花井悠希の朝パン日誌 vol.61 世界でも珍しい「もち小麦」を知っていますか?…〈manon〉と〈BREAD STORY〉
明けましておめでとうございます。お正月は皆さまゆっくりお休みできましたか?2020年オリンピックイヤーの幕開け。そんな華々しい新年一発目にふさわしいものをと考えた時、とうとうこの時が来たのではと震えました。せっかくなら国産小麦、もっというと地元の小麦を使ったパン。お正月のある1月が1番似合うだろうと密かに私が思っていた「桑名産もち小麦」を使ったパンをこの度紹介しちゃいます。お正月が似合うと書いたのには理由があるんです。名前そのままに、強烈に餅なパンなんです(意味不明)!
桑名で桑名産もち小麦のベーグルを…〈manon〉
実はいつ書こうかなってずっとその時を狙っていたんですよ。地元の桑名(観光大使を務めている四日市市のお隣で、高校卒業までヴァイオリンやピアノのレッスン等で週4回以上通っていた街)に小麦のブランドがあるだなんて、パン好きの私からしたら早く紹介したくてうずうずしていました。想いは人一倍!とはいっても、実際桑名に通っていた頃はもち小麦の存在は知らなかったのです。その出会いは数年後に突如やってきます。それはまた後ほど…。
軽くトーストいただきます。そうそうこの感じ。表面をサクッと言った後に追いかけてくるねちっと感。今までの記憶でこのねちっとした歯ざわりは餅やお団子でしか味わったことがなかったはず。ましてやパンでは初なはず!白玉のようなくにゅくにゅとしたもちもち感で圧倒しながらも、本来ならそれと矛盾するような歯切れの良さもあって。歯当たりはくにゅっと白玉そっくりな弾力で粘り気ある対応をしてくるのに、噛み始めると全然未練たらしくない。こちらが寂しくなっちゃうほど、歯切れよくサバサバした対応になるんです。こういう人と恋愛すると振り回されそうですね(ぶるぶる)!でもそここそが、餅じゃない小麦だからこその特徴なのかもしれません。
甘酸っぱくコンポートされたリンゴはシャクシャクとほんの少し歯応えを残し、滑らかな舌触りのサツマイモがファサファサと気持ちのいい絨毯を口内にひいて、レーズンの落とし物がきらり。その全てを確かめるように掬いあげていきましょう。ベーグル生地の個性も相まって、食感とテイストが何層にも重なり情報処理が追いつきません!先輩(誰?)!!といっても難しさはゼロ。うまいなぁうまいなぁって、細かいことは無用にきっとうちのおじいちゃんだって、美味しく食べてくれるはずです。ベーグルともち小麦の相性の良さはやはり想像を裏切りません!
こちらはまっしぐらに抹茶の香りが駆け込んできます。もうね、香りは焼き抹茶大福です。断面に白玉が見えるでしょうか?まずここからガブリといってみると出会うのは、白玉がとろっと熱で緩んだむにゅむにゅさと、生地のモチモチ感。いや餅感。白玉と餅って食感も口当たりも結構違っているんだなぁってふむふむと納得しながら食べ進めていた所で、ハタと気がつきました。いや、そもそもこれ餅ではないのだった。小麦粉なのだった。(頭がこんがらがってます)。あれ?
そこに栗きんとん。さすが栗きんとんです。さすが黄金色に輝くおせちのスタメンなだけあって、風味も香りも甘さもとても華やかです。栗の確かな風味がしっかり届いて私のニマニマが止まりません(危険)。そこに畳み掛けるように白玉さんが再登場!なんだ、キミさっきの一個だけじゃなかったのか!仲間が出てきたと捉えるのか、ボスを倒した先にまだボスがいたと捉えるのかは、あなた次第です(都◯伝説風にどうぞ)。栗きんとんの光り輝くしっかりとした甘みを抹茶の風味がバッチリたった生地でなだめるバランスが良きであります。そう。この子、食べても焼き抹茶大福でした。
近づくとチーズの香ばしい香りが。たまらずハムっといったその瞬間、すかさずその粘り気のある弾力に一本とられ、のっそりとしたこの子のペースにもっていかれます。やられた…そう来たか(3個目だから学習して)。
そんな豊かな表情の生地に包まれている明太子クリームはというと、滑らか且つ濃厚。クリームチーズと一緒になることでもったりとした口当たりになり、辛さもちゃんと感じさせてくれる明太子がどこまでも伸びやかに広がっていきます。明太子"味"じゃなくて、ピリッと少し辛さが残って、ぷちぷちと粒立ちがいきている明太子というところが贅沢です。そこに忍びの(!?)刻み海苔!こんな最高な刺客がここに来て現れるとは!もち小麦とベーグルの相性のよさ、そこに明太子が絡むなんて誰もが羨む組み合わせ(ですよね?)。そこにさらに海苔ですよ!グンと和テイスト感が高まり、揺るぎない完成度の高さに持っていきました。惣菜系ベーグル人気No. 1が頷ける逸品です!
ラブストーリーは突然に?…〈BREAD STORY〉
私がもち小麦と出会ったお店はこちらなのです。上京してきて数年。大学を卒業しデビューし音楽のお仕事を始めて銀座に訪れる機会も増えた頃、出会いは突然に訪れたのです。ある日のこと、可愛いお菓子が豊富な松屋銀座の地下食品売り場を嬉々としてうろうろしていると、目に飛び込んできた「桑名産」という三文字。目を疑いました。三重県桑名産ならまだしも「桑名産」の3文字が堂々と紹介文の出だしに書かれたパンと、ここ銀座で出会えるなんて!思わず聞いてしまいました。
「この桑名産って三重県の桑名産ですか?」と。そうだと言われて、紹介文を読み進めると、「桑名産もち小麦を30%使用。トーストしたら焼き餅のような味わいに」と書いてありました。もち小麦とは?焼き餅のような味わいってなに??沢山のハテナは興味をそそるには十分で、連れ帰って1口食べてみたその瞬間に惚れ込んでしまいました。それをやっと今回ご紹介させていただきます!いかに満を持して、か!少々熱量高めでもご容赦ください!
なんて大らかな食パンなのでしょう。表面の硬質さ、突入すればグッて入るもったりとした抵抗、続けて左右にのっそりと身体を揺らすそれだって、全部「餅」で経験があるものばかり。あのぷっくり膨らみ焦げ目がつくほどカリッと焼いたお餅のそれなんです!
サクリと軽やかな歯当たりの表面も、間髪入れずやってくるねちっと絡みつく粘着性も、全部全部お餅で思い当たるやつ。でも確かに目の前に鎮座しているのは食パンなんです。そして、それもこれも全てはもち小麦の仕業。そうそう、そんなに餅感あるなら重いのかな?と思った皆様、心配無用です。気泡が豊かに入り、空気の抜けと意外にもシュンと溶ける後味のおかげで、圧がなくて、むしろ小ざっぱりした印象すら受けるんです。"モチモチ"で片付けてしまうにはもったいなさ過ぎる食パン。こちらの混乱は見慣れているかのように、小麦の甘い香りが柔らかに微笑んでいます。
これはぜひトーストしてすかさず食べてほしい。私みたいに写真を撮っている時間ももったいないです本当は。焼きたてであればあるほどこの新体験なもち小麦の個性を、余すことなく真っ向から受け止められるはずです!
最近リニューアル発売にされた「角食100」。キタノカオリがメインに使われているのですが、10%に満たないくらいほんの少しもち小麦も使われているらしいのです。そのままも美味しいとオススメされたのでどちらもトライ!まずはそのまま。指でそっと触れてみると、そのしっとりとした湿度が指先から伝わってハッとします。なんてキメの細かい生地感なのでしょう。舌の温度で溶けてしまいそうな滑らかさです。
トーストしてみましょう(写真は撮り忘れてしまいました…)。さくっと表面を突破したら、甘い香りがふわり鼻と心を包みました。この突発的で幸せな瞬間があるから、パンってやめられないのよねぇ(聞いてない)。
きめ細かな生地は、さらに従順に歯切れよく変化し、耳も厚みの差はあれどテイストと感触は繋がっています。特に甘みを感じるのは耳から。でもそれは砂糖の甘みというよりもっとずっと穏やかなもの。つつましいお嬢様のような印象をうける食パンです。
「もち小麦の山型食パン」に次いで、もち小麦の使用割合が多いのがこちらとのこと。包みを開けるとぷわんと広がる和菓子のような清々しい香りは甘酒によるものでしょうか。和菓子にありそう、あ、よもぎにも近いかもしれません。青々とした、清らかな香りに包まれます。
クラストに包まれた内側の、水分がたっぷり抱えられている様はロデブのようでありながらロデブじゃない。ねっちりとくにゅくにゅと。重さを変えながらやんわりおしかえす弾力でこちらを楽しませてくれます。ルヴァン種を使用しているからか乳酸菌のような爽やかな酸味がわずかにあり他の2つとは違う味わいを感じることが出来ます。こちらが1番小麦の香りとテイストもしっかり前に出ているような印象です。あ、ちょっと待って!今、一瞬吸い付いてくる一派がいました!これはあのもち小麦たちなのでしょうか?どこ行ったー!?そんな風に己の口内も対話しながら食べるのも楽しくてオススメです(自己責任でお願いします)。
桑名産のもち小麦を使ったパン、どうでしたか?興味が湧いてきましたか?この餅らしさからはやはり私は日本らしさを感じるんですよね。だって餅だし。こんな日本らしさを感じさせてくれる小麦が、日本中に広がり世界に広がっていったらますます楽しくなりそうだなってワクワクします。まだまだ都内で食べられる所は限られていますが、ぜひ一度この面白い食感を体験してみてくださいね!
■前回の記事「2019年のパン納めは盛大に!…〈アテスウェイ〉と〈HEDIARD〉と〈Avranches Guesnay〉」はコチラから
お知らせ!
2020年は1966カルテット10周年の年。10周年記念ライブが1月27日あります!デビュー10周年の軌跡を音に乗せ、新しい章の幕開けを新たに披露するUKロックのレパートリーで飾る一夜となっています。ぜひ聴きにいらしてくださいね!
『1966 Quartet 10th Anniversary Tour 2020 -Night Carnival-』
【日時】2020年1月27日(月)開場18:00/開演19:30
【場所】Billboard cafe & dining(日比谷ミッドタウン3F)
■billboardcafe-1966quartet.peatix.com