ニーズが高まる「腟」のアンチエイジングとは?|レディースクリニックなみなみに学ぶ女性のヘルスケア#3
生理や妊娠・出産、更年期、閉経など、さまざまな変化の波が訪れる女性の身体。ライフステージによって悩みも変わっていくなかで、どのように身体と向き合っていけばいいのでしょうか?
この連載では、女性の体調・人生におけるさまざまな波(なみ)を理解し寄り添うことで、すべての世代の女性のかかりつけ医を目指すレディースクリニックなみなみの叶谷愛弓院長が、女性が気をつけるべきことや身体をいたわるヒントを解説。第3回となる今回のテーマは「腟の医療」です。
ニーズが高まる、「腟」のアンチエイジング
―今回のテーマは「腟の医療」ですが、叶谷先生はなぜ今「腟の医療」に着目しているのでしょう?
叶谷:今、腟のアンチエイジングのための医療のニーズがとても高まっているからです。というのも、肌や他の臓器と同じように女性器も年齢とともに変化していき、さまざまな症状が出現するんですよ。
―たとえばどんな症状が出てくるのでしょうか?
叶谷:閉経すると女性ホルモンが低下しますよね。それによって、外陰部に乾燥感や違和感を覚えたり、膀胱炎を繰り返してしまったり、性交痛や性的感度の低下が生じたりします。そういった閉経後の女性ホルモン低下に伴う外陰部や腟の萎縮変化などの身体症状のことをGSM(閉経後尿路性器症候群)というんです。
―そういった症状って、「年齢だから仕方ない」というふうに諦められてきたものでもあるんじゃないかと思うのですが、今、腟のアンチエイジングのニーズが高まっているのはなぜなのでしょう?
叶谷:近年の60代以降の方はひと昔前から比べると各段に若々しく、仕事も続けている方が多いので、性的活動性も高く、従来仕方ないと片付けられていた症状に対しても積極的にセルフケアや治療が行われるようになってきたんです。ただ、フェムテックの広がりによって、様々なデバイスやクリーム、美容液などが登場してきているのですが、しっかり効果が実証されて 使えるものはまだまだ少ないですし 、治療に関しても保険診療の範囲内での治療が難しい現状があります。
―となると、具体的な治療は自費診療のものが多いのですか?
叶谷:そうですね。さきほど挙げた外陰部の違和感、乾燥や性交痛などに対しては、自費診療であるインティマレーザーがとても効果的です。腟のコラーゲンを増やしてふっくらさせるので瑞々しさが取り戻されます。施術から3週間くらいで症状が改善する方が多いです。しかし 、インティマレーザーは効果がずっと続くものではなく、メンテナンスとして1、2年に一度はしないと元に戻ってしまうんです。 お肌のケアと同じで、定期的なメンテナンスがとても重要なのは腟も同じなんですよ。
QOLに大きく関わることなので、まずは産婦人科医に相談
―その他にはどういった選択肢があるのでしょうか?
叶谷:たとえば、デリケートゾーンのホワイトニングは若い方でも治療を受ける方が増えていきています。VIO脱毛が普及して今まで見えなかった部分まで気になるようになったという方もいらっしゃいますし、 産後のお母さんたちもホルモンバランスの変化で色素沈着が起こるので施術を希望する方が多いです。でも、気にする気にしないは本当に個人差がありますし、GSMの症状も色素沈着も命に関わる問題ではありません。ただ、QOLを大きく損なうものですから、まずはかかりつけの産婦人科医に相談していただくことをおすすめします。
―こういった治療は美容クリニックで行われているイメージが強いですが、産婦人科でも診てもらえるものなのでしょうか?
叶谷:はい。おっしゃるとおり産婦人科医ではない美容のクリニックが治療を行っていることが散見されますが、本来、産婦人科医師が行うべきだと私は考えています。GSMはそもそも産婦人科の専門でありますし、産婦人科医はいわば女性器のプロです。患者さんが気にされていることへの的確なアプローチはもちろん、何かトラブルが起きた時や代替案が必要になった時にも専門知識を活かして柔軟に対応できると思います。
―クリニックで相談したらすぐに治療してもらえるものなのでしょうか?
叶谷:当院ではまず相談に来ていただいて、しっかり適応を吟味して治療するという流れになります。ですので 、最初の診察で、「あなたはインティマレーザーじゃないほうがいいと思いますよ」というようなお話をする場合もありますね。また、先ほどもお話ししたとおり、インティマレーザーなどは自己診療で費用が嵩みますし、最初は保険治療を提案することももちろんあります。QOLに関わることですからある程度患者さん本人の希望に沿って施術していきますが、医師としてはできるだけ最も効果が高くニーズに合うものを選んでいただきたいと考えています。
本人の希望によっては、保険診療の範囲でできることも
―先ほど自費診療の治療が多いとおっしゃっていましたが、保険適用でできることもあるのですか?
叶谷:基本的にはやはり自費診療になりますが、GSMや色素沈着などのお悩みで来院する方はすべからく腟や外陰部が乾燥しているので、保険適用の軟膏を処方することはできると思います。軟膏で潤していくことも重要な治療ですので、お悩みや症状の程度によっては、軟膏から始める場合もあるんですよ。
あと、GSMは女性ホルモン低下による症状なので、保険適用の女性ホルモンの腟剤を処方することもありますね。ただ、保険診療は安価ですがどうしても限られた範囲での治療になりますし、逆に自費診療は高価ですが症状に対して効果が高いものもあるので、本人の希望や経済状況などを見極めたうえで相談しながら治療を進めていきます。若い方にとってGSMはまだ先の話ですが、困った時に選択肢があるということを知っておくだけで少し安心できるんじゃないかと思います。更年期の知識は徐々に広まってきていますが、ぜひそれ以降に起こることも少しずつ知っていきましょう。