小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』/金継ぎで割れた器を修復しよう。
2019.09.22

一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』/金継ぎで割れた器を修復しよう。

ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったこちらの連載。5回目はナカムラクニオさんを先生に、新うるしを使った短時間で完成する金継ぎテクニックを教わりました。

小谷実由 / ファッションモデル

「モデル。1991年、東京生まれ。愛称”おみゆ”でおなじみ。喫茶店巡りはライフワーク。」

小谷実由
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金継ぎの持つ、調和の哲学を教わろう。

以前、作家さんの作った金継ぎの器を見て一目惚れしたという小谷さん。割れる前より魅力的な器に生まれ変わっていたことが印象的だったと言います。全国でワークショップを開催されているナカムラクニオさんを先生に迎えて、まずは金継ぎの魅力や調和の哲学について、お話を伺いました。

ナカムラクニオさん(以下、ナカムラ)「金継ぎとは、割れたり欠けたりした器をうるしで接着し、継ぎ目を金や銀で飾る伝統的な技法です。単なる修理と思っている方も多いと思うのですが、実際はそれだけではなくて。私はもっと、”見立て”みたいな行為かなと思っています」
小谷実由さん(以下、小谷)「見立て…ですか?!」
ナカムラ「例えばここに、小さなひびが入っているじゃないですか。これを”雷”や”川”として見立てるわけです。どうでしょう?この器に新たな景色が広がってきませんか」
小谷「なるほど。器のひびから想像を巡らせて、雷や川に思いを馳ていくわけですね」
ナカムラ「その通りです。単に器を直すというより、もっと創作に近い存在です。新たな作品を作る技術だと思ってもらっても、いいかもしれませんね」

古唐津の陶片をつなぎ合わせた、ナカムラさんの呼継ぎ作品。

小谷「ナカムラさんのように金継ぎが生活の中に根付いてくると、ひとつの器も長い期間、使い続けられるようになるのでしょうか?」
ナカムラ「私は今でも、子どもの頃から同じお茶碗を使い続けています。もう40年以上経つのですが、何度も壊れたところを直しながら、大切に使っています」
小谷「素敵ですね。ひょっとして、モノを捨てるっていう発想自体がなくなってくるのでしょうか」
ナカムラ「壊れても直せばいいだけなので、次第に壊れるっていう恐怖はなくなってきますね。金継ぎのよさは、大切な器が再び使えるようになったり、愛着を持って長く付き合えるようになったりすることです。ちなみに私は、「縄文土器」や「弥生土器」だって普段使いしていますよ」

小谷「自分で直す技術が身につくと、大切な器も日々気軽に使えるようになりそうですね」
ナカムラ「そうなんです。どれだけ高級なものや古いものでも、器は普段使わなければ意味がないじゃなですか。金継ぎができるようになると、極端な話、器ひとつをずっと使い続けることだってできてしまうので、わざわざ高いものとそうじゃないものを、使い分けする必要がなくなります」
小谷「お気に入りの器も、しまいこまずにどんどんと使えるようになる訳ですね」
ナカムラ「その通りです。あとは、直す喜びが生まれて、割れること自体が悲しくなくなります。私の場合は人が何かを割っても怒らなくなりましたね。「いい割り方をしたね」って」

今回、使用する材料と道具はこちら。

ナカムラさん考案の「新うるし」を使った金継ぎに必要なものは、なんとこれだけ。すべて揃えても3,000円程度で、いずれも〈東急ハンズ〉やホームセンターなどで手に入るものばかりなのだとか。

1 新うるし
2 金粉
3 うすめ液
4 パテ(合成樹脂)
5 耐水性の紙ヤスリ(400番と1000番)
6 筆
7 竹ヘラ
8 マスキングテープ

※その他、瞬間接着剤やカッターナイフなど。今回は乾きやすく、手もかぶれない「新うるし」を使用します。

Step.1 割れた器をくっつけよう。

実習スタート。まずは、ふたつにパキッと割れてしまった、抹茶茶碗の接着から。

ナカムラ「ではまず、欠片を接着していくところからはじめましょう。うるしは接着に時間がかかるので、今回は瞬間接着剤で代用します。器をできる限り、元の形へと戻すことを意識します。接着剤がはみ出さないよう、注意してくださいね」

ナカムラ「できるだけ隙間ができないよう、ぎゅっと押さえながら接着し、乾くまでマスキングテープを貼っておきましょう。この時、既に器をどんな仕上がりにしたいか考えておくことがポイントです。今回の割れ目は、お茶碗の底に近付くに連れて鋭くなっているので、細く繊細な線と、太く豪快な線の強弱を表現できれば、おもしろくなるかもしれませんね」

Step.2 すき間や穴を埋めよう。

1分後。次は、パテ(合成樹脂)を使って、隙間を埋めていく行程です。

ナカムラ「パテをカットし、白とグレーの部分が混ざるよう指先でよく練り合わせます。パテは、色の違う部分が混ざりあうと硬化が始まり、10分ほどで器と同じくらいの硬さにまで固まります。柔らかいうちに作業を進めていきましょう。虫歯の治療をするような気持ちで、隙間に小さくちぎって埋めていきます。ほんの少しだけ水をつけると、パテが隙間に入り込みやすくなりますよ」

ナカムラ「パテが固まったら、一度丁寧にヤスリがけしておきましょう。紙ヤスリを水で濡らしながら、器に馴染むよう、表面をなめらかに磨いていきます。はみ出した瞬間接着剤やパテも、ヘラを使ってそっと削ります。ひびをライトや明るいところにかざして、隙間がないことを確認しながら進めていきましょう。きれいに隙間が埋まっていれば、触っても段差が感じられないはずです」

Step.3 割れ目に金をのせていこう。

いよいよ、本題の金継ぎへ。ひびに金を入れていく作業は、無心で傷をなぞることが大切だといいます。

ナカムラ「まずは、新うるしと金粉を混ぜましょう。それぞれを一対一の割合で小皿に出して、うすめ液を加えながら筆で混ぜていきます。マニキュアのような柔らかさで、ハケ目がすっと消えるくらいになれば、ちょうどいいですね」

ナカムラ「次はいよいよ、割れ目に金を塗っていく行程です。新品の筆先に金の液をとり、パテを隠すようにのせていきます。筆先を寝かし、おいていくような感覚でゆっくりと作業をすると、きれいに仕上がりますよ」
小谷「ふー、緊張で手が震えてきました。しかも私、実は手先がすごく不器用で…」
ナカムラ「創作の世界では、不器用な人の方がいいものを作ることが多いんですよ。不器用ならではの魅力と言いますか、その不完全さが美の形となり、「わびさび」の原点となる訳です」
小谷「先人の方たちは、どうして器の修復に金を使おうって思ったのでしょうか?」
ナカムラ「金は、その昔、”光の代用”として扱われてきました。谷崎潤一郎が蒔絵に金を使った理由を「乏しい光の中における効果を狙ったものだ」と言っているんですね。つまり、金は「月」だったり「太陽」の表現として用いられてきたと考えられています」

どんどん無口になり、のめり込んでいく小谷さん。

小谷「金継ぎは、描く線によって大きく印象が変わりそうですね」
ナカムラ「あえて筆先を震わせたり、揺らぎのある線にすることで、味わいが生まれたりすることもあります。小さなキズがある場合は、そのキズを楽しむつもりで、あえて大きく金を入れてみるのもいいかもしれませんね」
小谷「なんだか、地図の海岸線や国境線をなぞっているような感覚になってきました。何と言うか、ひびと向き合っている感じがします」
ナカムラ「いいですね。金継ぎはひびを楽しむ芸術ですからね。極めると、”ひび目線”で世界を見つめられるようにもなりますよ」

金継ぎ体験を終えて。

初めての金継ぎに苦戦しながらも、最後まで自らの手で完成させた小谷さん。彼女は今回の体験から何を感じたのでしょうか。

小谷「できましたー!」
ナカムラ「ここの鋭く入った襷のような線がいいですね。徐々に勢い付いてきた様子が伝わってきます」
小谷「最初は、真っすぐきれいにやらなきゃ!という意識が強かったのですが、途中で少しはみ出してしまったのをきっかけに、もっと流れに任せてやってもいいのかもという気持ちになりました」
ナカムラ「その開き直りが、うまく線に出ていますね。作業中にしっくりこなかったところが、後にアクセントとなって、愛着が湧いてきたりすることも多いものです。この作品に名前をつけるとしたら、何がいいと思いますか?」
小谷「うーん、「血管」というのはどうでしょう。基本的に真っすぐなんだけど、ところどころちょっとブレていたり。なんだか、自分の描いた線に血が通っているなと感じました」
ナカムラ「お、いいですね。改めて見ると、確かに血が巡るような、揺らいだ線が描けています」

タイトル:血管(けっかん)

小谷「金継ぎって、きっと難しいんだろうな、時間がかかるんだろうなと思っていましたが、実際はもっと気軽にできることなんだ!と思いました。器って当たり前ですけど、急に欠けたり、割れたりするじゃないですか。洗っている時だったり、重ねて運んでいる時だったり。え、こんなことで?くらいのきっかけで、はかなく壊れてしまうことってあると思います。いつもだったら泣く泣く捨ててしまう器も、金継ぎができればバッチリ治すことができる。壊れたものを自分の手で直すって素敵なことだなと思いました。あとは繰り返し使えるようになることや、かけ合わさって新しいものが生まれることなど、金継ぎの持つ哲学みたいなものにも魅力を感じましたね」

今回、教えてくれたのは?

今回、先生として金継ぎを教えてくれたのは、荻窪のブックギャラリー〈6次元〉店主のナカムラクニオさん。著者に『金継ぎ手帖』『はじめての金継ぎBOOK』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』など多数。〈6次元〉では、定期的に一般の方向けの金継ぎ講座を開催しています。詳しくは下記WEBサイトをご覧ください。

〈6次元〉
■東京都杉並区上荻1-10-3 2F
■不定休
http://rokujigen.blogspot.com/

小谷実由

次回は蕎麦打ちを体験します。お楽しみに!

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