苅田梨都子の東京アート訪問記# 9 生活する上で自然とは親密で離れられない私たち。『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ』銀座メゾンエルメス フォーラム

CULTURE 2024.03.22

ファッションデザイナー・苅田梨都子さんが気になる美術展に足を運び、そこでの体験を写真とテキストで綴るコラム連載。第9回目は、銀座メゾンエルメス フォーラムで開催中の『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ』ダイアローグ2「つかの間の停泊者」展へ。

今回は銀座メゾンエルメス フォーラムを訪れる。『エコロジー:循環をめぐるダイアローグ』は昨年10月から1月まで開催された「新たな生」ダイアローグ1が終了し、現在はダイアローグ2「つかの間の停泊者」というタイトルで展示の後半が開催中だ。本展ではニコラ・フロック、ケイト・ニュービー、保良雄、ラファエル・ザルカの4人の作品で構成されている。

銀座メゾンエルメス フォーラムは8・9階にあり、窓から柔らかな光が差し込むところもお気に入りだ。
エレベーターで8階にあがり入ると、右奥に大きな稲藁のオブジェが現れる。

《noise》(2024)保良雄
《noise》(2024)保良雄

保良雄の作品だ。近くには和紙でできた、円柱形のオブジェが並ぶ。太鼓のような形をしており、周辺を歩いていると稲藁の中が突然光り出す。

照明は、ランダムに落ちる精油の水滴の音によって点灯する仕組みだ。精油は東京・福島・千葉・沖縄で採取した柑橘系の香りで、ほのかに漂う。よく見ると、稲藁や太鼓のオブジェの足元には小石がいくつか並べられている。これらは福島県で採取したものだそう。

稲藁の作品は人間が入ることのできるほどの大きさで、私は実際にこの大きな稲藁の中に入ってみることになった。本来は福島県の地に足を運ばないと味わえない空気や素材の中に立っていること。自然のエネルギーでランダムに照らされる光を直接体験できたこと。不思議と自然からパワーを貰ったような感覚になった。

またそのすぐ隣には、高い柱に紐で結びつけられた何色ものウィンド・チャイムが綺麗に飾られている。ケイト・ニュービーによる作品だ。

《Call us,call us.呼んでいる、呼んでいる》(2023 - 2024)ケイト・ニュービー
《Call us,call us.呼んでいる、呼んでいる》(2023 - 2024)ケイト・ニュービー

こちらはおよそ1000ピースあり、テキサスで作られたものだそう。本来は、風が靡く場所に飾られるウィンド・チャイム。

ポジティブな意味で室内にある違和感は新鮮で、異国の香りも漂っている気がした。これらで音が奏でられたら、また違った気持ちになるだろうなと思いながら目だけでも充分に楽しめる大型作品。グラデーションカラーや様々なナチュラルな造形が私の心を明るくさせてくれた。

そして隣には、本展で一番気になった作品が並ぶ。

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《always,always,always いつも、いつも、いつも》(2023 - 2024)ケイト・ニュービー
《always,always,always いつも、いつも、いつも》(2023 - 2024)ケイト・ニュービー
苅田梨都子の東京アート訪問記#7

私はなぜか、日常的に寒色を好む。もしかして水の色をしているから?大地のひんやりとした空気も好き。自然と心から惹かれたこちらの作品は、山脈のような、はたまた川と入り混じったような景色にも見える。素材はセラミックでできている。床一面に敷き詰められた厚みのある陶器を眺めることは珍しく、うっとりしてしまった。よく見るとところどころ水溜まりのようなテクスチャが施されており、うんと細かい。

ケイト・ニュービーは実際に触って楽しんで欲しいという、見るだけでなく触れることを喜んで提案しているそうだ。実際に私もこちらを撫でてみたり、凹凸を辿ってみたりした。触ると少しひんやりとした温度感のセラミック。細かな線や大きなうねりを辿ることで制作過程も想像しやすかった。

一度だけ陶芸体験をしたことがあり、その時にろくろで土を触っている最中、非常に安心感を覚えた。大地に眠る土たちは、私たちの体と密接であり、そしてこんなにも美しい作品にまで昇華されている不思議さ。自然をモチーフとしながら、素材もまた自然的である。素材が循環する様も気持ちよく鑑賞できた。

また、会場の中には「ポケット・ワーク」と呼ばれるひみつの作品も隠れているみたい。ぜひ会場を隅々まで探してみては。私たちは無事に見つけることができ、触れることでとても大きなものを持ち帰ることができたように思う。とてもユニークで、心が豊かになる展示だった。

《ペイヴィング・スペース、レギュラースコア W8M1》(2016)(年)ラファエル・ザルカ
《ペイヴィング・スペース、レギュラースコア W8M1》(2016)(年)ラファエル・ザルカ

奥の部屋に移動すると、人がベンチに座っていた。巨大なベンチが置いてあるのかと不思議に思いながらキャプションを見つけると、これは実はベンチではなくラファエル・ザルカによるスケートボードを滑るために作られた組み立て式彫刻作品だった。

9階には実際にこれらを使ってスケートボードで滑った映像作品がある。思わず見惚れてしまうほど、滑る技術も素晴らしく、とても気持ちよくスケートボードを巧みに操る。

近くには持ち帰ることのできる大判のポスター作品があり、そちらもぜひチェックしてみて。

最後に、この展示に足を運ぶきっかけになったきっかけは冒頭のビジュアル写真にも起用させてもらったニコラ・フロックの美しい写真による作品だ。

《La couleur de I’eau,Colonnes d’eau 水の色、水柱》(2019)ニコラ・フロック
《La couleur de I’eau,Colonnes d’eau 水の色、水柱》(2019)ニコラ・フロック

インスタレーション、写真、ビデオ、彫刻、パフォーマンスなどを媒体とするアーティスト。2010年以降は海中の景観と生息環境などの写真プロジェクトを始める。背景にある作品《La couleur de I’eau,Colonnes d’eau 水の色、水柱》は、水深と微生物の数による濃度の変化を水体からトリミングしたものだそう。青から緑へと見惚れる色合いの写真たちは、最初絵画のようにも捉えることができた。普段はなかなか見ることのできない深海のありのままの美しさを迫力のある展示で体験してみて。

さまざまな環境問題もあるなか、生活する上で自然とは親密で離れられない私たち。救われていることが本当にたくさんあると展示を通して改めて感じさせられた。会期は5月31日まで。ぜひ天気の良い日に訪れてみては。

edit_Kei Kawaura

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