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東京のリトルイタリーでワイン飯を。新代田〈Daitalia〉の佐藤大介さん|星子莉奈のMeet the Chef
レストランのプロデューサーやディレクション、PR、ライターとして活躍する星子莉奈さんが、気になる店のシェフをクローズアップする短期連載。第7回は、新代田にあるイタリアワイン食堂〈Daitalia(ダイタリア)〉の佐藤大介さんの登場です。
〈Daitalia〉の佐藤大介さんにインタビュー

みなさんこんにちは。先日、久しぶりに海外リゾートへ行ってきました。「今年は絶対に日焼けしないぞ!」と意気込んで、塗る日焼け止めはもちろん、飲む日焼け止めまで常備し、日傘と帽子を肌身離さず、私の考えうる範囲のフル装備で乗りこんだのですが…。ホテルのバルコニーでうっかりうたた寝をかまし、例年のごとくこんがり気味の私です(泣)。
まぬけエピソードはさておき、今回は私が愛してやまない“ワイン”を楽しむために生まれたとっておきの一軒、〈Daitalia〉の佐藤大介シェフに登場していただきました。
井の頭線の新代田駅から徒歩1分、黄色い扉が目印の〈Daitalia〉。
扉を開けると、爽やかなブルーのタイルが散りばめられたカウンター席が目に飛び込んできます。視界が開けた開放感のある造りで、キッチンで作業している音も耳に届く距離感です。

元々サッカー選手という異色の経歴を持つ佐藤シェフ。ご実家は寿司屋を営まれていたということもあり、サッカーを辞めた後は自然と飲食に関心が沸いたんだとか。
料理人としての一歩を踏み出した頃のお話から、今に至るまでの経緯についてもお伺いしました。
「冬の寒い日に暖かそうな灯の付いている小さなお店に入りました。そこで飲んだ個性的なイタリアワインに惹きつけられて、なんかビビッときちゃって。それからお店に通い続けて、気がついたら皿洗いをしていて…いつの間にかそこで働くようになりました」。

そして単身イタリアへ。帰国してから、都内のお店で働きました。あるとき働いていたお店で質の良い魚介が届かないことが多く、現場から「いい魚を仕入れてきて欲しい」と依頼され、シェフとして修行する傍ら、魚の卸業をスタートすることに。
都内で何店舗か飲食店を経営したのち、やっぱり自分が現場に立つお店をやりたいと、一旦全てのお店を閉めて2019年に〈Daitalia〉を開店されたそう。スポーツ選手から、実業家、そしてシェフという多才な遍歴です。

お話を伺えば伺うほどに、ワインへの並々ならぬ愛情を感じる佐藤シェフ。ご自宅にも1,000本以上のワインを収納する部屋があり、そこで寝起きしているというから驚き!
寝ても覚めてもワインのことを考えているからこそ、ワインとの向き合い方も尋常じゃないんです。

「最初に飲んだときにイマイチだと思っても、そのときの自分にはおいしさがわからなかっただけで、数年後に飲んだらおいしく感じることってあるじゃない?だから僕は少なくとも10年かけて検証する」と、造り手へのリスペクトを胸に、ワインと真摯に向き合い続けていらっしゃるのが伝わってきます。

“ワインが飲めない方はお断り”という掟があるのも〈Daitalia〉ならでは。その理由について尋ねてみると、
「そもそも自分たちは、ワインを主役にしたお店をやりたい。優先順位はワインが1番で、料理は2番。自分の料理はおいしいと思う人も、そう思わない人もいると思うけど、ワインは普遍的においしいから。だからワインを飲みたいと思ってもらえる料理を作りたいし、それをワインが好きな人に食べて欲しいと思っている」と、ルールに秘められた想いを明かしてくれました。

シェフ直筆のメニュー表と睨めっこするのも、〈Daitalia〉での楽しみのひとつ。
「この組み合わせ反則だわ〜」と思わず呟きたくなるメニューばかりで、胃袋との相談は決裂しがちです。
「作り手としては、いい食材が手に入るとあれもこれも作りたくなってしまうんだけど、選択肢が多すぎるのは親切じゃないと華ちゃん(奥様)に叱られるから、メインは3つまでと決めてる(笑)」と、メニュー構成の裏話も教えてくれました。

本日のメニューは鮪ほほ肉のカルパッチョと白魚と青唐辛子とリコッタチーズのクロスティーニ。
“メニューに書かれた食材がしっかり堪能できる一皿”を心掛けているという佐藤シェフのお料理は、食材が惜しみなく使用されているのが特徴。
焼きあげたパンにたっぷりチーズを塗り、上から白魚をどっさりのっけたクロスティーニ。みずみずしい白魚の濃厚な旨みを主役に、青唐辛子の爽快な辛味とリコッタチーズのマイルドな酸味が三位一体となり、パーフェクトな味わいです。
お目にかかれたラッキーな鮪ほほ肉のカルパッチョは、鮪一匹から少量しか取れない希少部位のほほ肉をレア気味に焼き上げ、豪快に盛り付けた一皿。てっぺんには塩気のきいたドライトマトが添えられています。お肉と見まがうほどに厚切りな鮪ですが、食感もまるでお肉の様に肉肉しい。ほどよくのった脂がお口の中でとろけていきます。

コーディネートしていただいたワインは、ロンバルディア、コンダディ・カスタルディのスパークリングロゼ。フランチャコルタの中でも最強の作り手と称されるベラヴィスタのオーナーが、フランチャコルタをよりカジュアルに楽しんでほしいという想いで1991年にコンタディ・カスタルディを設立しました。泡がきめ細かく、口当たりがとてもマイルド。

乾杯が楽しくなる時間が約束されているワイン好きの聖地〈Daitalia〉。佐藤シェフと奥様の小気味良いリズムが流れる空間で、個性豊かなイタリアワインと、グラスを掲げて「おかわり」と叫びたくなる一皿を。
佐藤シェフ、ありがとうございました。