東日本大震災から10年。東北の「現在地」。 【福島】築140年の酒蔵を生かした〈はじまりの美術館〉へ。人のつながりから生まれる豊かさを体感。

LEARN 2021.03.02

2011年3月11日、午後2時46分。その時から日本は大きく変わった。そこから10年。東北を盛り上げる人が集い、場が創られ、新たな文化が誕生。〝復興〟という言葉ではくくれない、面白い動きが日々生まれています。今回は、福島県の猪苗代町で築140年の酒蔵を生かして誕生した〈はじまりの美術館〉を訪れました。長く地域に根差した歴史ある酒蔵が、趣ある姿はそのままに街の人も観光客も、みんなを迎え入れるオープンな美術館に。ここでの出会いやつながりで街に活気がもたらされています。

アートを楽しみながら人と街とがつながり合う。

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福島県耶麻郡猪苗代町で築140年の酒蔵を生かして〈はじまりの美術館〉が誕生したのは2014年のこと。日本財団による東日本大震災の東北支援事業「ROAD PROJECT」の一環である「New Day基金」の助成を受け、アール・ブリュットや現代アートなど多様な作品が並ぶ。「アートと出会える場であると同時に、人と人、街と観光客を結ぶハブを目指しています」と学芸員の大政愛さん。その言葉どおり、地域住民とスタッフが美術館や街のあり方を話し合う「寄り合い」からカフェをつくったりマルシェを開くなど、一般的な美術館とはひと味違う取り組みで街の日常になじんでいる。
そこには、美術館を中心に輪を広げて街を活性化させたいという思いがある。「地元の人が充実した生活を重ねていくことが復興にもつながります。なにげなく鑑賞した作品に感化されて自分と向き合ったり、ここで新たな人間関係を見つけたり。来てくれた人の心や暮らしが少しでも豊かになるきっかけを提供できたら」

〈はじまりの美術館〉は、こんな場です。

【集う場】

イベントやマルシェ、ワークショップなど、人が集える企画を展開。例えば、地元の人が講師となり郷土料理や折り紙など自分の得意なものを伝授する「オハコ(十八番)の会」や、福島県内の縁のある店が参加する「はじまるしぇ」は毎回大盛り上がり。「地元の人同士がイベントで仲良くなって新しい仕事を始めることもあり、いいつながりが生まれているのがうれしいです」(大政さん、以下同)

【表現の場】

障がいのある人の作品をはじめ、現代アート作家の作品や体験型の展示など、子どもからお年寄りまで気負わずに楽しめる企画展が、この美術館の持ち味。「障がいの有無にとらわれず、純粋に表現としてのおもしろさや、多様な人がいる豊かさを感じることができる展示を心がけています」。アーティストにとっては、作品を多くの人に鑑賞してもらうことが次の表現に向かう活力にもなっている。

【憩う場】

アートに興味がない人も来られるようにとつくった「オハコカフェ」は、居心地がよくのんびりくつろげる。地元の人たちの井戸端会議が繰り広げられることも多いとか。「目的がなくても来てもらえる、街の人の居場所になれていると実感しています」。裏磐梯の〈MOTO COFFEE〉の豆を使ったコーヒーや福島県産の桃ジュースなど、カフェメニューは観光客もうれしい福島自慢の味がそろう。

「New Day基金」とは。

アート企業〈カイカイキキ〉が日本財団に復興支援チャリティオークションの売上金の半分を寄付、それをもとに設けられた基金。東北に新たな価値を生み出す空間や場の創造を目指した事業を支援する。

「ROAD PROJECT」とは。

東日本大震災の発生直後から日本財団が行ってきた東北支援のプロジェクト。地元の人々の自立に寄り添うことを第一に、産業再生、人材育成、コミュニティの再生を主要テーマにした仕組みづくりなどを手がける。

〈はじまりの美術館〉

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主に知的障がいのある人を支援する社会福祉法人〈安積愛育園〉が運営。明治初期の建物で、当時のままの約33mの梁が見事。
■福島県耶麻郡猪苗代町新町4873
■0242-62-3454
■10:00~18:00火休(祝の場合翌水休、展示入れ替え期間は休館)
https://hajimari-ac.com/

(Hanako1194号掲載/photo : MEGUMI text : Asami Kumasaka)

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