ストーリがあるカフェ。 宮城県岩沼市から蔵を移築したカフェ。二子新地の蔵造りカフェ〈珈琲 甍〉が気になる!
二子新地の喫茶〈珈琲 甍〉は、なんと古い蔵を移築したもの!ゆったり過ごせる古き良き日本家屋のとっておき空間、その気になるルーツをお届けします。
移築した蔵を喫茶店に。古きよき日本が息づく空間
住宅街の一角にある〈珈琲 甍〉は、宮城県岩沼市にあった古い蔵をそのまま移築したお店。
ほぼそのまま移築した建物は、漆喰塗の扉や屋根瓦などに蔵の名残が。
建築は、いまは亡き古民家移築・再生の第一人者である石川純夫さんによるものだ。
「移築に携わるきっかけも喫茶店でした。古い家や蔵には、まだ100年以上使える立派な材が残っています。40年ほど前に喫茶店の建築を請け負った際、コストを抑えるため古材の採用を思いついたそう」と、息子の悟郎さんと兄弟子の中島啓太さん。
愛用の鉛筆と石川さん。
「取り壊す家とのタイミングが合ってこそなので、運命的な所がある」と話す中島さんに、「お店をオープンすると相談した際に『おもしろいものがあるんだけど』と、この梁の写真を見せてもらいました。そのあと一緒に現地を訪れたのですが、一度見たら惚れてしまって。店が完成するまで1年待ったんですよ」とオーナーの神林勝裕さんもにこり。
ぐっと曲がった天井の梁。元は2階建てだったが、天井を取って吹き抜けに。自然に曲がった太い材は、いまはなかなか手に入らない。
監修書『古民家再生住宅のすすめ』(晶文社)で純夫さんは「こんなすばらしい素材を捨ててしまうのはもったいない、という素朴な気持ちから始めた試みです」と記している。
それからというもの、数々の名店を手がけた。「石川が手がける建築の雰囲気が、喫茶店とマッチしたのだと思います。ビル内のお店なら一部に古材を、アンティーク収集が趣味だったので、照明やドアノブをコレクションから持ってきたり。お店のコンセプトを細かく聞きながら造っていましたね」と振り返る2人。
味がある木にロイヤルコペンハーゲンのブルーが映える。
神林さんも瓦とアンティークのコレクター。随所に飾られた瓦のほか、家具やドアの引き手と細部にわたって、純夫さんと持ち寄った品が使われている。戸にはめこんだ菓子型など、純夫さんが造る喫茶店には、ちょっとした遊び心がたくさん。楽しみながら造っている純夫さんの姿が目に浮かび、アンティークミルで挽くコーヒーも、そんな空間によく合う。
食器棚は、かつては蔵の裏口だった。重厚な引き戸もそのまま残る。「いらかブレンド」500円は店主が修業した〈カイルアコーヒー〉のオールドビーンズを使用。相性のいいネルドリップで、少し冷めても美味。
ケーキやガレットをお供にぼーっと眺める時間は、なんとも贅沢だ。
書籍で純夫さんは、古民家の再生・移築についてこんな一言を残している。「20、30年で壊してしまうような安普請の住宅が減り、日本の町並みが今よりもすばらしいものになってくれればと切に願っています」
(Hanako1150号掲載/photo : Megumi Seki text : Wako Kanashiro)