【ハナコラボ 宇宙部】フード編 なっとう娘が宇宙の“食”を考える!?「SPACE FOODSPHERE」イベントレポート
2050年には宇宙で暮らす人が1000人いる?!と言われている今、民間事業者との共創プログラム「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を進めているJAXA。その中に、宇宙と地上の共通テーマである「食」の課題解決を目指す「SPACE FOODSPHERE」プログラムが2020年4月から始動し、企業や大学などが集って活動を進めている。そして先日、食の未来構想を議論するオンラインカンファレンスを開催。ハナコラボ宇宙部からは「なっとう娘」こと鈴木真由子さんが登壇し、宇宙での食について考えた。
SPACE FOODSHEREとは?
「SPECE FOODSPHERE」は宇宙と地上双方の食の課題解決を図るプログラム。宇宙での暮らしを展望する上で欠かせない要素となる食は、SDGsの達成を目指す地上でも大きなテーマとなっている。特に近頃は、パンデミックや自然災害によって閉鎖された環境での生活も課題として顕在化。また、資源の濫用や人口増加によって生活のための資源や空間が限られてきているが、宇宙でも同じく資源や空間の制限が問題となっている。「『宇宙』の観点から食を考えれば、自ずと地上の課題も解決できるのでは」と進められているのが、「SPECE FOODSPHERE」なのだ。
たとえば、「SPECE FOODSPHERE」に参画する〈ルナロボティクス〉は、調味料プリンター「colony」を開発中。レシピをインプットすれば、搭載した調味料カートリッジを組み合わせて世界中どこにいても同じ味を再現できるという物だ。日本にいながら世界の有名レストランの味をいただけるかもしれないし、今は亡きシェフや”お母さん”の味を再現できるかもしれない。宇宙食をおいしくする手助けにもなりそうだ。
宇宙に持っていける食材も限られている中、今回取り上げられたのが水耕栽培のレタスだ。人工植物工場を運営する〈プランテックス〉では空調や光など環境制御された空間で効率的に植物を栽培する技術を開発。カンファレンスの会場には辻調理師専門学校から秋元真一郎さんと野中覚さんが来場し、レタスの食感、色、香りを生かす料理を披露した。なかにはレタスのジュレ、レタスの寿司などユニークなものも。「使用する機材や器具をなるべく少なくし、飽きずに食べられるもの」という課題をクリアした。
今回は「ハナコラボ宇宙部」から「なっとう娘」として活動する納豆インフルエンサー・鈴木真由子さんが参加。納豆への並々ならぬ愛と知識を、トークセッションで披露してもらった。
宇宙×食は日本が世界に先駆ける!
今回のオンラインカンファレンスは、3つのパネルトークセッションを軸に構成。①「宇宙×食が人類の宇宙進出、月・火星探査を加速する」②「フードテック×宇宙が、地球課題の解決を加速させる」③「食×宇宙/極限環境から考える、暮らしのQOL」のテーマで、それぞれに企業の代表者や研究者が登壇した。
鈴木さんはパネルトークとは別に設けられたブレイクセッションに登壇。他のパネルトークに引き込まれるように聞き込んでいた。
パネルトーク①に登壇した〈ispace〉の中村貴裕取締役COOによれば、日本は他国に比べて民間同士のつながりが強く、研究開発もしやすく進んでいるそう。さらに〈ユーグレナ〉執行役員の鈴木健吾さんによれば、ヘルシーでおいしい日本食は、宇宙でも求められている要素を満たしている。その上で、限られた食材の使い方、資源の循環方法、宇宙で食材を生み出す方法などを、自社のリソースや知見をもとに研究していくのだ。
パネルトーク②に参加した〈プランテックス〉代表取締役の山田耕資さんは「『宇宙』を文脈にすると、地上の課題も可視化されて解決のスピードもアップするのでは」とまとめた。最後のパネルトーク③では、宇宙や過酷な環境下の地上で”生き抜く”だけでなく、楽しみを見つけるには?という話題に。〈クックパッド〉の小竹貴子さん、料理人の米田肇さん、〈国立健康・栄養研究所〉の笠岡宜代さんが登壇し、「宇宙や極地、災害時にも食を我慢しない」と、身近なテーマを話し合った。
発酵愛は宇宙に届く?
鈴木さんが登壇したのは「”宇宙発酵”の可能性」というトークセッション。菌は宇宙に持ち込むのが難しいとされているものの、日本の食文化の柱ともいえる発酵は食材の限られた宇宙食を豊かにするはず!と〈ルナロボティクス〉の岡田拓治さん、”宇宙でビール醸造”を目指す〈高砂電気工業〉の前川敏郎さん、〈ユーグレナ〉の鈴木健吾さん、そして大学で菌の研究をしていたという宇宙キャスター・榎本麗美さんが議論することに。
それぞれ発酵への思いを語るなか、「宇宙で納豆を食べてみたいですか?」と聞かれた鈴木さん。「納豆パックを持っていくのもいいですが、作ってみたいですね。でも、納豆菌は威力が強いので、閉鎖空間では他の菌を脅かしてしまうんです。残念ですが、難しそうですね……。」
「確かに宇宙では野菜も育てることを考えると課題が多いですね」とは料理人でもある岡田さんだ。発酵大好きだという岡田さんが宇宙で試してみたいのは米麹だそう。「米麹はおいしいし、他のものより発酵が早い!いろんな料理にも活用できますね。ところで私はタイがルーツにあるんですが、なっとう娘さんはタイにも納豆があるのを知っていますか?」
「もちろんです!納豆にもいろいろな種類があるので、糸引きじゃなければ機材にも影響がないだろうし食べられるようになるといいですね。調べてみたら臭気レベルは宇宙の基準をクリアしているそうですし」と鈴木さん。発酵はニッチな話題だけに、5人のトークはどのパネルトークよりも熱を帯びていたかもしれない。
会場には「スフィアフレーム」という、将来の月面一人乗りローバーでの食事を想定した生活空間が、実寸大で表現されていた。宇宙食を考えることは、私たちの暮らしと遠からず繋がっていることを実感した鈴木さんだった。
(photo:Kaori Ouchi)