【カレーときどき村田倫子】 カレーの聖地・高円寺にある〈スパイスカレー MANTRA〉へ。種類豊富な副菜が、カレープレートに華を添える。
「カレーときどき村田倫子」へようこそ。食べたいカレー屋さんを訪ね、自身でつらつらとカレーに対する想いを綴る、いわば趣味の延長線ともいえるこの企画。今回は、高円寺のカレー屋さん〈スパイスカレー MANTRA〉を訪れました。
私は高円寺が大好きだ。この連載がはじまって、早4年。カレーを求めて一番多く足を運んだ場所かもしれない。カルチャーと自由に溢れる高円寺には、類は友を呼ぶのか、枠に囚われないのびのびとしたカレーが多い気がする。
さて、今回の目的はそんなラブな場所で(しかも駅近)悠々自適に店を構える〈スパイスカレー MANTRA〉。
元々、料理人だった森野さん。実は前職ではイタリアンをメインに鍋をふるっていた。そんな中、大好きなカレーとの出会いをきっかけに、スパイスの可能性にときめいた森野さん。去年、ここ高円寺にて新たな一歩を踏み出した。
他ジャンルの経験と、確かな技術をカレーに落とし込むと、どんなクリエイティブが生まれるのか?
色彩、バランス、カトラリー。視覚の時点でダダ漏れのセンスの良さ。料理人の覚悟と情熱を食べる前から感じる。
まず驚くのは副菜の数の多さ。「ブロッコリーのアンチョビマリネ」、「シルクスウィートの冷製」、「ビーツのフムス」、「ゴボウのナムル」、「にんじんのオレンジラペ」、「桃みたいなトマト」、「うずらの卵のバルサミコピクルス」、「ピザ生地で揚げパン」。ずらりと並ぶ、洒落たネーミング達。
背伸びした店に行くと、聞き慣れないニュアンスの品書きに困惑。そして映え映えな一皿がきて、結局?が?のまま口から胃に通ることが多いけれど(私の経験値の低さよ)、MANTRAのお洒落副菜達は、一度口にすると?が!!!に変わる。目にして、喉を通って、より納得する食材達。
例えばこのコンポートされた「桃みたいなトマト」なんて、本当にピーチみたいなトマトなのだ。ビギナーも気負うことなく楽しめる優しさとおいしさよ。
「イタリアンの要素はあまり意識していない」と本人はおっしゃっていたが、染み付いた経験値は、ふとしたことろで表現の顔をあらわにする。
定番の「チキンカレー」。あぁ、なんだろう、この安心感のあるおいしさは?日本人が好きな、欧風ベースのあの親しみ深さをどこかに匂わせながら、それでいて新しい味覚を、刺激する絶妙さ。小麦粉は使わない、ルゥではないスパイスカレーなのに、どこか懐かしさを纏う。
トマトの酸味と甘味、そして7時間もかけて丁寧に煮込まれた玉ねぎは、愛でられた分、深い深い甘みと格別な旨味に変わる。野菜達から滲み出る素材のスペックが、MANTRAのカレーの確固たる柱となり、その大黒柱にスパイスとセンスが肉付きし、自由にのびのび弾ける。
ナンではなく、ピザ生地であげたスティック状の揚げパンが添えられているのも、すごく愉快。カレーにディップ、お口にゴー。この流れが最高すぎるので、欲を言えば盛り合わせでいただきたい。
ライスにお行儀よくのったキーマ。豚と牛をこだわりの配合で粗挽きにしたがっつりミートはワイルドに私を待ち構えている。トッピングで追加した炙りチーズは、そんな荒々しい旨味をがっしりマイルドに包容して、更なる旨味のステージへ。
ここMANTRAのキーマの立役者は、カレーの上に降り積もるスパイス達。提供する直前にテンパリングされた香り高いホールスパイスが、爽やかな香り、ジャリリと楽しい食感を醸す。このひと手間がたまらないアクセントとなる。
チキンカレーの向こう岸には、月替わりで顔ぶれが変わるおすすめカレー。本日は今が旬のカキを使用したカレーだ。定番はお肉が主軸なのでここでは旬に合わせたシーフード系のカレーが多いそう。少し前は秋鮭や、ホタテ。さて、カキはどのような使用に?
スプーンで一掬い。たったそれだけで、お口の中は海や香りで幸せが溢れる。魚介でとった濃厚な出汁をベースに織りなす自慢のスープ。そこに泳ぐぷりぷりのカキ。山も海も、どちらも楽しめる欲張りなワンプレートね。
日本の家庭のカレー、イタリアンの旨味、そしてスパイス。ほっと肩の力が親しみやすさを備えながら、様々な要素のいいとこどり。実に魅惑的でハイブリッドなカレーだ。
イントロからテンションが高めのメロディ、そこからサビにもう一段転調してさらにヒートアップ。右肩上がりに楽しませてくれる、MANTRAのカレー。これはまた、高円寺で新しいオアシスを見つけてしまった。巡回が忙しくなるぞ…。
〈スパイスカレー MANTRA〉
■東京都杉並区高円寺南4-49-1
■11:30〜15:00、17:00〜22:00 月曜休
(photo:Kayo Sekiguchi)