【カレーときどき村田倫子】第8回 花に囲まれながら味わう池袋〈HANABAR〉の「イエローカレー」。夫婦がこだわる空間と味わいを求めて。
「カレーときどき村田倫子」へようこそ。食べたいカレー屋さんを訪ね、自身でつらつらとカレーに対する想いを綴る、いわば趣味の延長線ともいえるこの企画。今回は、大学生時代によく訪れていた池袋へ。埼玉に住んでいたその頃、1番近い東京がここだった。通っていた大学の近く(といっても私は新座の方だったのだけど)、文字通り花に囲まれながらカレーを味わえる場〈HANABAR〉があります。
扉をくぐった瞬間、おとぎの国に迷い込んだような空間。壁、天井、咲き乱れる花々。
ファンシーすぎる空間はちょっとドキマギしてしまうのだけど、不思議と心地がいい。そっと寄り添うアンティーク調のインテリアや、深みのある色合いが優しく空間を紡いでいるから。
このセンスのよい一間を切り盛りする、油井大樹さんと奈々さんご夫婦。元々、群馬の方で生活を営んでいたお二人。油井さんは音楽を、奥さまは自身のアトリエで美容師を。その頃の住まいは、祖母が持っていた空き家を「予算100万」と決め、2人でDIYしてつくったもの。
元は昔ながらの平家。
それがこの変貌ぶり。もはや違う家である。壁の色、床、装飾、ましてや風呂のタイル替えや浴槽までお二人で改装…。
世の中のDIYの範疇を超えたプロ顔負けのリフォームだ。お分かりの通り、〈HABABAR〉にもこのDNAがぎゅっとつまっている。当時から料理が大好きで、家で奥さまに手料理を振る舞っていた油井さん。美容師業の傍ら、趣味ではじめたドライフラワーの魅力に誘われた奥さま。
生活と趣味を大事にしていた2人。ある日、知り合いから「東京に一間空いたから、何かやってみない?」と声がかかり、はじまったのがこの〈HANABAR〉。「特別に強い目標や欲があって、ここを始めたわけではないんです。好きなことをしていたら、自然とこの場所にいました」。視覚は奥さま、味覚は油井さん。2人の好きと得意が抽出されて具現化した場所。味わえる料理も、2人のこだわりが咲きほこる。
カレーに咲くパンジー。こんなおめかしをしたカレーは、はじめまして。口に運ぶ前から、胸がきゅーんと愛らしい気持ちになる。
口の中で、優しい甘さが広がり、一間おいて、スパイスの香りが膨らみ弾ける。可憐な少女のような姿だが、中身は上品で洗練された女性。カルダモンの高貴な香りと口に残る辛味が心地いい。
味の核となるココナッツクリームとミルクは、メニュー開発のために訪れたタイで、現地の料理人から「ココナッツミルクはこれじゃないと…」とレコメンドされたもの。上品なコクと甘みは、確かなる本場からの便り。
この「イエローカレー」の開発も、タイで色々と食べ歩き、スパイスを仕入れ、試行錯誤の結果仕上がったもの。視覚、味覚ともにディテールまで飾りつけられたカレーは、〈HANABAR〉が始まってから今日まで、多くのお客さんに愛されている。お供に頼んだドリンクも、センスのスパイスが香る。
青いお花から抽出した青いお茶。見た目の個性の強さとは相反して、味や香りにはクセがなく、水のようにごくごく喉を通る。実はアンチエイジング効果も高いと噂の「アンチャンティー」。肌や髪、眼精疲労が気になる方にはおすすめのお茶だ。
見た目、嬉しい効用の他にも、まだまだ仕掛けが。備え付けのレモンの果汁を垂らす。
みるみるうちに「青」から鮮やかな「パープル」の液体に変身。科学の実験に立ち合うようなサプライズと、美しいパフォーマンス。あぁ、どこまでも私たちを魅了させる〈HANABAR〉。油井さん夫婦の、美しく、あたたかなおもてなしに、すっかりハートを鷲掴みされた私。
取材中、「彼女の好きなことは僕も好きなんです」と自然にこぼした油井さん。そのとき、私のハートは「きゅいん」と音を立てて、猛烈にクラッシュ。こんなに居心地がいいのは、この夫婦間に流れる優しい空気が正体ね。視覚、味覚、そして温度感。ふんだんに癒しの要素がある一間。大変ご馳走さまでした。
〈HANABAR〉
■東京都豊島区西池袋3-30-6 磯野ビル1F
■03-6874-5459
■[月〜金]11:30〜15:00(L.O.14:30)、18:00〜24:00(L.O.23:30)
[土日祝]11:30〜17:00(L.O.16:30)、18:00〜24:00(L.O.23:30) 不定休
※店内ではドライフラワーアーティストである奥様の作品も購入可能。詳しくはこちらから。
(photo:Kayo Sekiguchi)
☆前回の「洗練された空間で食べる上品なカレー。銀座の真ん中に突如現れた〈Mrs.Dada〉へ!」はこちらから。