東京にもファン多数。 札幌・狸小路のレストラン〈GRIS〉、ベテラングルメライターをも魅了する理由とは?
北海道札幌にある〈GRIS〉は東京にも多数のファンが。清潔感あふれるやさしい料理に、すっかりファンになったPさん。「誰もがまたすぐに訪れたくなる、ほんとうにいい店でした」
“素敵に軽やか”な料理の数々。
あれれ、消えた。さっき食べたはずの「炙りさんまのせいろご飯」がどっかに。しょうがないなぁ、麺食べちゃおうか……なぁんて気になる、ここ〈GRIS〉の料理。
満足感はあるのに、するするっと吸収されて、いつの間にか消えてしまう。素敵に軽やかなんである。
夢を見ているような気分になるお店。
札幌・狸小路の古いビルの4階。とことこ上がって辿り着く。食いしん坊仲間からさんざん話を聞かされ、まだ行けてない〝劣等感〞を抱えて生きてきたが、へへん、やっと来たぜ。ドキドキしながら扉を開けて中へ。
この一歩は小さいが、私という人類にとっては大きな一歩だ。と浮かれていたが、この店の澄んだ静けさに、気持ちがすっとなだらかになった。小野城碁さんが奥様の理恵子さんと2人で営むこの店には、夢を見ているような不思議な浮遊感がある。満席でにぎわっているのに空気はピュアなままなんである。
大きな窓から差し込む光を受けて、キッチンに立つ城碁さんのシルエットが浮かび上がる。次々と注文をこなす彼のまわりを、やさしい風が吹く。
信頼のおける農家から届く野菜を見極め、それぞれ、ふさわしい火入れをするために、調理台の脇にはタイマーが5つ。これだけで丁寧な仕事ぶりがうかがえる。
城碁さんは学生時代から、「なるべく長くふらふらしたかった」。アルバイトで叔父の割烹を手伝ったりもしたが、カナダ・バンクーバーで大学へ。しかし、日本のことを知りたくなって1年で帰国。札幌の中国料理や創作料理の店で働いたのち、店を開くことに。「できることをやってきただけ」というが、こうなるべく、道が敷かれていたに違いない。そうか、中華も学んだから、メニューにしゅうまいや今日の春巻がある。
新しい料理は「うちの人がおいしいと言ったものしか出さない」と城碁さん。横で、理恵子さんが笑う。いいね、この雰囲気。明日もあさってもここにいたい。すみません。仕事、しばらく休みます。
〈GRIS〉
大根のたまり漬け 350円、野菜のピクルス 450円などの作りも丁寧。滝川産鴨の焼き浸し 2,400円などもぜひ。
■北海道札幌市中央区南2条西8-5-4 4F
■011-206-8448
■15:00~21:30LO(日祝20:00LO) 火、第1月休(不定休あり)
■18席/禁煙
(Hanako1179号掲載/photo : Norio Kidera text : Michiko Watanabe)