ホン・サンスが魅せる会話と関係の可笑しさ。/第16回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ
『小説家の映画』
筆が進まない小説家と、一線を退いた俳優。行き詰まった二人の女性が偶然出会い、新たな創作の可能性を見出す様を希望として描いた本作は、触れ込みだけだとシスターフッド的な内容を想像するかもしれない。もちろんその側面もあるのだが、私の印象はまた少し違う。連帯というより、たまたまお互いの人生が重なった瞬間のエネルギーを、可笑しみを込めて描いた作品なのだと受け取った。きっといろんな見方ができるし、どう感じ取ってもいい。そんな懐の深さがある作品なのだ。
妙味は淡々とした会話劇と、定点カメラの画角。特に本作は引きで撮られた場面が多く、人物の表情が読み取りにくい分、台詞の内容や抑揚が際立って感じられた。だからだろうか、登場人物の誰かに感情移入するでもなく、客観的立場から会話を俯瞰することがでうっとうきた。主人公らは悪気なしに鬱陶しい言動をしてしまうのだが、これには自分もこんな態度を誰かにしてしまっているのではないかと自省したくなった。劇中のぎこちない空気に飲まれ、一瞬「何を観させられてんねん!」という気持ちも湧いたが、鑑賞者が抱く居心地の悪さも含めて、面白可笑しい映画体験だったと思う。
特に印象に残っているのは、ラストシーン。あの俳優の“何とも言えない表情”は、一体どちらの意味だったのだろう。観たらきっと、そのことを誰かと語り合いたくなるんじゃないかな。