憧れのホームバーがある空間 6選
1. 吊り棚とフットレストの真鍮使いで家の中に本格的なバー空間が出現。
きむら・りゅうた/東京都生まれ。クリエイティブディレクターとして広告代理店に勤務。ウイスキーとサウナを愛する。きむら・みのり/沖縄県生まれ。会社員。器好きで10歳の男の子の母でもある。

- POINT1 ワイングラスや酒器はガラス戸の見せる収納に。
- POINT2 ボトル類を集める吊り棚は真鍮の金物でバーらしく。
- POINT3 ウッディなカウンターに合うスクリュースツール。
2年前に戸建て住宅を計画した時、バースペースを建築家・井川充司(いかわあつし)にリクエストしたという木村隆太さん、みのりさん夫妻。「もともとそんなに飲み歩くタイプではありませんでしたが、当時コロナ禍でバーが営業停止したり、在宅ワークが増えたりしました。それなら一日を自宅で完結できるよう、家の中にお酒が飲めるスペースがあるといいなと思って。それとは別に、昔のアメリカのドラマによく出てくる、カウンターキッチンやバーコーナーがある家に憧れがありました。具体的には60年代のニューヨークの広告業界を描いた海外ドラマ『マッドメン』の主人公が住んでいる家にバーカウンターがあり、それがすごく格好いいので参考にしました」
カウンターの上にはウイスキーボトルが並ぶ吊り棚が。夜は天井のライトが反射し、ボトル自体が間接照明のように輝く。棚の金物やフットレストの真鍮使いも細かく指定したという。「子供の友人家族が遊びに来ると、お母さん同士はダイニングテーブルでおしゃべりし、男たちはバーカウンターに座るのが好き。お酒を通していろんな形のコミュニケーションが生まれるのが楽しいですね。僕自身は上の階のサウナでひと汗かいた後、自宅のカウンターで一杯飲むのが至福のひとときです」
70年代以前のオールドボトルを常にストックしハイボールに。

木村さんが特に好きで集めているのが1970 年代前半以前のオールドボトルの「ジョニーウォーカー」や「ホワイトホース」。「自分が生まれる前に瓶詰めされたものを味わうことにロマンを感じます。当時のラベルや箱のデザインも魅力的なんですよね」
2. 小さな扉の向こうに現れる自分だけの夜のミニバー。
こばやし・まな/インテリアデザイナー。夫・恭さんと設計事務所〈ima〉を設立。〈marimekko〉など国内外の商業空間や住宅を手がける。2016年、緑豊かな公園の横に事務所兼自宅を構えた。

- POINT1 夜の一杯にはサーラ・ホペアの小さなグラスを愛用。
- POINT2 小さな流しはグラスも洗え、猫の水やりにも便利。
扉を開けると、そこには秘密のミニバー。家を建てる際、「2階にも水場があると便利」と、小さな流しをつけた収納式のこのスペースは、寝る前の一杯をゆっくり楽しむ小林マナさんにとってなくてはならない場所だ。
「寝つきが悪くて、牛乳にブランデーを入れて飲んでいたのがきっかけで蒸留酒が好きになり、〝きゅっと飲んで寝る〞のが習慣になりました」
夜は1階で食事をしながら、鹿児島県屋久島の芋焼酎「三岳」や、夫・恭(たかし)さんの影響でナチュールワインを楽しむ。食後は愛猫マロンに呼ばれ、グラス片手に2階へ。寝る前にはジンやブランデーを傾ける。お気に入りは蒸留所〈mitosaya〉のフルーツブランデー。知人で代表の江口宏志さんが南ドイツ〈スティーレミューレ〉で修業していた頃に訪れたこともあり、そのおいしさに開眼。「香りが良いから、ストレートで味わうのがお気に入り。瓶だけでなく箱もかわいくて」、捨てられず、戸棚に飾っている。
お酒はマナさんにとって眠りのスイッチ。オンとオフを切り替え、頭を休ませる〝薬〞のようなもの。考え事でいっぱいの一日を終え、眠りへと導く小さな安らぎの場所になっている。
まるで薬瓶のような佇まい。〈mitosaya〉のボトルを並べて。

季節の果物やハーブの香りを閉じ込めた〈mitosaya〉のフルーツブランデー。長野県産くるみにスパイスとハチミツを加えた「NOCINO」(2022年製造)は寝酒にぴったりのほろ苦さ。ボトルは岐阜のメーカーと作ったオリジナル。並べるだけで絵になる。
3. バーワゴンで空間を整え趣味の時間を楽しむ。
たかはし・けんじろう/PYTHAGORA(ピタゴラ)代表。早稲田大学芸術学校で建築デザインを学ぶ。オーディオ、バー、DTMの3部門に特化したオーダー家具「PYTHAGORA」の代表取締役。

- POINT オーディオ用家具の側面にピタリと寄り添うスリムさ。
- POINT 表裏横3面にボトルが収まるキャスター付きワゴン。
音楽とお酒好きが高じてオーディオとバーのための家具、そしてミュージシャン用デスクに特化した家具制作会社を経営する高橋賢次郎さん。自宅用に制作したバーワゴンを現在は製品化し、サイズオーダーにも応じている。
「20代半ばからレコードバーに通い、ウイスキーにハマりました。自宅で飲むためのバーワゴンがあったらいいなと思って作ったのが最初です。ポイントはワゴンの両サイドからボトルを取り出せることと、ワゴンの短い辺にもボトルを置けるようにしたこと。どこからでも美しいラベルが目に入り、インテリアの装飾にもなります」
世界最上位のドイツ製木工工作機械を導入して作られるワゴンは、木目がシームレスにつながるよう板の小口を斜めにカットして突き合わせるなど、ディテールまで丁寧に作られている。だから高級感が漂う。
「コレクターがものを集めても、収納や見せ方が下手だと家が汚く見えますよね。そのことを僕は〝魅力が散らかっている〞と表現するのですが、それってすごくもったいない。ウイスキーボトルもこうして1カ所にまとめて美しく見せれば使い勝手もいいし、持ち主の魅力もきちんと伝わると思うのです」
美しいボトルへの眺めが友人との交流のきっかけに。

ワゴンには美しいラベルのボトルが並ぶ。「原酒を購入し独自に風味づけをするボトラーズウイスキーにはラベルデザインが魅力的なものが多く、惹かれます」と高橋さん。自宅に友人を招いて音楽とお酒を楽しむ時、その媒介となってくれるのがこのワゴンだと語る。
4. 気分次第で入れ替え自在。見せるミニバーキャビネット。
たなか・ひろゆき/〈田中裕之建築設計事務所〉主宰。ホテル〈KIRO 広島〉や住宅、店舗など幅広く手がける。自宅は築46年の2LDKマンションのリノベーション。

- POINT 最近、仕事でよく訪ねる長野県のワインも仲間入り。
- PONT キャビネットと一体になったカウンターテーブル。
本棚のようにボトルやグラスを並べて楽しむ、建築家・田中裕之さんの自宅のミニバー。ダイニングテーブルとキャビネットが一体になっている。当初は高さ90センチのカウンターとして設計し、さっと食べたり飲んだりする場だったが、今はゆったり過ごせるよう低く作り直した。お酒を飲めない授乳中の妻のためにシロップやお茶もさりげなく並べ、夜は2人で「一緒に飲んでいる気分」を味わう。
奥行きはわずか20センチほどだが、バーとしての存在感は十分。裏側には洗濯機や冷蔵庫が収められ、生活感をほどよく隠す間仕切りにもなっている。扉のないオープン収納にしたのは、「隠して片付ける」のではなく、「並べて楽しむ」ため。
「本のカバーを見せる感覚に近いんです。家具はそう頻繁に替えられないけれど、ボトルなら気軽に入れ替えられる。印象が変わりますし、今はワインのエチケットのピンクが差し色に。もし違うと思えば、飲んで替えればいいから気楽なんです」
棚に合うお酒やグラスを探すのも田中さんの楽しみのひとつ。旅先や日常の中で見つけたアイテムが並ぶこの場所そのものが、田中さんにとっての小さなアーカイブになっている。
国内外のボトルが集まる遊び心あふれるセレクション。

滋賀県「ANTELOPE」のミード、カリフォルニア「WILDER Gin」、スコットランド「Maclean’s Nose」、そして目を引く鮮やかなピンクのエチケットはドイツのナチュールワイン「Cuvée Rot」。産地も味わいも異なるボトルとアートブックが心地よく収まる。
5. 玄関先に、飲むことを最大限引き立ててくれる空間がある。
文筆家、料理研究家。食と酒と旅を愛する文筆家&料理研究家。『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのからだ整えカレー』(Gakken)ほか著書多数。日常を綴るSNSも人気。

- POINT 業務用冷蔵庫が収まる前提で階段下のスペースを設計。
- POINT あえてスツールを置かない立ち飲みカウンター。
玄関を開けてすぐの土間に作った立ち飲みカウンターと、その先に置かれた業務用冷蔵庫。あえて家の入口に、お酒の時間を過ごす空間を設けたツレヅレハナコさん。最初はお茶が出せる程度のサブキッチンの予定だったが、結果的に将来お店ができるくらいのカウンターキッチンに。
「友人のバーテンダーを招いてウェルカムドリンクをふるまってもらったり、寝る前にハードリカーをかけ合わせた〝謎カクテル〞を試したりと、1階の土間は〝バーごっこ〞で遊べる場所。海外ドラマに出てくるような、やたらと大きな三角のカクテルグラスを真似したいとか、そういうのを実際にやってみるのが面白いんですよね」
家のバーカウンターで飲むのは〝必然〞ではないから、とことん楽しい方向に振り切りたい。人を招く機会も頻繁にあり、2階のリビングで食事をする人、1階でしっとり飲む人と、大人数で空間を行き来して使いわけることができるのも便利だという。そんなツレヅレさんの冷蔵庫は、この業務用を含めて4台。ゲストのためのビールも含め、ほぼ全ジャンルを網羅している。
「特に業務用は中身が見えるのが楽しい。お酒は近隣の店より揃っている自信があります(笑)」
居酒屋気分を味わえる、酒プッシュシステム。

キンミヤ焼酎の大容量サイズ「好きやねん」や「ブラックニッカ」など、業務用サイズのボトルには、ワンプッシュで定量が出る「一押くん」を付け、まるで居酒屋さながら。冷蔵庫内の箱ワインは〈フジマル醸造所〉。ぶどうから育て自家醸造したものを毎年購入。




















