ハナコラボSDGsレポート 「99%コントロールできなくても、1%に全力を」ニュージーランドの森に住む執筆家・四角大輔さんが叶えた豊かな生活 SUSTAINABLE 2021.07.22

ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足! 毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第34回は、編集者として活躍する藤田華子さんが、ニュージーランドの湖畔でオーガニックライフを送る、執筆家・四角大輔さんを取材しました。(記事トップ画像:Photo by Takuya TOMIMATSU)

Photo by Takuya TOMIMATSU
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ニュージーランドの森に囲まれた湖のほとりに暮らす執筆家・四角大輔さん。実は四角さん、日本にいたころは大手レコード会社に15年間勤め、プロデューサーとして数々のヒット作品を世に送り出してきた経歴をお持ちです。その生活を離れ、学生時代からの憧れだったニュージーランドに移住。オンライン取材の背景には、豊かな原生林、雄大な湖、ため息が出るほど美しい自然が広がっていました。オーガニックライフを送っている四角さんが“小さな一歩”を踏み出して今の生活を叶えるまで、そしてニュージーランドという国の魅力について、お話を伺いました。優しく背中を押してくれる言葉がちりばめられたインタビューです。

大きな夢も、ちっちゃい一歩から。メモを取る大切さ

ーーニュージーランドに住んで、今年で11年。そちらではどんな生活をされていますか?

(おうちから臨める湖を写してくださいながら)「こんな原生林に囲まれて暮らしています。うちは山奥すぎて水道が通っていないので、この湖の湧き水にパイプを設置しているんです。主食は、湖で釣れるでっかいマスと、庭のオーガニック菜園の野菜、そして周りの森からの収穫物です。去年はオーガニック菜園を倍に拡張して、果樹も増やして30本植えました。季節によって割合が変わるんですが、狩猟採取プラス自家菜園でほぼ自給自足の生活をしています」。

SDGs 藤田さん

ーーすごい!執筆業も、その風景を見ながら行っているのですか?

「そうですね。レコード会社を辞めた後、世界中を旅する生活をしていた時期が7〜8年あって、2009年に『移動生活やめる宣言』をしてからはずっとここにいます。身寄りがない土地なので、移住する前にサバイバル能力を高めて『誰にも頼らずに生活しないと』って思っていたけど、周りの人たちにすごく助けられたんです。たとえば、ボートのエンジンを直してもらう代わりに、僕が得意な釣りをして獲った魚を差し上げるなど、近所の方々と物々交換、物技交換(モノとスキルの交換)をしたりして。僕が目指している、資本主義経済に依存しない生き方に挑戦している人が近所に多いので、この湖畔の集落の中で助け合っています。日本ではわからなかった、小さなコミュニティのありがたみを改めて感じています」。

ーー日本でも働き方改革で労働時間など大きく改善されてきていますが、ニュージーランドの生活が眩しく、羨ましいです…。でも、四角さんのように自由を求めても行動に移すには勇気が必要です。まずはじめのとっかかりとして、私たちは何から手をつければいいかアドバイスをいただけますか?

「脳科学でも証明されているんですけど、人間って、何か新しいことをやるとき、それを『危険な変化』と判断してしまうんです。人類の長い変化の中で、リスクを取らない方がいい、という防衛本能の一種らしくて。僕は『どうやったらその本能をごまかせるかな』と考え、“ちっちゃい一歩”を踏み出すことを大切にしてきたんです」。

ーー“ちっちゃい一歩”とは…?

「たとえば、メモを取ることが最小の一歩です。僕みたいに『いつかニュージーランドに移住したい』と思いついた時に、まずはメモに書くんです。思ってるだけだと忘れちゃうし、もし10年後に思い出しても、すでに手遅れかもしれない。でも書くと記録として残るし、書くという行為は手を動かすから体に染み込むし、書いた文字を目で確認できるから視覚的にもインプットできる。『ただメモなんてたいしたことない』と思うかもしれないけど、これは立派なファーストステップなんですよ」。

ーー日々TO DOリストは書き出していますが、自由なメモってあまり取らないかもしれません。

「TO DOリストは外部から与えられるものですよね。内側から湧いてくるものじゃない。どちらを大切にしたほうがいいかと言ったら、絶対に内から湧いてくるもの。『そんなの無理』という常識、外部からの心ない助言、自分の頭が作り出す色んなできない理由、といったノイズにかき消されちゃう前に、自分の心の真ん中から湧いてくる宝物を“ドリーム・リスト”に書き留める」。

ーー四角さんも“ドリーム・リスト”を書かれてきたんですね。

「そうですね。僕の場合は、その夢を忘れないためにいろんな工夫をしました。視覚的な作用って大きいので、ベッドルームにでっかいニュージーランドの地図を十年以上貼ったままにしたり、理想とする湖畔の暮らしが描かれた絵をリビングに貼ったり、向こうの絶景を待ち受け画面にしたり。当時はインターネットがなかったので、ニュージーランド特集のTV番組は絶対録画していたし、東京のニュージーランド大使館にならぶ関連図書をメモして買い集めたり、雑誌で特集してたらスクラップしたり、ニュージーランドの音楽を聴いたり…夢を忘れないための小さい一歩を、いっぱいやりました。そうして15年かけて、移住したんです」。

99%のコントロールできないことに絶望しないで、1%を信じてやってみる

ーー「自分で決める経験が多いほど、人生の幸福度数が高くなる」と何かの本で読みました。四角さんの生活をみていると、まさにそうだなあと思います。

「いい言葉ですね、本当にその通りだと思います。都会で過ごしていると、都市空間という人間が作った文明に守られて自分に万能な力があるように思っちゃう。でも、独りで自然の中にいると、自分でコントロールできる範囲って本当に一握り、たかが知れてると気づく。本当は無力なんですよね、人間って」。

ーーたしかに、タクシーをすぐに呼べて、食べたいものをデリバリーしてもらえて…それって、都市空間ならではの万能さですよね。

「逆に、文明を離れたときに自分でハンドリングできる範囲ってどれくらいだろうって考えてみる。2週間ただひたすら山を歩き続けるとか、カヤックで波を越えて外洋に出るといった大自然のなかで、自分でコントロールできる範囲って、僕の感覚では1%にも満たないと思うんです。99%は抗えない、不可抗力の部分。ならば僕は、1%に全力を尽くせばいいと思って。そう考えると、やれる気がするんですよね。僕は少なくとも、外部のノイズに負けないで自分でたくさんのことを決めてきました。諦めるときも、自分の意思で決める。その結果いま、1%の範囲で全力を尽くせたって言い切れる。だから、いまこうしてニュージーランドで目指していた生き方ができている。99%の自分でコントロールできないことに絶望せず、1%を信じて、挑戦して欲しいです」。

ーー好きな漫画『ザ・ファブル』に「山で経験する事は、正反対の街でも似たような応用が効く。でもなぜか街での経験は、山ではほとんど通用が効かない」というセリフが出てきます。四角さんはニュージーランドで暮らし、野生を取り戻すという意味で生き生きとされているように見えるのですが、いかがでしょう。

「それは名言ですね、まさにその通りだと思います。もうちょっと補足すると、自然界で身につく能力って仕事でも、暮らしでも役に立つと思うんですよね。僕は意識的に『自分の中に眠っている野生ってどんなものだろう』って、身一つで自然の中に入っていくことを幼少期からやってきました。そして11年この大自然の中で過ごしてきて、さらなる本能を取り戻せている感覚があります」。

ーー本能を取り戻してくると、どうなるんですか?

「いろいろありますが、たとえばさっきの“ドリーム・リスト”に書き込むべきは、外部情報でも、頭で考えるものじゃなくて、本能や野生から湧いてくるものであるべきなんです。現代人にもっとも必要なのは、ノイズだらけの世の中で、自分にとって本当に大切なものを嗅ぎ分ける能力です。この感覚がないと、自分の人生を生きられなくなる、と言い切れます。僕にとって一番ノイズレスな場所が大自然の真ん中。そんなところで、瞑想するように暮らしたいっていうのが夢でした。それができれば、どんなノイズシャワーを浴びようと、世の中がどんなに混乱しようと、常に自分を失わずに生きていける。生活そのものが瞑想化していくことで、本能を取り戻すことでできるようになってきました」。

Photo by Shotaro KATO
Photo by Shotaro KATO

ーーニュージーランドに住んでよかったなと思うことや、国の魅力を教えてください。

「一番は、リベラルなところですね。ニュージーランドはトップクラスに若い国なので、伝統や古い文化もない代わりに『こうでなくちゃいけない』という、変なしがらみやこだわりが少ないんです。たとえば、ニュージーランドって、世界的にかなり早い段階で国として同性婚を認めたんですよ。当時まだ国会では反対派が多くて。そこで推進派の議員が『明日も世界はいつものように回り続けます。だから、大騒ぎするのはやめましょう。この法案は関係がある人には素晴らしいものですが、関係ない人にはただ、今までどおりの人生が続くだけです』とスピーチをしました。こんな国会答弁ができることもニュージーランドを象徴しているし、それによって意見がひっくり返って一気に同性婚を認める動きになったのもニュージーランドらしいって思うんですよね」。

ーーマイノリティだったり、立場が弱い人にも優しいんですね。

「そうなんです。世界で最初に、女性の参政権を認めたり、手話を公用語にしたり、労働者の最低賃金を決めたりしてるんですよ。このインタビューの冒頭で僕は『まったく身寄りのない異国の地で、誰にも頼らず生きていかないと』という覚悟で移住したと話しましたが、まわりにすごく助けられました。なんでみんな、こんなに優しいんだろうって考えたんですけど、日本と違って、こっちは仕事よりもライフスタイルとか日々の暮らしが優先。食べること、寝ること、子どもを育てること。そして大人も子どもも本気で遊ぶ。17時に仕事が終わって釣りに行く人もいれば、ヨットのレースに出る人もいる。本気で遊ぶから、気持ちに余裕ができて人にも優しいんですよね。人間って本来そういうものじゃないかなと」。

SDGs 藤田さん

ーーニュージーランドは環境に配慮した国としても有名ですが、そのあたりはいかがですか?

「面白い話で、ニュージーランドの『オーガニック認証』ってわりと最近整った制度なんですけど、昔から環境に配慮して農薬も化学肥料も使ってこなかった農家さんの多くが、認証を取らないんです。なので『裏オーガニック率』なるものが高い。なんなら、エコとかSDGsとかスローライフという言葉を誰も使わない」。

ーーナチュラルボーンで地球に優しいんですね…!

「そうそう、認証をもらうには書類を書いたり、検査を受けたり、登録フィーを払ったりしなくちゃいけないから、面倒だって積極的じゃないけど、根っからのオーガニック思想を持つ人はとても多いんです。認証ベースの『表のオーガニック率』はみんなが想像してるより低いけど、実質的なオーガニック率は高かったり、酪農と畜産の国なのに、ヴィーガンやベジタリアンのレストランが多かったり。ニュージーランドのそんな天然キャラっぽいところを、愛おしく思っちゃうんですよね(笑)」。

ーー離れた場所から日本を見て、生きにくさを感じている私たちに思うことやメッセージがあれば教えてください。

「僕も39年間日本にいたし、日本は大好きです。でも、長い歴史と伝統があるがゆえ、急速に変化してきた世界から取り残されてしまっています。現代にマッチしない、古い慣習や価値観に苦しみを感じる人は多いんじゃないでしょうか。ただ、これまでの歴史が証明しているように、どんなに抵抗しても、日本は世界の風潮には逆らえないんですよ。世界が大きく動いたら、日本も変わらざるを得ない。海外の動向をしっかり見て、世の中をいい方向に導く流れを見つけたら、それに乗って欲しいんです。
最近読んだ『人新世の「資本論」』 (集英社新書)という斎藤幸平さんの本に、3.5%の人が変われば社会は変わる、と書かれていて。100人いれば3〜4人。これを超えた瞬間一気に変化が訪れる、という理論に強い希望を感じました。みなさんが意思を持って“チーム3.5%”にジョインすれば、自分たちで日本を変えることができるということ。だからあきらめず、あなた自身のために、世の中を自分が望む方向に動かすべく行動してほしいと思います」。

四角大輔

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