一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』/ 本格的な手打ち蕎麦で年越しをしたい。
ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん(通称:おみゆ)。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったのがこちらの連載。6回目は、「江戸流手打ち蕎麦 鵜の会」の山田富子さんを先生に、おいしい蕎麦の打ち方を教わりました。
スピードが命!手打ち蕎麦の極意を教わる。
東京の下町で生まれ育ったおみゆさんは大の蕎麦好き。今回は憧れだったという蕎麦打ちを、「江戸流手打ち蕎麦 鵜の会」の山田富子さんに教わります。「今年は手打ちの年越し蕎麦を作りたい!」と意気込むおみゆさんに、先生が教えてくれた蕎麦打ちに大切なこととは…?
小谷実由さん(以下、おみゆ)「我が家は、ニシン蕎麦で年越しするのが恒例なんですよ。子どもの頃はそんなに好きじゃなかったけど、大人になったらお蕎麦は大好物になったし、行事食も大切にするようになりました」
山田富子さん(以下、山田)「素敵ですね。今年はぜひ手打ち蕎麦で年越ししてください。目標があると上達も早いですよ」
おみゆ「蕎麦打ちはずっとやってみたかったんです!特に長いめん棒で生地を伸ばすところと、麺を切るところ。お蕎麦屋さんに行くと、職人さんが作っているところをじーっと見ちゃいます」
山田「まさに『蕎麦打ち』という感じがしますよね。でも、蕎麦打ちで最も大切なのは一番最初の工程。粉に水をなじませる『水回し』なんですよ」
おみゆ「簡単そうな作業なのに、意外です。他にはどんな大切なことがありますか?」
山田「蕎麦打ちはとにかくスピードが命!水分が飛んでしまうと生地が硬くなってしまいますから、水回しから、練る、延す、切るまでを1時間以内に行うのが理想です。今日は『鵜の会』の作り方をしっかりと伝授していきます」
おみゆ「す、スピード…。なんだか緊張してきました…」
step.1:蕎麦打ちで一番大切な「水回し」
手から腕までしっかり洗浄し、身支度を整えたら、いよいよ蕎麦打ちのスタート!木鉢に蕎麦粉と小麦粉をしっかりと混ざるようにふるい入れていきます。
山田「粉は2回に分けてふるいましょう。全体を混ぜたら、粉の半分の量の水を3回に分けて加えていきます」
おみゆ「ここが一番大切な工程だと思うと緊張しますね。この『水回し』によってお蕎麦の仕上がりにどんな影響が出るんですか?」
山田「蕎麦粉がちゃんとつながらず、茹でたときに切れやすくなってしまうんですよ」
おみゆ「なるほど。丁寧にやっていきます!」
山田「水を入れたら、すぐに混ぜてください。スピードが大事ですよ!粉の全体に水を早く拡散させるため、指の腹を使って両手で回しながら混ぜていきます。手を熊手のようにしてください」
おみゆ「く、熊手。こうですか?」
山田「もっともっと!思い切って!ちょっといいですか?こうやってできるだけ早く粉に水が回るように混ぜます」
おみゆ「わー!先生早い!粉がどんどんつぶつぶになっていく!」
山田「では、2回目の加水です。ここで1回目の加水で引き出した蕎麦の香りや甘味を生地に閉じ込めるんです」
おみゆ「食べたときとは違う香りがします。ちょっとゴマの香りみたいな香ばしい匂い」
おみゆ「先生!生地がいっぱい手に付いちゃいます〜」
山田「自分で外してください」
おみゆ「…(笑)」
山田「生地がポロポロになるまでひたすら混ぜ続けます。ほら、生地もだんだんしっとりしてきたでしょ」
おみゆ「あんなにきめ細かくてサラサラしていた粉が少しずつまとまってきました。指に当たる質感がどんどん変わっていくのが楽しい!」
山田「さらに少しずつ加水して、生地をまとめていきます。この水を入れるタイミングの見極めが難しい。経験が必要です。」
step.2:蕎麦生地をまとめる「練り」
粉状のものがなくなり生地が自然とまとまったら、次は「練り」の工程。より滑らかに生地にツヤが出るまで練っていきます。
山田「体重をかけて、木鉢の向こう側に生地をグッと押し付けるようにします」
おみゆ「グッと…、こうですか?」
山田「ちょっといいですか?あのね、体全体を使ってこすりつける感じ」
おみゆ「先生、体が斜めになってる!よーし、私も体重をかけてやってみます」
山田「いいですよ! すごくお上手!生地をどんどん巻き取ってください。自分の体重をかけて!」
step.3:生地を均一に伸ばす「延し」
おみゆさんのナイスファイトにより、ツヤとコシのある滑らかな生地になりました。生地を円錐状にまとめて空気を抜き、今度は平らになるように「延し」ていきます。
山田「まずは手で生地を丸く延し広げます。ここも時間勝負ですよ!肘を伸ばして上から生地を押してください!ちょっといいですか?」
おみゆ「あわわ」
山田「丸く広げたら、延し棒を使ってさらに大きく伸ばしていきます」
おみゆ「ついに憧れの延し棒の登場ですね!クッキー作りで使ったことはあるけれど、こんな長い棒を扱うのは初めてです」
山田「延し棒の使い方を説明しますね。手の付け根側を使って手をスライドさせながら棒を転がし、ガタガタの表面を平らにしていきます」
まるで平泳ぎをするかのように延し棒を転がしていた先生ですが、おみゆさんはなかなか思うように転がすことができません。
おみゆ「え、私、なんか猫がじゃれついてるみたいになっちゃってませんか…?その先生みたいな華麗なフォームはどうやったらできるんでしょうか?」
山田「この延し棒を使いこなすのは、相当時間がかかるんですよ。『鵜の会』の初心者の方たちも、時間があれば素振りのように棒を転がして練習しています」
山田「さあ、今度は丸い生地を四角くしていく『四つ出し』です。生地を巻き棒に巻きつけて、延し棒で少しずつ均一な厚さに広げていきます」
さて、真剣に生地を延していたおみゆさんでしたが、思いもよらぬ悲劇が襲います。
おみゆ「ガーン!先生、爪で生地をえぐってしまい、穴があいてしまいました…。ごめんなさい(泣)」
山田「あらまぁ。こういうところから蕎麦は切れてしまうんですよ。でも大丈夫。周りの生地を使ってしっかり穴を埋め込んで補修しましょう」
おみゆ「冷や汗がすごいし、もう帰りたい(泣)これからの作業が怖くなってしまいました〜」
山田「何を言ってるの!ここまでとっても上手くやってます。すごく筋がいいですよ」
step.4 いよいよ蕎麦打ちのクライマックス「切り」
先生の優しい言葉に励まされ、なんとか気を持ち直したおみゆさん。生地を薄く均一に伸ばす「本延し」が終わったら、とうとう蕎麦打ちの仕上げ、「切り」の工程です。
山田「生地がくっつかないよう打ち粉をたっぷりまいて、生地の端と端を持ったら、そっとたたんでいきます」
おみゆ「そーっと…」
打ち粉を丁寧に振りながら生地を折りたたみます。
山田「まな板の上に粉をたっぷりふるい、生地が動かないように滑り止めをしておきます。ここに生地を移動させ、駒板で押さえながら切っていきます」
おみゆ「『切り』も憧れの作業です。やっと辿り着きました!でもここまで全ての工程がメインみたいで、ずっと緊張しっぱなしでした」
山田「ほらほら、リラックスして。肩の力を抜くことが大事ですよ。駒板の上にのせる手は、親指と人差し指、中指を板にくっつけてキツネのようにしてください」
おみゆ「キツネ!」
まずは先生が見本を見せてくれます。トントントントン…。リズミカルな音が響きます。
山田「駒板で押さえながら、蕎麦包丁を真っ直ぐ下ろして切る、そして刃を傾ける。切る、傾ける、切る、この繰り返しです」
おみゆ「いい音!リズムがいいですね。私も挑戦してみます」
山田「そうそう、いい調子。普段、お料理しているから包丁使いに慣れていますね」
おみゆ「今日、一番リラックスして向き合える作業です(笑)先生みたいにリズミカルにはまだ切れないけど…」
山田「幅は1.7mmくらいのイメージね。断面が真四角になるように切りましょう。ちょっと太くても大丈夫。細く切ろうとすると、初心者の人は麺が切れ切れになってしまうの。最初は無理せず、太めでも気にしないこと」
おみゆ「先生みたいに細く切るのはやっぱり難しいなぁ。でも、楽しい!」
山田「ある程度切ったら包丁の刃じゃない部分を使って麺をすくい取り、余計な粉を手ではたいて外します」
おみゆ「比べてみるとやっぱり細い麺の方がおいしそう。同じ生地で作っているはずなのに先生の麺はきめ細やかに見えます」
山田「でも、太いお蕎麦は自分で作らなきゃ味わえませんから。さぁ、実際に食べてみましょう!」
蕎麦打ち体験を終えて。
先生に「ちょっといいですか?」と、度々指導されつつも、なんとか蕎麦打ちを終えたおみゆさん。初めて自分で作った蕎麦はどんなお味でしょうか?先生の打った蕎麦と食べ比べも楽しみです。いざ、実食!
おみゆ「やっぱり太麺!すごく食べ応えあります(笑)でも、おいしいです」
山田「自分で打った蕎麦はやっぱり格別よね。お気に入りの蕎麦粉を使って蕎麦が作れるということも自分で蕎麦打ちをする楽しみの一つです。腕ももちろん大事ですが、蕎麦の味は、使う粉によって全然変わりますから」
打った蕎麦をさらにおいしくいただくため、ここで茹で方のポイントをご紹介。まず、大きめの鍋にたっぷりのお湯を沸かし、その中に1人分の蕎麦を優しくほぐしながら滑り込ませます。お湯が再び沸き出し、麺が表面に浮いてきたら箸で蕎麦をやさしぐ泳がせ、鍋全体に泡が溢れるようになったところでザルにあげます。素早く流水で熱を冷まし、水洗いしてぬめりを取ります。さらに20〜30秒ほど氷水に漬けると蕎麦がしまってコシが出るそう。
山田「残った生麺は、乾燥しないようタッパーに入れて冷蔵庫で保管するのがオススメです。2、3日で食べきってください」
おみゆ「蕎麦打ちって、思っていた以上に繊細なものでした。力の入れ具合や生地の扱い方に常に全神経を研ぎ澄ませておく必要がある。すごく集中力を使いました。特に、最初に教わった通り『水回し』は想像以上に難しかったですね。時間勝負!と言われてかなり焦ってしまいました。延し棒を使って生地を伸ばす作業も、もっとカッコ良くできるかな、なんて思っていたけど、全然思うようにいかなかったなぁ」
山田「でも最初にしては上出来ですよ。蕎麦打ちを極めるには何より練習が必要。いっぱい失敗することが大事です」
おみゆ「今後もやっていきたいなぁという興味はもちろんありますけど、家の中で打つのはスペースの確保がなかなか大変そう。趣味でやるのはちょっとハードルが高いかな。でも、年越し蕎麦はぜひ自分で作ってみたいと思います。ところで先生はやっぱりかなりのお蕎麦好きなんですよね?」
山田「あ、私は関西出身でうどん派なんです。どっちかといったらうどんが好き」
おみゆ「え〜!!(笑)」
今回、教えてくれたのは?
今回、おみゆさんとの絶妙な掛け合いを繰り広げつつ指導してくれたのは、「江戸流手打ち蕎麦 鵜の会」の山田富子さん。「鵜の会」は、江戸蕎麦について研鑚し、蕎麦や蕎麦打ちの道具に関する知識を深めるとともに、手打ち蕎麦の普及に努めています。福井県や栃木県など、各地の「そば祭り」に出店することも楽しみの一つだとか。毎月第1土曜日と第3日曜日の13時から、北新宿生涯学習館で初心者への丁寧な指導を行っています。
「江戸流手打ち蕎麦 鵜の会」
■東京都新宿区北新宿3-20-2新宿区立北新宿生涯学習館
■公式ホームページ
(photo : Natsumi Kakuto, text : Renna Hata)