不動前周辺をぶらり。新しい風を捕まえて|花井悠希の「この街この駅このパン屋」

FOOD 2023.08.04

ヴァイオリニストの花井悠希さんがお届けする、新しいカタチのパン連載。1つの駅、1つの街にフォーカスを当て、ここでしか出会えないパン屋さんを見つけていきます。

今回の街は…「不動前駅」周辺

目黒のおとなり「不動前駅」。〈林試の森公園〉でピクニックしたり、ごはん屋さんへ行くことはあったけど、降り立ったことはなかった「不動前駅」。ついに上陸です(大袈裟)!今回も在住の友達に案内してもらってパン散歩へ。

改札の先には左右に広がる商店街。多くの人が行き交い活気があります。「ここが地元ですよ」な顔をして(できているかは不明)人の流れに身を委ねていきましょう。

歩みを進めると、昔からずっとこの街を見守ってきたのでは?という老舗な佇まいの個人商店3軒を発見。お向かいにはこれまた歴史を感じる小さな洋服のお直し屋さん。飲食店や商店が並ぶ道に沿って角を曲がれば正面にはスーパー〈オオゼキ〉がどーんと待ち構えていました。はい、住みやすい街決定です(〈オオゼキ〉への贔屓目がすごい)。

1軒目:〈BISTRO BAKERY TATSUMI(ビストロベーカリータツミ)〉

中目黒で人気の〈Bistro Tatsumi〉が、人気のジビエや肉料理を活かしたパン屋さんをオープン。駅から続く商店街の中にお店はあります。今年の春にオープンしたばかりですが、平日のお昼時にはお店の前に行列ができており、すでに地元の方々の定番となって愛されているのが伺えます。それもそのはず。ビストロで丁寧に処理されたお肉を使ったサンドイッチやビストロ仕込みのお料理を使ったお惣菜パンなど、このお店ならではの魅力がいっぱいなのです。

まずは、お店の方におすすめしてもらったこちら。“エピ”と聞いて想像するあのベーコンと小麦のカラッと香ばしい味わいからさらに飛躍しています。大きな塊からお店で一つ一つ手切りされたベーコン、その下にはオリーブオイルでアンチョビと一緒にソテーされた玉ねぎが敷かれています。

もっちりと弾力のある生地を噛み締めるほどに、生地が蓄えた玉ねぎの香りとベーコンの燻製の香りが大放出!その香りだけでもご飯何倍もいける勢いなのに(そこはパンでしょ!)、ベーコンと玉ねぎ、どちらも主役級の味わいの強さで両者一歩も譲りません。

玉ねぎの甘みや香りをアンチョビの風味をまとったまろやかな塩気が引き出して、ベーコンの肉の甘みや肉感はダイレクトに届きジューシー。燻製によってさらにギュッと締まり濃縮されてベーコンの旨み全てが炙り出されている様子。お野菜とお肉、そして小麦とそれぞれ異なる甘みの表現を存分に感じることができるここでしか味わうことのできないエピです。

季節によって変わるカレーパン。夏バージョンには大きな茄子がトッピングされているではありませんか(茄子大好き)。トマトが効いたスパイシーなカレーと茄子が合わさったらそこはもう常夏や(芸人・永野さんのネタ風に)。ビストロでシェフが手作りしているカレーは、生姜やニンニク、スパイスで作り上げる奥行きのある風味と辛み、ひき肉はほろほろとギュッと濃い肉の味わいをこぼれさせます。平べったく成形された生地はもっちりとした引きがあり、カレーライスのお米のような包容力。周りのパン粉はサクサクでいいグルーブ感を醸し出しておりますよ。

見てください、この均一な気泡。拝みたくなるし、一つ一つ数えたくなりますね(重症です)。〈Bistro Tatsumi〉のお店で出している大人気のフォカッチャとのこと。とはいえ、「はいはい、フォカッチャね」となめてかかったらダメです。

表面は薄皮でサクッと。フォカッチャらしい、オリーブオイルで揚げ焼きされたような底のチリチリとしたジューシー感にまずはニンマリ。内側のはむはむと大きな口で喰らいたくなるふかふかさは、疲れた体が無条件に吸い寄せられるビーズクッション(◯ogibo的な)によく似ています。本能から求めるやつ。甘さは直には届かないのに、余韻に甘やかな風味が残る感じにしあわせなあたたかさを感じつつ、オリーブの香りは控えめ。なので、まずは小麦の香ばしい味わいに集中させてくれて、もちもちとして歯切れよい生地感と余韻の甘やかさを盲目的に追うことができるのです。

「スープやお料理と合わせるパンです」とご案内いただきましたが、脇目も降らず無我夢中でまるっと食べてしまいました。料理と合わせて楽しめる余白もあるのに、生地のうまさ、食感だけで突き進むことも許される余白もちゃんとある。それがありがたい!

店頭に出たらすぐ売れてしまうシェフのスペシャリテ。「やーん!クリームとろとろー!コクがぶわぶわー!生地もちもちー!」と語彙力の欠如甚だしい叫びが私の脳を駆け巡ります。落ち着け、落ち着くのよ。ちゃんと言語化していきますからね(不安)。

とろりとしたクリーム自体の甘さは控えめなのに、バニラビーンズの香りと溢れ漲るコクのおかげで一口の充実感が素晴らしい。薄皮の生地はクリームと同じベクトルでなめらかに寄り添うのに、もっちりとしたグニョンという弾力でさりげなくしっかりと支えているんだから惚れるよね(どうした)。飲み物のようでもあり少しふるっとした硬さも感じられるクリームパンだから、ハイブリットでありながら古き良きクリームパンらしい片鱗も。

今回は泣く泣く断念したサンドイッチ系に次はチャレンジしたい!カツサンドもここでしか出会えないスペシャル感が際立っていましたよ。

2軒目:〈BAGEL CHECK〉

「不動前といったらこの坂!桜がすごくきれいなの」と友達が教えてくれた「かむろ坂」。スペシャルゲストで友達のわんちゃんと一緒にゆっくりとかむろ坂を堪能しながら向かったのはベーグル屋さん〈BAGEL CHECK〉

同じく不動前にある人気のピザ屋〈PIZZA CHECK〉の姉妹店でこちらも今年の春にオープンしたばかり。夕方にはほとんど売りきれてしまうほど大人気のお店です。

これぞむっちりボディ!すべすべむっちりボディに頬ずりしたくなりますね(危険)。かぼちゃの柔らかな甘さと風味が心地よい生地にこしあんとクリームチーズが包まれています。

すべすべした表面は薄皮で包まれ、内側はもちもちなのに歯切れがよくいい塩梅に抜け感があって、苦しくない。ベーグルにおいて、この苦しくないって結構私の中で大事なポイントだったりします。んぐっと窒息しそうになる密度とコシが強すぎるのはどうも苦手で。そんな同士の方にオススメしたいこちらのベーグル。こしあんのなめらかな甘さと、クリームチーズの爽やかでありながらねっとりしたコクが変わる変わる顔を出し、その押し引きテクニック(しかも作為的ではなくナチュラルボーン)に翻弄されてしまいます。かぼちゃの種の香ばしさもアクセントに。

こちらはレンジで1分チンしてみました。生地はふにゃんと柔らかくなりもっちもちに。中のフィリングと相まっておやきのような親しみやすさ。明太子はぷちぷちと一つ一つの粒立ちがよくわかり、そこにのっかるのは自家製のマッシュポテト。とてもなめらかに仕上げられたマッシュポテトは明太子とまんべんなく絡んで、口内でタラモサラダが完成しちゃうというわけです(ドヤ顔)。

細かく切られたハーブ入りソーセージがたわわに!切られているから食べやすく、あちらこちらでプリッと脂を放って小爆発が繰り返されております。そこにシャキッとフレッシュな風が吹き抜ける。玉ねぎ自体の水分でみずみずしく、生地に包まれ蒸し焼き状態になったそれはソーセージの旨みも吸って甘みが絶好調。表面のチーズは軽やかなアクセントに。主張が強すぎないのでほうれん草のよもぎにも似た少し青々とした生地の風味が生き生きしています。

〈泰叡山護國院 瀧泉寺(目黒不動尊)〉や〈林試の森公園〉があり、春には桜のアーケードになるらしいかむろ坂もあり。五反田と目黒、武蔵小山に囲まれた便利な立地にも関わらず、自然豊かで何だか深呼吸をしたくなる街でした。次は春に来なくちゃね。

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