一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』 /新年は、自分で着物を着てお出かけしたい。
ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん(通称:おみゆ)。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったのがこちらの連載。8回目は、伝統を受け継ぎながらも新しい着物の提案をし続ける呉服屋〈銀座もとじ〉の中井純子さんに着物の着付けを教えていただきました。
まずは、着付けに必要なものを準備しよう。
「銀座の街には着物が似合いますよね」と、目を輝かせるおみゆさんは、これまでも歌舞伎座の前を通るたび、あでやかな着物姿の女性たちにときめいていたそうです。今日は銀座4丁目にある呉服屋〈銀座もとじ〉で、そんな着物の似合う女性に一歩近づきたいと中井さんに着付けを教わります。
小谷実由さん(以下、おみゆ)「仕事柄、今までも着物を着せていただく機会はたくさんあったのですが、やっぱり大変そうなイメージがあるし、なかなかトライできずにいたんです」
中井純子さん(以下、中井)「普段、着物に馴染みがないと着付けを習うのはちょっと敷居が高いと思ってしまいますよね。でも、自分で着られるようになればファッションの楽しみもグンと広がりますし、おみゆさんならきっとお洒落な着こなしもお手のものではないでしょうか」
おみゆ「うれしい!がんばります。これが着物に使うものですか?」
中井「そうです。紐などはドレッサーや鏡にかけておくか、棚の上など取りやすい位置にセッティングしておくといいですね」
おみゆ「基本的なものをそろえておけば、いつでも着物を着られますね!」
Step1. 着物の土台・長襦袢を着る。
おみゆ「この後ろのしっぽのようなもので衿を抜くことができるなんて驚きでした!」
中井「『衣紋抜き』というのですが、初心者の方におすすめです。後ろのループに紐を通しておき、下に引くことで衿を簡単に美しく抜くことができ、そのままの形をキープできますよ」
おみゆ「便利ですね!衿を抜く加減はどれくらいがいいのでしょうか?」
中井「拳ひとつ分空けていただくのがよろしいかと思います。お若いお嬢さまなので、胸元は喉のくぼみが隠れるくらいを基準にして、しっかり合わせていただくことがポイントです」
おみゆ「お若いお嬢さま…(ニヤニヤ)」
Step2. いよいよ着付けの本番!着物を着る。
今日、おみゆさんが着るのは「白大島」という大島紬。鹿児島県・奄美大島の伝統工芸品で約1300年以前から作られていたと言われています。「東の結城、西の大島」と言われるほど、日本では最も上質で高級な紬織りの着物として知られています。
おみゆ「このお着物は、お花や波の模様などいろんな柄が入っていて素敵ですね。では、早速…」
中井「おみゆさん、お着物はお洋服と違って、そっと背中から羽織ります」
おみゆ「なるほど。背中からそっと…」
中井「ポイントは、袖を通すときに手の先から入れるのではなく肘から入れることです。長襦袢のたもとを持ち、肘から入れてお袖をポトンと落とします。」
おみゆ「肘から入れて、ポトン!」
中井「では、これから裾を決めてまいります。紬は普段着なのでカジュアルな印象で着たいので、少し短めに。長さの目安は大体床から1、2cm上です。訪問着やつけ下げなどフォーマルな装いの柔らかものなどは、逆に少し長めにするとエレガントな印象になります」
おみゆ「結構大胆に着物を持ち上げるんですね」
中井「そうです。グッと持ち上げたら、着物の後ろ側が、ヒップにピタッと貼りつくよう前に引っ張っていただくといいですよ。そして床から平行に徐々に下ろしていただきます。」
おみゆ「はい。グッと上げて徐々に下ろす…」
中井「いいですね。ここから上前を決めていきます。前にある縫い目の重なったところを『おくみ線』と言いまして、ここが右足の足袋の親指の分かれ目あたりにくるようにします」
おみゆ「こ、こうでしょうか……?」
中井「そうです。そのまま床から平行に上前を戻します。肘で下前を押さえながら手を抜いていきましょう。大丈夫ですか?」
おみゆ「は、はい…!着物を抑えるのに二の腕がプルプルしています」
中井「でもすごくきれいですよ。まっすぐストンと着つけるのはあまり美しくないんです。後ろから見ると裾すぼまりになるように着付けていきます」
中井「次にお衿を作ります。その前に、もう一度掛衿の左右が対称になっているか確認してみましょう」
おみゆ「ちょっとずれてますね。一つ動くといろんなところに影響しちゃうんだなぁ…」
中井「後ろの衿の位置は長襦袢の衿が5mmくらい隠れるように。ちょうど耳の下で長襦袢と着物が重なり徐々にお衿が出てくる感じになります。前は半衿が1.5〜2cm見えるように、衿を重ね合わせます。衿元を固定するため、アンダーバストの位置で胸紐を結びましょう」
おみゆ「せっかく作った衿を崩さないように…。ひゃー、また腕が辛い…!」
中井「胸紐を結んだら必ず背中のシワを取るということを覚えておいてくださいね。両脇へしごくことでシワがなくなります。最後に伊達締めをしてしっかり固定しましょう」
Step3. 最後に帯を結ぶ。
今日、おみゆさんが教わるのは基本的な「一重太鼓」。まず帯板を付け、帯を二巻きしてギュッと締めます。
おみゆ「着物を着て、あ、着れたーって思ったけど帯があったんだーって(笑)。でもこの帯、すごくかわいいですね」
中井「もうちょっとがんばりましょうね。この帯は『銀座もとじ』が養蚕農家さんと一緒に作っているもので、『プラチナボーイ』というオスだけの蚕の絹糸だけで作られたものになります。唐花の柄で少し洋風なテイストもありますね」
おみゆ「せっかくかわいい帯だから、きれいに見せてあげたいです」
中井「では、帯枕を入れますね。ポイントは後ろから見たときにお太鼓の顔となる表面にシワがないようにすること。そして帯山(帯の上線)は、なだらかな山を作るようにしましょう」
おみゆ「うわーまたもや体がキツイ!これは体が固い人は大変ですね。まずは柔軟性を身に付けるところから始めないといけないかもしれない…」
中井「後ろ姿にシワがあると台無しになってしまいますので、常に気にかけていただくことが重要です」
おみゆ「普段こんなに後ろ姿を気にすることってないですね」
中井「次に帯揚げをしていきましょう。これも手を後ろにまわすのはなかなか大変。あらかじめ帯枕に帯揚げをかけ、真ん中を輪ゴムで止めてセッティングしておく方もいらっしゃいます」
おみゆ「なるほど。これは練習あるのみですね」
中井「では、ここからお太鼓を作っていきます。だいたい帯の下線の位置に腰紐を当てて、帯を折り上げたらおさえます」
中井「ここまできたら、前で仮どめしていた手先を帯の中に通していきます。このとき手先の先端はお太鼓の両側から2〜3cm出し、お太鼓の下線と手先の下線が合うようにします。余った部分はお太鼓の中に折り込んで、綺麗に形を整えます。最後に帯締を通しましょう」
おみゆ「あとちょっとだ!」
中井「おみゆさん、真っ直ぐ立って横を見ていただけますか?美しい着姿は、『前下がり後ろ上がり』という表現をします。帯の前側の方が少し下がっていると、大人っぽくてきれいなんですよ」
おみゆ「確かに、少し前側を下げると雰囲気が変わりました!」
中井「さぁ完成です。今日はポイントを押さえた簡潔な説明になりましたが、やっぱり一度にすべてを覚えるのはなかなか大変。少しずつ身につけていきましょうね」
おみゆ「き、着れた…(小声)。今は、『シワを伸ばす』ということしか思い出せません!」
Step4. 着物を楽しむ。
着物を着てすっかり嬉しくなったおみゆさん。「脱ぐのがもったいない!」と、〈銀座もとじ〉の店内をしばし楽しむことにしました。
おみゆ「私、着物に羽織るコートの形がすごく好きで、ずっと着てみたかったんです。ほかにも帯留めとか、かんざしとか、着物に合わせる小物はどれもすごく可愛いらしいし、集めたくなりますね」
中井「ショール、とてもお似合いですよ。着物は小物の使い方一つで、雰囲気がガラリと変わりますよね」
おみゆ「メイクや髪型、身だしなみにはどんなことに気をつけたらいいですか?」
中井「口紅は少し濃い目のはっきりした色をお使いいただくとお顔が着物に負けずパッと華やかになりますよ。髪が長い方はやはり夜会巻きなどアップにしていただくとお首がすっきり映えますね」
おみゆ「そして、やっぱり大股では歩けないですね…(笑)。自然と上品になります。背筋も伸びて、すごくいい緊張感。こんな素敵な着物、おばあちゃんやお母さんにも見せてあげたいな」
着付け体験を終えて。
おみゆ「実家にはお母さんとおばあちゃんの着物があって、大学の卒業式に袴と合わせて着た以来、しまいこんであるんです。せっかくならもっと着てあげたいって思っていました。自分で着られるようになれば、ワードローブの選択肢も広がるし、自分の普段の生活の中にプラスすることでファッションの楽しみがうんと広がりそうです。それにしても体が硬いことがこんなにネックになるなんて思わなかったなぁ(笑)。これから柔軟体操も含め一生懸命練習して、お正月はもちろん、来年は、喫茶店や観劇など着物でたくさんお出かけしたいです。お茶やお花も習ってみたくなっちゃった」