【東中野でひとりのみ】まるで海外旅行。絶品!多国籍料理と本格カクテルが楽しめるお店2選
今日は、あの街で一人のみ vol.05
“よそ行きの私”に少し“素”が混ざったような、どっちつかずの自分で楽しむ時間は外呑みならでは。そんな外呑みの醍醐味、たまには “ひとり”で味わいませんか。誰にも気を遣わなくていい。自分と対話をする。いつもじゃない人と出会う。知らない世界に飛び込めるひとり呑み、女性ひとりでも気負いなく楽しめる場所を、お酒業界の広報歴14年の児島麻理子さんが“あの街”で探索します。今回の街は東中野。
お酒にまつわるプロデューサーやライターとして活躍。出版社、洋酒会社での広報の経験を生かし、お酒の楽しさを日々発信している。趣味は世界の蒸留所を巡ること。これまでに世界7か国国以上の蒸留所とバーを巡る。ハナコラボパートナー。Instagram:@mariccokojima
新宿から中央線で4分とターミナル駅近郊ながら、独自の文化が息づく東中野はガラパゴス感のある街。インディペンデント映画館の〈ポレポレ東中野〉や昭和情緒溢れる飲食店街「東中野ムーンロード」など、文化遺産が地元の人に大切に守られている雰囲気があります。
“住んでこそわかる、東京ローカルの魅力が詰まったエリア”と地元の人も語るほど。そこで東中野の奥深さを知るべく、多国籍料理が味わえる2軒で今回はひとりのみ!
1軒目:“自家製”がモットー。創作イギリス料理のガストロパブ〈BESPOQUE〉
駅沿いから1本入った小道に現れる「BESPOQUE STREET NW1」のストリートサイン。イギリスの通りで見るサインでお出迎えしてくれるのが、ガストロパブの〈BESPOQUE〉です。
「イギリスだと、小さい通りでもすべて通りの名前があるのに、日本はないなと思って。お店をオープンしたときに、通り名を自分で作って貼りました」
そう笑って話すのは、イギリス滞在歴があるオーナーで料理人の野々下レイさんです。
野々下さんが料理に目覚めたのは、音楽が好きで滞在していたイギリスでのこと。
「ヨーロッパの中心地のイギリスは、ジャマイカやアジア、トルコなどさまざまな食材や食文化が集まって来ます。その多彩さに興味を持って、自己流で料理を始めました。イギリスの食からインスパイアされたものが多いですが、あちらだと“ガストロパブ”と呼ばれる創作イギリス料理ですね」(野々下さん)
帰国後、大使館等での料理の仕事を経験し、自分でお店を開くことにした時、「当時、多国籍料理も多くて雑多な感じがロンドンの中心街にあるソーホーに似ていたから」という理由で東中野にオープンを決めました。
創作イギリス料理という通り、野々下さんの料理は一般的なパブとは一線を画すもの。サーモンの燻製、フレッシュチーズ、ソーセージからパンまで、目に入るほとんどのものが自家製です。口に入れたときにその丁寧さがじっくりと胃袋まで伝わってきて、よくある素材でも手作りだとこんなにおいしくなるのかと感動すら覚えます。
たとえば、イギリスで開催されるテニスの国際大会、ウィンブルドンの定番カクテルとして出される「ピムス」。ドリンクひとつからも野々下さんのイギリスの知識がにじみ出ます。
「キュウリを入れるというのがイギリスの貴族文化らしいところ。キュウリって舶来品だから、ヨーロッパでは高かったんですよ。その伝統でアフターヌーンティにもキュウリが入っているんですよね」。
日替わりの具材をのせたカナッペは、お店の定番メニュー。この日は、ドライトマトとリコッタチーズのカナッペと、スモークサーモンのカナッペがラインアップ。リンゴのチップで瞬間燻製したスモークサーモンは、優しい燻製感が添えられたディルと相まって、食べ心地のよい一品。自家製のリコッタチーズもフレッシュながら味わい深く、カナッペだけでも満足感があります。
そして、自家製の真骨頂を感じるのが、人気メニューの「ソーセージ&マッシュ」。地域により風味付けが異なるイギリスの生ソーセージは、日本には輸入されていないもののひとつ。この日はリンカシャー地方のソーセージをモデルにしたもので、ハーブやナツメグ、セージが入ったもの。
添えられたマッシュはしっかり裏ごしされて、まるでクリームのような滑らかな味わい。圧倒的な手間が感じられるオニオングレービーソースがかけられており、食べる前と後で確実にソーセージへの世界観が変わるはず。
実はコース仕立てになっている〈BESPOQUE〉のメニューですが、ひとりで立ち寄りたいときはアラカルトで楽しめるのが、こちらのお店のよいところ。そのなかでも、「デザートは大事!」と野々下さんはこだわりを持ちます。
この日のデザートは、白ワインをムースに仕上げたシャルドネのムース。飲めないお客様も意外と多いという〈BESPOQUE〉で喜ばれる、お酒の味がイメージできるデザートです。
日々進化するメニューは、野々下さんのおもてなしの心の現れ。その人柄惹きつけられて、集まるお客様は温かく、常連さんはおすすめのメニューを教えてくれるなど、ひとりで初めて訪れても優しく迎え入れてくれます。
体に優しいガストロパブで、身も心も温めたら次のお店へ。
〈BESPOQUE〉
場所:東京都中野区東中野1-55-5
営業時間:17:30~22:00(日曜ブランチ9:00~15:00)
定休日:月・火・土曜日
TEL: 03-5386-0172
公式インスタグラム:@bespoque
2軒目:メキシコ出身のオーナーが体現する、伝統×モダンの創作メキシコ料理〈KUMA CANTINA〉
駅から中央線沿いに延びる桜山通りは、この数年新店舗が続々オープンしている話題の通りです。その中でも目を引くのが、レンガ壁の窓からのぞくカラフルな内装が可愛い〈KUMA CANTINA〉です。
“CANTINA”とは、酒屋やワインショップを意味する言葉。地元のコミュニティの人に気軽に集まってもらいたい想いから、“KUMA(熊)”さんこと、オーナーのDaniel Valenciaさんが2024年5月にオープンしました。
タコスは広く知られるようになった東京ですが、ダニエルさんが伝えたいのはそれを超えたメキシコのフードカルチャー。地元のメキシコ人が愛している味覚や、コンフォートフード(おふくろの味)。それらをアップスケールしたものです。
特徴的なのは、伝統的なメキシコ料理をベースに日本の食文化も融合させていること。壁に飾られたアートもメキシコ在住の日本人アーティストのものなど、日本にルーツがあるもの。ダニエルさんの日本への想いが感じられます。
そして〈KUMA CANTINA〉の2本柱は、料理とカクテル。
料理を担当するのは、メキシコで調理学校の講師をし、その後日本料理店で長く働いた経験を持つGuillermo Salazar(ギレルモ・サラザール)さん。トルティーヤやタコス、フレッシュチーズも丁寧に手作りし、メキシコ料理のおいしさを広めるべく尽力しています。
「東中野はいいネイバーフットがあるエリアです。ここで、まだあまり知られていない新しい味覚を知ってもらい、メキシコ料理で気持ちが昂るような体験を提供したいと思っています。そのために日本食と組み合わせたり、またまだ知られていないメキシコの各州の料理を紹介していきたいと思っているんです」(ダニエルさん)
その想いから生まれた人気のメニューがビリアと餃子を合わせた「ビリア餃子」です。
ビリアとはメキシコのハリスコ州発祥の牛肉のシチューのこと。なんとそれを餃子の中に閉じ込めてしまうというウルトラCでこのメニューを完成させました。
形は餃子ながら、中身は本格的なビリアというのがこの料理のポイントで、ゴートチーズと牛肉にチリコンソメなどを加え、じっくり加熱した旨味が餃子から溢れます。
オリジナルのマルガリータを合わせれば、なんともおしゃれな餃子定食に!
そして、メキシコ料理を知ってほしいという想いから生まれたシリーズが「FEATURED REGION」。2週間単位で変わる各州料理のメニューです。
さまざまな具材をトルティーヤで巻くエンチラーダは州によって味付けも異なります。チワワ州はソースにアボカドを使うことで知られるメキシコ唯一の州であることから、この料理がオンメニューされました。
自家製のフレッシュチーズやチキン、紫玉ネギのトルティーヤに、たっぷりとアボカドソースがかけられた、滑らかでクリーミーなエンチラーダ。これから紹介されていく各州の料理があり、ここに通うだけでメキシコ各地を旅する気分になれそうです。
そしてもうひとつの魅力は、メキシコのお酒を中心とした豊富なドリンクです。カウンターにはプレミアムテキーラをはじめ、メスカルやソトルなどメキシコの蒸留酒やメキシコのワインがずらり。
シェーカーを振ってくれるのは、ジェネラルマネージャーのトニーさん。幼少期をメキシコで過ごし、その後はシンガポールや日本などアジアで暮らしましたが、自分のベースにあるのは、メキシコ料理と語ります。
「先住民の文化やスペイン、アラビア文化などが交じり合っているメキシコ料理。酸味や甘みが複層的に重なり、味わい深さがあります」(トニーさん)
CANTINAという名前の通り、地域の酒場でもありながら、一人旅で海外を訪れたような気分にもなれる。そんな特別な体験ができる場所です。東中野からメキシコに繋がる架け橋として、存在感が増していくお店となりそうです。
〈KUMA CANTINA〉
場所:東京都中野区東中野3-2-7 FAITH 1F
営業時間:17:00~23:00(日10:00~15:00 & 17:00~23:00)
定休日:月・火曜日
TEL: 03-5497-8998
公式インスタグラム:@kumacantina
予約リンク:Table check
photo_Miyu Yasuda text_Mariko Kojima