花井悠希の朝パン日誌 vol.11 こう見えて個性派!…〈グリオット〉と〈ポワンタージュ〉
毎朝のコーヒー、毎朝のパン。なにげない日常の一コマに、さりげなく個性を光らせ、「おおおっ!?」と好奇心をくすぐり笑顔にさせてくれるパンがあります。今回はそんな刺激を与えてくれたパンを紹介します。
酔わせてちょうだい…〈グリオット〉の「シナモンロール」。
ラム酒の香りに当方めっぽう弱いことを、改めて自覚させてくれたこちら。このシナモンロール、上のアイシング(溶けちゃったよ…。)にラム酒が使われているのです。店頭での整えられたその姿はどことなくミステリアス。なだらかなアイシングは、地表(生地)が見えそうで見えない絶妙な透明感があります。
寒い冬の空の下、すりガラスからこぼれる家の灯。なんだかそんな温かな景色が見えてくるよう。このすりガラスの(アイシングの)先にはきっと幸福が約束されている。
躊躇わず、さぁ扉を開けよう。
扉が開くと、アイシングの甘さよりも真っ先に、ラム酒のうっとりする香りが目の前を(見えないけど)を染め上げます。そこから、しっとりと歯切れの良いクロワッサン生地の軽やかさ、シナモンのアクセントと、1つ1つの美味しい要素たちが出現しては、ラム香るアイシングの中へ消えていく。
その美しい繰り返しを追いかけているうちに、すっかり酔わされている私がいました(ラム酒なだけに)。いやはや完敗です。これまで出会ったシナモンロールの中でぶっちぎりにアダルトな子でした。
あなたはどっち派?…〈ポワンタージュ〉の「大人のミルクフランス」「ミルクフランス」「安納芋とりんごの豆乳パンドミー」
ガリっとしっかりクラムがたったバゲットは、ぎゅっと噛みしめる度に小麦の味わいがふわぁと口内を走り抜けていきます。これだけで十分に幸せなのに、そこへミルククリームが挟まれているのだから、いやはや罪深い。
まず感じるのは、私が愛してやまないバターのねっとりしたあのコク。甘さしっかりなのに、先にバター特有のコクが絡みつくから、コク深さが甘さを通せんぼして、コクの内側から甘さがどんどんと滲み出てくる様子です。想像してみてください。うっとりでしょう?
このミルククリームと少し塩気もある芳しいバゲット、2つの濃いキャラクターを掛け合わせることで、甘さアベレージは適切となり、まとまりのある1つに仕上がっています。ラストは、クリームのコク深さがずっと一線に留まるかと思いきや、バゲットの小麦が香ばしい余韻を残しフィニッシュ。ミルキーなテイストが好きな人は外せないミルクフランスです!
〈ポワンタージュ〉の看板商品。(へにょって曲がってしまいました。ごめんなさい)挟まれているミルククリームは同じですが、こちらはソフトフランスパン生地でできています。
幾分硬質でむっちり筋肉質のようなモサモサした生地は、「大人のミルクフランス」より主張は控えめ。君はミルククリームと一体となるために生まれてきたのねって、労いたくなります。こちらのミルククリームは個性が強めだと思うのですが、この生地と一体になると、全体的に穏やかに感じられるんです。
「大人のミルクフランス」が掛け算ならこちらは引き算。【何事も足し算引き算が大切よ】とどこかで聞いたようなフレーズが脳裏をよぎりました。
子供からお年寄りまで幅広い年代の方が楽しめること間違いなし。でも、わたしは個性がビシビシと伝わってきた大人のミルクフランスをまた手に取ってしまいそう。(刺激を求めるお年頃)
自他共に認める芋好きで、前回アップルパイ好きも露呈した私(前記事参照)です。この名前に釘付けになったのは言うまでもありません。ふわふわとした生地はその先にもちっとした粘り気が現れて、歯切れはいいのに軽いだけで終わらせないエンターテイナー。焼く前に触れたら指にしっとりと吸い付くもち肌でした。焼かずに食べてもきっと美味しい。