娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 『伊藤家の晩酌』~第三夜3本目、食卓が豊かになる食中酒「あべ 定番純米酒」~
弱冠22歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入!酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 3本目は、想像力をかき立てる、旅情を感じる一本。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第三夜3本目は、つまみと合わせることでさらおいしさが広がる食中酒「あべ 定番純米酒」。
父・徹也(以下、テツヤ)「ラベル、潔くていいね」
娘・ひいな(以下、ひいな)「『あべ』、最近人気になってきてるんだよ」
テツヤ「ラベルも和紙っぽいし、何気におしゃれ。蔵元の名前が酒の名前っていうのもシンプルでいいね」
ひいな「阿部酒造は、『越乃男山』っていう代表銘柄があって、すごく新潟のお酒って感じなの。いま6代目で次期蔵元杜氏っていわれてるのが阿部裕太さん。26BY(ライター注:平成26年度に醸造されたお酒のこと。BYとはブリュワリー・イヤーの略で醸造年度を指す。7月1日から新年度に)からお酒造りに携わってるらしくて。大学を卒業してから会社勤めをして、実家に戻ってきたみたい」
テツヤ「若き6代目が造った酒なんだね」
ひいな「この蔵は、米の味と酸をちゃんと出すことを意識して造っているらしくて、そのポリシーがめちゃくちゃ私のタイプだったんだよね」
テツヤ「米の旨味も、酸も大好きだもんな」
ひいな「飲んでみた時、好きなお酒だなと思った」
テツヤ「そりゃ、早く飲んでみたいね」
ひいな「『天青』に行った時に買ったアルミのおちょこで飲んでみて」
テツヤ「このおちょこ買って正解だったね。こう見えてアンティークなんだよね」
ひいな「うん、かわいい」
テツヤ「値段はかわいくなかったけどね(笑)」
ひいな「徳利には注がず、そのまま入れるよ。冷たさを感じてほしいから」
テツヤ&ひいな「じゃ、乾杯!」
テツヤ「うん!? これはどういう特徴なんだろう…表現しづらいな」
ひいな「私が飲んだ感想言っていい?」
テツヤ「うん、お願い」
ひいな「香りは、香ばしくて、ちょっと濃そうな味っぽいんだけど、口に入った瞬間、プラムみたいな酸味とアルコール感が一気に出てくる感じ。余韻に注目してほしい」
テツヤ「コメントしづらいけど…素人的な感想だと、特徴がないぶん一番好きかも。どこにもマトリックス図の偏りがない感じ」
ひいな「“立つ鳥跡を濁さず”感ない?」
テツヤ「あぁ、うん、わかるわかる。すーっと消えていく感じ?」
テツヤ「あ! これ新潟の酒なんだ!」
ひいな「新潟が淡麗辛口だけだと思ったら大間違い!」
テツヤ「淡麗辛口だけではすまさない感じ」
ひいな「そうそう、旨味がある。のどの奥で小さな花が咲いてる感じ?」
テツヤ「のどちんこ花!」
ひいな「とても飲食のコメントは思えない…父親交代(怒)!」
「あべ 定番純米酒」に合わせるおつまみは、酸味が強めの「本ししゃもの南蛮漬け」
ひいな「このお酒は、本ししゃもの南蛮漬けに合わせて」
テツヤ「聞いただけで合うね。たしかに、甘酢っぱい感じがもう少しほしいから。ひいなは、乗っかる系だね。補って、マトリックス図を完璧にする感じ」
ひいな「そうだね、この前話した1+1=5になるように組み合わせを考えてる」
テツヤ「こりゃ、いいね。旅先の小料理屋で、何にしようかな?と思って、メニューに地の魚の南蛮漬けがあって、それを食べてる感じがするな」
ひいな「すごい、ストーリーができてる(笑)」
テツヤ「旅先の感じがした。新潟競馬場に来て、1日負けちゃったけど、この南蛮漬けで盛り返すみたいな。いろんな情景が浮かぶね」
ひいな「想像力すごいね。もう酔っ払ってるだけかもしれないけど(笑)」
テツヤ「(笑)。いや〜、合うね。この補完関係はすごいかも!」
ひいな「これは間違いないと思って。迷わずに決めた」
テツヤ「今日のなかで一番合うね」
ひいな「南蛮漬けで酸を補ってる感じ。補完関係」
テツヤ「もうちょっと来いよ!酸!みたいな」
ひいな「ガチっと合いすぎてて、ほかの組み合わせ思いつかないぐらいだよね」
テツヤ「甘酸っぱい感じなら合うんじゃない? 千枚漬けとか。酢豚とか。パイナップル入りのね」
ひいな「合うね、絶対。生ハムに焼いたアスパラガスををくるくる巻いたのもすごく合ったよ。塩気が最高で」
テツヤ「『あべ』はさ、わざと抑えめにしてるのかな? どんな味が来てもいいように」
ひいな「料理にすごく合うようになってるのかも」
テツヤ「そう。だから、料理屋さんは好きなんじゃない? 料理に合わせる食中酒として。これぞ、口内調味だね」
ひいな「いい意味で、お酒の味に“山がありすぎない”っていうか。南蛮酢の酸味とししゃもの旨味が加わったらドンピシャだったね」
テツヤ「南蛮漬けの酢がうまいねぇ。ひいな、店出せるよ。こりゃ、ごはんじゃなくて、お酒に合わせる味つけだもんな」
ひいな「2日間、じっくり漬けたからね」
テツヤ「単体で飲むよりも、つまみがあることで食卓が豊かになるお酒だね」
これはこれ、それはそれ。どんな日本酒でもまずは何でも受け入れたい。
テツヤ「ひいなはさ、嫌いな酒ってあるの?」
ひいな「難しいこと聞くね」
テツヤ「じゃ、タイプじゃないお酒は?」
ひいな「タイプじゃないお酒があんまりないことが、私の悩みであり強みだと思ってる。米の旨味がぎっしりしすぎるお酒も、酸が立ちすぎてるお酒でも、それはそれでおいしいと思っちゃうんだよね」
テツヤ「それに対して、受け止めるつまみがあればいいわけだもんね」
ひいな「そうそう。これはこれ、それはそれってね」
テツヤ「まだ22歳で、日本酒が入り口なんだもんね」
ひいな「日本酒はまず何でも受け入れる。まずい日本酒でこれは飲めないっていうのとまだ出会ったことがない」
テツヤ「これから徐々に狭まってきたりするのかな?」
ひいな「それも楽しみだけどね。自分の好みがはっきりしてくるというか」
テツヤ「まだ想像つかないね。当分は一緒に楽しんでもらえるかな(笑)」
(次回、第三夜4本目は10月6日更新です)