最新技術でよみがえる、今観るべき不朽の反戦映画。/第13回 ヒコロヒーのナイトキャップエンタメ
CULTURE 2023.05.26
疲れた心と体に染み込む、ナイトキャップ(寝酒)代わりのエンタメをヒコロヒーが紹介。第13回は、アカデミー賞で国際長編映画賞ほか4冠に輝いたNetflix映画『西部戦線異状なし』。
『西部戦線異状なし』
戦争映画の金字塔と呼ばれる本作、タイトルは多くの人が耳にしたことがあるだろう。舞台は第一次世界大戦末期。ドイツ兵として西部戦線の塹壕(ざんごう)に送られた一人の兵士の目線で、私たちも戦争の無情さを改めて知ることとなる。今回は昨年再映画化されたドイツ制作のNetflix映画版を視聴したのだが、序盤から映像と音楽に引き込まれた。戦闘シーンの美しい映像と重低音を響かせる重厚な音楽が、絶望しかない悲惨な現実を際立たせていたからだ。また、生々しい戦場描写の対比として挿入される森林など壮大な大自然の映像も印象的だった。神々しいまでに美しいその長回しを観ながら、私は日本戦没学生の手記『きけ わだつみのこえ』に、兵士が木に生ったりんごを眺めたことを書き記した箇所があったのを思い出していた。極限状態の中でも、ありふれた自然を目にする瞬間だけは静穏な心を取り戻せるのかもしれない。人間の残虐な愚行など関係なく、自然は冷然と美々しく存在し続けてくれている。先日、仕事でアメリカへ行く飛行機の中で、改めて原作の小説を読んでみた。誰かの命令により殺し合いをさせられ、一人の人間の命が粗末に扱われる戦争。100年近く前の作品が色褪せないのは、これが現代の国際情勢にも代替可能な物語だからだ。本作が繰り返し映画化される意義を、空の上で何度も噛み締めてしまった