様々なルーツの人々が混じりあって暮らす今の東京を描く『東京サラダボウル』

様々なルーツの人々が混じりあって暮らす今の東京を描く『東京サラダボウル』
様々なルーツの人々が混じりあって暮らす今の東京を描く『東京サラダボウル』
CULTURE 2025.02.11
配信サービスに地上波……ドラマや映画が見られる環境と作品数は無数に広がり続けているいま。ここでは、今日見るドラマ・映画に迷った人のために作品をガイドしていきます。今回は『東京サラダボウル』について。

黒丸による漫画『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』を原作にした作品

現在、NHKの火曜22時のドラマ10枠で放送中の『東京サラダボウル』は、黒丸による漫画『東京サラダボウル-国際捜査事件簿-』を原作にした作品だ。

主人公は東新宿署国際捜査係の警察官の鴻田麻里(奈緒)。緑色の髪がトレードマークで、上司からは「レタス頭」などと言われている。

外国人の犯罪を取り扱う警察官の鴻田には強い味方がいる。警視庁・通訳センターの中国語通訳人の有木野了(松田龍平)だ。鴻田から「アリキーノ」というニックネームで呼ばれる有木野は、あまり人に関心がなく、ドライな性格に見えるが、鴻田と組んで仕事をするうちに、そうではない部分も見えてくる。

有木野がドライなのには理由がある。彼はもとは刑事であったのだが、ある出来事がきっかけで通訳に転職して、その後も警察の中で働いているのだった。

ふたりは、ときおり新宿歌舞伎町や大久保などで、海外の珍しいお店で食事をしあったりする間柄になっていった。ドラマの記者会見ではそのことを気が合うではなく「胃があう」と表現していた。実際に歌舞伎町に存在する上海小吃(ドラマの中では上海好吃と看板が変わっていたが)などが出てきたり、新宿近辺の町が出てくるのも、東京を感じられて楽しい。

日本に滞在する外国人のトラブルの背景に、偏見や差別はないか

毎回、鴻田たちがトラブルに巻き込まれた外国人の事件を追い、罪を犯してしまった人に対しても偏見を向けず、その背景に何があるのかを考えながら解決していく。

そんな中でも、第五話のエピソードが強く印象に残った。舞台は東新宿にある介護施設。そこで従業員同士のトラブルが発生した。ベトナム人のティエン(グエン・チュオン・カン)が、入居者のタブレットを自分のロッカーに入れていたということで、警察署で事情聴取をされるが、ティエンはやっていないという。

事件を追っているうちに、複雑な事情が見えてくる。実はティエンが盗んだようにみせかけるために、同僚の早川進(黒崎煌代)がわざと入居者からタブレットをとってティエンのロッカーに入れていたのだった。

何があったのか気になって、ティエンと早川のふたりにそれぞれ話しかける鴻田。そこで彼女はティエンの腹にあざがあることを発見する。

ティエンは早川のことを友達だと語る。実際、ふたりは働く中で距離が近づいていて友情を感じあっていた。友達となったきっかけは、ティエンが早川に自分たちが「似ている」「同じ」と言ったことにあった。当初、早川は、海外から来ているティエンはきっと寂しく自分よりも下の存在だと思っていて、憐憫のような気持ちもあって友情を感じていた。しかし、ティエンは国に帰れば待っている家族もいるし、幸せな生活も待っている。それにくらべて、自分には何もないと思ったことから、ティエンに対して複雑な感情を抱くようになっていたのだった。

このドラマのふたりの関係性には、単に人をうらやんで、すれ違ってトラブルになってしまったというだけではないものがある。

ふたりの間に、友情が芽生えていたからこそ、早川はティエンを羨んでしまったようなところが見えてせつなかった。

日本人だけじゃ、この国はもうもたない

『サギデカ』という特殊詐欺をテーマにしたドラマがある。その中には、特殊詐欺の「かけ子」をして警察に事情聴取された登場人物の生い立ちが、父親に先立たれ、母親は家に帰らず、弟を衰弱死で亡くし、ぎりぎりの中で大人になって上京し、必死で生活する中で、特殊詐欺犯になってしまったというものであった。彼の状況は過酷で、彼が詐欺で騙した高齢者たちと変わらない。しかし、刑事が、彼もまた弱い立場にあると突きつけると、「俺は弱者じゃない」ではないと強がっていた。自分が社会的に弱い立場にあるとは、認めたくないものなのだ。

早川にも、海外から技能実習生として来ているベトナム人にも充実した生活があることを知って、自分のほうが社会的に弱い立場なのではないかと気付き、みじめさを感じたことが事件を起こしたのだ。これは、早川自身が困窮しているということを示しているだけではなく、日本全体が世界の中で相対的に貧しくなっているというこも関係があるように思った。

最終的にティエンも早川も罪に問われなかった。鴻田は、「一度壊れた友情って、また戻ると思う?」と有木野にふと尋ねるが、有木野は、「少なくとも、今この瞬間、同じ国で生きてるわけだし」戻るチャンスはあるのではないかと語る。世界的にも、その国に住んでいる人と、外からきた移民との間の分断は深くなっているが、有木野のシンプルな言葉に救われる思いがした。

ベトナムなどから来る技能実習生の問題は、ドキュメンタリーでもよく取り上げられるテーマだ。技能実習として技術を学ぶために日本に来たのに、技術は学べず、単に労働力として見られているだけという現実もあるという。

野木亜紀子脚本の『MIU404』の5話でも、ベトナム人の留学生のことが描かれていた。夢を持って日本に来ても、日本が彼らのその希望を搾取している構造は存在する。『MIU404』の中で、ベトナム人留学生と接する日本語学校事務員の水森(渡辺大知)は、そんな構造を憂いだ結果、ベトナム人留学生に対して「外国人はこの国に来るな! ここはあなたを人間扱いしない」「ジャパニーズ・ドリームは全部嘘だ!」と切実な叫び声をあげていた。

『東京サラダボウル』でも、ベトナム語の通訳をしている今井もみじ(武田玲奈)が、「ときどき私、なんで警察通訳人してるんだろうと思うときがあるんですよね」「ベトナム人の多くが高い志を持ってやってきているのに、こんなことのために日本にやってきてるんだろうと思う」と語るシーンがある。

さらに、偏見だらけのティエンの同僚の言動にみかねた今井が、「外国人を働かせてやってるんじゃなくて、働いてもらってるんだ」「日本人だけじゃこの国はもうもたない」「排除しようとしてもあなたの居場所は守れない」と訴えるシーンもある。ドラマの中だけの問題ではないと思えるエピソードであった。

このドラマの主人公の鴻田は、困った人を放っておけない人だ。ティエンのように、日本に来て不安な気持ちで過ごす外国人と接する中で、「(日本が外国人の自分を)助けてくれる国じゃなかった、そう思いながら日本で暮らすなんて孤独すぎる」と語るシーンがある。彼女のこのような思いこそ、今必要なのではないか。

text_Michiyo Nishimori illustration_Natsuki Kurachi edit_Kei Kawaura

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