花井悠希の朝パン日誌 寝ても覚めても…〈Princi〉と〈jicca〉
いつでも美味しいパンが食べられたらいいのに。そう願うパン好きさんも多いのではないでしょうか?「寝ても覚めても」とはいつでもという意味ですが、「夜寝る前にも、朝目覚めても」という所から来ているのかしら?とふと思い及んだある日の夕刻。というのも日も暮れて辺りが夜に差し掛かって来た頃、〈代官山 T-SITE〉にある〈Princi〉に初めて立ち寄ってみると、綺麗に磨かれたガラスのショーケースに宝石のように美しいパン達がずらりと並んでおりました。ちょうどお客さんが少ない時間だったので、スタッフの方が細かくパンの説明をして下さり、一個ずつじっと見つめていくと、それはもう食欲が加速!朝パン用をゲットしただけでは止められず、思わず夜パンをその場でイートインしてしまった所から本日の物語は始まりました(大袈裟)。加えてここは朝8時から夜22時まで営業していて、言葉通り「いつでも」の欲をほぼ叶えてくれる営業時間の長さ&イートイン付きではありませんか!寝ても覚めてもパンが好きなあなたへ。はじまり、はじまり。
一日中楽しめるイタリアンベーカリー…〈Princi〉
カフェらしい気軽な雰囲気の中で、お酒やおつまみもあり、夜呑みも楽しめるイタリアンベーカリー、〈Princi〉。
この子に一目惚れして夜イートインを決め込んだのです。おそらく朝パン日誌史上1番長いであろう名前も、切れ目から花のように咲き溢れるモルタデラハムも麗しい。一口齧ればその麗しい世界はさらに広がっていきます。気持ちの良い歯応えの生地にふんだんに閉じ込められたオリーブは朝露のようなみずみずしさで迎え、こんなに入っていれば塩味過多になりそうなのに、滴り落ちる瑞々しさが中和してその一歩手前の塩梅をキープしています。そこにひらひらとしなやかに揺れるハムがシルキータッチで絡みつくと、なんとまぁ色気がすごいのです。最後は小麦の香りがそっと結んで、満点な引き際。私もちょっと勉強させていただきたいよ、このしなやかに香りたつ色気を。どこから始めればいいかしら(誰か教えて)。
近づくとセモリナ粉のふわっと気品ある香ばしさが鼻をかすめます。もし私が犬ならこれがさらにどんな風に割り増されて感じられるのかとても興味がありますよ(貪欲)。歯に軽やかにあたるサクッな表面を突入すれば、ふんぬっ(!?)と押し返すもっちりでふくよかな生地にぶち当たります。そう、弾力高しです。そしてただじゃおかないダダ漏れなポルチーニの香り。塩気とコクをぐっと持ち上げるグリュイエールチーズ、ゴーダチーズ、グランパダーノの3種のチーズ。香りが閉じ込められたオイルがポルチーニとチーズからなるペーストから滴り落ちていく…。想像するだけでもグッときませんか?焼きカレーパンのようなルックスからは想像できない高貴な香りと味わいにうっとりとしてしまいます。
さて、おうちでの朝パンで通常モードといきましょう。「コルネッティ」と名前がついたこちらはクロワッサン。私は大きなサイズの方を買いましたがミニサイズもあって、チョコやクリームが挟まれているものなど4種類のバリエーションがあります。リベイクしてパクリと頬張ると、サクサクと軽快な音を立てながらもその実情は口の周りがバターのグロスで光るほど重厚感があることに気がつきます。ひたひたと口の中にバターが満ちて導かれていく甘みを、キラリと効いた塩気がさらに際立たせている模様です。現場からは以上です(パン刑事?)。
リベイクしてみると、柔和な口当たり。舌から温もりと共にやわらかな甘みがぽんやりと膨らんで、しっかりしたバターがその旨みのバトンを受け取って決して角がないように柔らかく伝えてくれました。リベイクした生地はほわほわとどこまでもやわらかく、ぷちりと跳ねるレーズンと間を埋めるピスタチオの青々しい恵みがコクの狭間で揺れています。余韻は想像のとおり、バターが甘えん坊を発揮していつまでたっても離れないんだから困っちゃうなぁ(デレデレ)。
一口目から大当たり(見えていたけど)。甘酸っぱいリンゴがキャンと響きます。シャキシャキと小気味良い音をたてて、林檎の甘露煮と予想すると少し驚くくらいエネルギッシュな酸味を発揮するから生きてるって実感します(大丈夫?)。そこに遅れをとらず生地の香ばしさとドライチェリーの甘酸っぱさが包み、最後の最後でやっとセイロンティーが控えめに顔を出します。もっと来いよ!ってロックバンドのフロントマンよろしく手招いてついつい煽りたくなるけど、これくらいが上品じゃない?って一歩先をいくお姉様でありました。温めずに食べるとギュッと詰まった歯応えのある生地。生地だけの味わいに注目する間も無く、ドライアップルもドライチェリーもあちらこちらにいっぱい出てくる。それでもそこをかき分け生地に神経を集中させれば塩気がうっすら滲んでいることに気がつきました。この塩気が生地やドライフルーツの酸味をより感じやすくしてくれているのかも!?
レストランの塩パン…〈jicca〉
もう一つは、朝にも夜にもいつでも食べたくなる柔軟性の高いパンをご紹介します。幡ヶ谷にあるカフェのような雰囲気が心地よい西洋料理のお店で、基本は夜営業のみ、土曜日だけ昼夜営業となっています(今はコロナの影響で変則的な営業となっているようなので詳しくはお店のInstagramで)。そちらの塩パンを美味しい物に目がない友人がプレゼントしてくれました。調べると今はテイクアウトでも塩パンを購入できるみたいなので夜にも朝にも好きな時にいただけますね!
こんもりとした丘のような膨らみは、どのアングルで撮るべきなのか何度もついついシャッターを切ってしまう佇まいです。そんな丘へといざ登頂。むぎゅーって押し返す充実感と、表面のカリカリとしたジューシーさに、一口目からこれはこれまで食べてきた塩パンとは全然違うものだって五感が騒ぎたてます。皮はしっかりと厚く、底は油分が集いカリカリとなって噛むとじゅわっと禁断の揚げ物のようなジューシーさ。内側までしっかり温めるとむぎゅーとつまっていた生地感はフワフワもちもちした食感に変化して、あれ!?これ何かに似てる!!と気がつきます。
そうだ、これは穴のないドーナツだ!甘さはほとんどなくて、大粒の塩が時に厳しく、時に穏やかに光ります。大きめのサイズ感ですが、ドーナツのような親しみやすい味わいと、甘さが控えられた真っ白肌の弾力、目を光らせた塩気の好相性であっという間にぺろり。でも一個でお腹も心も満たしてくれる頼りになる子です。桃太郎もきびだんごじゃなくて〈jicca〉の塩パン持っていけばよいのにな。今度教えてあげよう(←何者?)。
朝パン日誌と言いながら、今回は欲に負けて夜パンからの朝パン日誌スタイルでお届けしました。いろいろな街のパン屋さんを巡りたいなと思っても今の状況だとなかなか難しいので、仕事や用事で訪れた街でさくっと立ち寄れる範囲でパンライフを楽しんでいます。久しぶりにパン屋さんの店内で食べたパン、美味かったなぁ。ちょっとしたスペースでサクッと食べられるパン屋さんや、テイクアウトでお料理も一緒に買えるお店はこんな時の救世主。これからも無理なく思い思いに楽しみましょうね。おしまい。