一生モノの趣味を見つけよう! 小谷実由の『趣味がなかなか見つからなくて。』 /華道をたしなんで、花のようにたおやかな人になりたい。
ファッションモデルから執筆活動まで、分野を超えて軽やかに行き来する小谷実由さん(通称:おみゆ)。意外にも、趣味らしい趣味がないのだとか。夢中になれる、一生モノの趣味と出会うべくしてはじまったのがこちらの連載。11回目は、趣味やお稽古ごととして根強い人気を誇る、日本の伝統文化「いけばな」に挑戦しました。
「池坊いけばな」の心を学ぶ。
お花屋さんでアルバイトをしていた経験もあるほど、お花が大好きなおみゆさん。疲れたとき、悩んでいるとき、お花の美しさに何度も救われてきたと言います。今回は、ずっと興味があったといういけばなに挑戦すべく〈池坊東京会館〉を訪ねました。
深山真純さん(以下、深山)「お花が好きなおみゆさんなら、”池坊”という言葉をどこかで聞いたことがあるかもしれませんね。いけばなの発祥とも言われ、558年の歴史があるんですよ」
小谷実由さん(以下、おみゆ)「558年!そんなに長い歴史が今日まで引き継がれているということにびっくりです」
深山「池坊には、多種多様な草木により大自然の風景を表現する『立花(りっか)』、1~3種類の花材で、草木が地に根を張り生きる姿を表現する『生花(しょうか)』、様式にとらわれず幅広い表現が可能な『自由花(じゆうか)』の3つのスタイルがあります」
おみゆ「お花屋さんでアルバイトしていたときに、お客様にブーケを作ったりしていた経験はあるんですけど…」
深山「それは素敵ですね!そうしたフラワーアレンジメントは、『足し算の美学』、いけばなは『引き算の美学』と言われているんですよ」
おみゆ「足し算と引き算…?」
深山「お花をたくさん使って華やかに見せていくのがフラワーアレンジメントに対して、いけばなは、一本の枝や花の美しい部分を際立たせるために、他のものを引いていくということをします」
おみゆ「なるほど…!」
深山「草木の持つ本来の美しさを見出し、その空間に自然の景観を表現するというのが池坊いけばなの心なんです」
Step1. 花の姿形をよく見る。
池坊いけばなの歴史やその心を教わったおみゆさん。いよいよお花をいけるのかと思いきや…?
深山「まずはお花の構成を考えてみましょう」
おみゆ「構成?!これからお花をいけるんですよね?」
深山「うふふ、不思議ですよね。お花をいけるには構成がとても大切なんです。まずは、お花や葉っぱの姿と形をよーく見てみてください」
おみゆ「お花や葉っぱは一つも同じものがないところが面白いですよね」
深山「そうですね、葉っぱの形にも長いものもあれば、丸いもの、ギザギザしたもの、いろいろあります。これを線や面として捉えるんです。他にも実のついたものは点、紫陽花やレースフラワーのように小花がたくさんついたものはマッス(塊)と考える。こんなふうに、それぞれの線や面といった姿を生かしていけていきます」
おみゆ「うーん、なるほど!今日使うものもじっくり見てみよう…」
深山「今日は、ニューサイランのシュッとした線を生かしていくといいですね。それから、一本一本をどういけるのか形を考えていきます」
おみゆ「斜めにしたり、横に広げてみたり…いける向きを変えるだけで、印象が全然変わってきますね!」
深山「真っ直ぐにいけると鋭さや伸びやかさを感じますし、横に広げていくと安らぎや、優しさを感じますね。どんなふうに表現したいのか考えてみましょう」
Step2. お花をいける。
お花の構成・形を思い描けたところで、いよいよお花をいけ始めます。
深山「準備が整ったら、まずは葉物からいけてみましょうか」
おみゆ「これはグリーンがすごく強くて、こっちは白い部分がとってもきれい。触るとしっかりしてるものもあるし、柔らかいのもある…」
深山「それぞれの特徴を生かしたいですよね。このまま真っ直ぐいけてもいいですが、少し高さを変えたり、前後に広げて立体感をつけたりしてあげることがポイントです」
おみゆ「ガーベラはどんなふうにいけるのがいいですか?」
深山「お花は必ずお日様の方に向かって育ちますよね、なので、おみゆさんがお日様になったつもりでお花をいけてみてください」
おみゆ「自分がお日様に!みんなこっちを向いて!(笑)」
深山「スターチスは、一番最後にバランスを見ながら水際に入れていくと全体が引き締まってきますよ」
おみゆ「私、スターチスが大好きなんです!小さな花がかわいくて」
おみゆ「それぞれの姿を見極めつつ、全体の形も考えなきゃいけないから、ただ花瓶にいけるのとは全然違う。難しい…」
深山「こうやって集中する時間がリフレッシュになるという方も多いんですよ。私自身もそうですね。余計なことは何もかも忘れてお花のことだけを考える、そこがいけばなの楽しさだと思うんですね」
深山「おみゆさん、あとちょっとでできあがりですね?」
おみゆ「最後に残してしまったけど、この葉っぱの行き場所がわかりません…!このまま永遠に悩んでしまいそう」
深山「そうですね、そのままだとちょっと長過ぎるので少し切ってみましょうか。倒し気味に挿してみると、より全体に流れが生まれそうですね」
おみゆ「わぁ〜結構思い切って長さを変えてみてもいいんだ…!急に立体感が出てきた!うん、完成です(パチパチ)」
深山「お疲れさまでした。とても伸びやかな印象ですね。おみゆさんのお仕事への情熱や向上心が現れているような気がします」
おみゆ「なんだか占いみたい!(笑)」
Step3. 先生の手直しを受ける。
最後に、おみゆさんの作品をより美しく完成させるため、先生に手直ししてもらいます。
深山「ニューサイランの動きがとてもきれいですし、表情の見せ方が上手ですね。ただ、ガーベラが重なっていたり、横向きになったりしているところが気になるので、その辺りを手直ししていきましょうか」
おみゆ「このガーベラの曲がり具合が難しかったんですよね…。どうしても重なっちゃう」
深山「少し距離を離して、それぞれのお花がしっかり見えるようにしてあげましょうか。そうして空いた空間にスターチスを持ってきてあげる。そして茎や葉の動きを生かして空間に丸みを出してあげるといいですね」
おみゆ「わぁ、一気にバランス良くなりました!」
深山「最後に水際の反対側にもスターチスを入れてあげます。たった1本なんですけど、それだけで奥行きが生まれます」
おみゆ「横から見てもバランスが良くなって、なんというか野性味がなくなった…!」
いけばな体験を終えて。
深山「おみゆさんはお花に携わっていたこともあって、お花の表情をしっかり見て、いいところを引き出していましたね。お家でもぜひお稽古を思い出しながらいけばなを楽しんでいただけたらと思います」
おみゆ「いけばなって、その人の性格が表れるんですね。私の、野心!真っ直ぐ!みたいな感じがよく出ていました(笑)でも、先生が手直ししてくれたお花のように、丸みのある優しい人になりたいなぁ」
おみゆ「お花を飾るということから、空間に風景や物語を作り出すことができると知って、ますますいけばなに興味が湧きました。お家では、大好きなチューリップをいけてみたいと思います!どんな物語が生まれるかなぁ」
今回教えてくれたのは?
今回、指導してくれたのは、〈池坊ビギナーズレッスン東京本校〉講師・華道教授の深山真純さん。個人教室も主宰し、気持ちも空間も華やかになるいけばなの魅力を広く伝えています。
〈池坊東京会館〉のビギナーズレッスンは、夜間クラスも開催。仕事帰りに通いたい方にもおすすめです。詳細や申込みは下記のWEBサイトをご覧ください。
〈池坊東京会館〉
◾️東京都千代田区神田駿河台2-3-12
◾️03-3291-9321
◾️https://www.ikenobo.jp/tokyokaikan/lesson.html
(photo : Natsumi Kakuto, text : Renna Hata)