坂本龍一の頭の中を覗いているような展示。『坂本龍一|音を視る時を聴く』東京都現代美術館

坂本龍一の頭の中を覗いているような展示。『坂本龍一|音を視る時を聴く』東京都現代美術館
苅田梨都子の東京アート訪問記# 16
坂本龍一の頭の中を覗いているような展示。『坂本龍一|音を視る時を聴く』東京都現代美術館
CULTURE 2025.02.05
ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載です。第16回目は、東京都現代美術館で開催中の『坂本龍一|音を視る時を聴く』へ。
苅田梨都子
苅田梨都子
〈RITSUKO KARITA〉ファッションデザイナー

かりた・りつこ/1993年岐阜県出身。4年前に自身のブランドを〈RITSUKO KARITA〉としてリニューアル。現在は、映画サイト「ザ・シネマメンバーズ」でコラムを連載中。

今回は清澄白河にある東京都現代美術館で開催中の『坂本龍一|音を視る 時を聴くを訪れる。

本展は、音楽家・アーティストである坂本龍一(1952-2023)の大型インスタレーションを包括的に紹介する、日本では初となる最大規模の個展である。

坂本龍一さんのことはいつの間にか気になる存在になり、2年ほど前に『Ryuichi Sakamoto CODA』というドキュメンタリー映画を鑑賞した。そのドキュメンタリーの中では朝からバナナやキウイ、林檎をたっぷりと切ってお皿に盛り、もぐもぐと食べる朝の様子や、音が出ないピアノでも奏でるためにはどうすればいいかと向き合う姿。がんの闘病中でも8時間仕事しただけでは体力が使い足りないと話しており、ひたむきに音楽やピアノ・作品に向き合う姿などを知ることができた。

また、映画『戦場のメリークリスマス』を鑑賞。坂本龍一と言えば綺麗なグレーヘアーにベッコウの眼鏡をした姿の印象が強いが、若かりし頃の坂本龍一とデヴィッド・ボウイらを眺め、少しずつ坂本龍一の過去を辿ってきた。それでもまだ、彼のことはよく知らない。

本展ではさまざまなアーティストとのコラボレーション作品を通して、まだ知らぬ世界に触れて行こうと思う。

会場に入るとすぐ、大きなスクリーン3面構成で2021年初演の舞台作品『TIME』をもとに、本展のために制作された新作《TIME TIME》が流れる。

坂本龍一がアルバム『async』で探求した「非同期性」を発展させ、「時間とは何か」という問いを、「夢十夜」や能の「邯鄲」といった夢の物語に着想を得て表現。

能の世界にあまり触れたことがないが、こうやって展示を通して触れることで日本人として生まれたことに意識が向き、心を整える禅の気持ちにもなった。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024 年
坂本龍一+高谷史郎《 TIME TIME》2024 年 ©️#2024 KAB Inc. 撮影:福永一夫

高谷史郎とのコラボレーション作品は1階に3点、地下2階に2点ある。《water state 1》では天井の装置から水盤に雨を降らせ、同時に音が変化していくインスタレーション。《IS YOUR TIME》では2011年の東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会い、それを「自然によって調律したピアノ」と捉えて作品化した。

続いて、私が楽しみにしていたタイの映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンとのコラボレーション映像の部屋である。

元々アピチャッポンの映画が好きで、今回このような形で映像を観られることが嬉しい。映像用にアレンジした2曲「Disintegration」「Life,Life」とともに、2画面で構成された映像は、ベッドに眠っている人や私的な日常が切り取られていてほのぼのした。アピチャッポンによる作品は、人間の生活の営みと少しの違和感が絶妙にマッチしており、心くすぐられる。

続いて、こちらの《async-immersion tokyo》は「AMBIENT KYOTO 2023」で発表された大型インスタレーションを再構築したものだ。個人的に「AMBIENT KYOTO 2023」がとても気になっていたので、このような形で鑑賞することができて嬉しく思う。

「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024 年
坂本龍一+高谷史郎《 async-immersion tokyo》2024 年 ©️#2024 KAB Inc. 撮影:福永一夫

横長に映し出された青々とした自然の背景や、ピアノの画像たちが音楽に合わせて色のグラデーションに変化していく。これは永遠に夢中で眺めていられる作品だと感じた。

続いて、坂本龍一が多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの断片的な映像が環境音と楽曲をミックスした音楽とともに構成された部屋へ。

坂本龍一+Zakkubalan《async-volume》2017 年
「 Ryuichi Sakamoto| SOUND AND TIME」展示風景、成都木木美術館(人民公園館)、2023 年
画像提供:成都木木美術館

大きさの異なるiPadやiPhoneが「小さな光る窓」となり、壁にいくつか並ぶ。

ゆらゆらと風に揺れるカーテンや、部屋に差す木漏れ日。そこに映る映像の中に人物は不在だが、生活の様子が垣間見える。まるで坂本龍一の頭の中を覗いているような展示だった。

続いて楽しみにしていた展示は、地下2階の屋外にあるサンクンガーデンに設置された坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎による《LIFE-WELL TOKYO》霧の彫刻#47662。

中谷芙二子《ロンドンフォグ》霧パフォーマンス #03779、2017 年「 BMW Tate Live Exhibition: Ten Days Six Nights」展示風景、テート・モダン、ロンドン、英国 コラボレーション:田中泯(ダンス)、高谷史郎(照明)、坂本龍一(音楽) 撮影:越田乃梨子

世界各地で霧のプロジェクトを実施している中谷芙二子とのスペシャルコラボレーション。霧と光と音が一体となり、幻想的な景色が生まれる。

個人的に惹かれた点は、その展示空間に人が入れること。

複数人がその場を行き交うことによって、まるで映画のワンシーンのような様子を眺めることができる。

今回すべての展示を紹介できなかったが、本展では他にも坂本龍一に纏わる未刊行資料、刊行資料の展示や実際に坂本龍一がその場でピアノ演奏をしているかのようにパフォーマンスを再現した作品など、見どころが盛りだくさんだ。

展示を観終わった後、東京都現代美術館の地下にあるレストラン“100本のスプーン”へ訪れる。

私は坂本龍一展に合わせて考えられた「ZEN GARDEN parfait」を注文する。

お茶、みかん、どら焼き、小豆、バニラアイスなど坂本龍一が好んだ食材を集めてパフェにしたそうだ。店内では坂本龍一の音楽も流れており、特別感があった。

皆さんもぜひ、展示に訪れた際にはこのパフェも召し上がってみてはいかがだろうか。展示は3月30日(日)まで開催中。

坂本龍一 | 音を視る時を聴く
会期:2024年12月21日(土)- 2025年3月30日(日)
※3月7日、14日(金)、21日(金)、28日(金)、29日(土)は20:00まで
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日、2月25日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 1F/B2F ほか
HP:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/

edit_Kei Kawaura

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