層によるものだから、空気の通り道が残されていて、くるしゅうないのです。むしろ柔らかなバターの芳香が行き来できる余白があるから、空気だってごちそうです。
そしてハッとするほどチョコレートがおいしい。苦味に酸味、そのチョコレートのキャラクターはパンオショコラにおさまるそれじゃないというか、取り出して味わってもきちんと美味しさが伝わるチョコレート。それが贅沢に使われているんですもの、違いのわかる大人のためのパンオショコラです。
私にとって“いつものパン”って何だろう。パンが好きな故に、行く先々でパン屋さんを訪ねてその時々の直感で選ぶのがスタイルになっていたけれど、自分にとっての“いつものパン”があるのって、帰ってくる場所を守っていてくれるような安心感を与えてくれるもののような気がします。今度は私もお店に行って“いつものパン”とはなにかの答えを感じに行きたいです!