ハナコラボSDGsレポート 海に漂流したプラスチックごみをアクセサリーに蘇らせる。石川県で障害のある方とともにつくる〈カエルデザイン〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。第28回は、ライターとして活躍する五月女菜穂さんが、サステナブルブランド〈カエルデザイン〉を取材しました。
一つとして同じものはない、色とりどりのピアスやネックレス。実はこれら、海に流れついたプラスチックごみから作られたアクセサリーなのだそう。石川県金沢市でプラスチックごみのアップサイクルに取り組んでいるブランド〈カエルデザイン〉のクリエイティブディレクター・高柳豊さんに、事業に懸ける想いを聞きました。
ーーはじめに〈カエルデザイン〉を立ち上げた経緯を教えてください。
「〈カエルデザイン〉は2019年に立ち上げたクリエイティブユニットで、今年の5月19日に〈カエルデザイン合同会社〉となりました。それまで私は、システムエンジニアからキャリアをスタートさせて、英会話教室、各種カルチャー教室の企画運営、雑誌の出版編集、商品企画・販売プロモーションなど、興味の赴くまま、幅広く仕事をしてきました。
Bean to Barのクラフトチョコレートのブランディングの仕事を終え、次に取り掛かるプロジェクトを考えていた折、ウミガメの鼻にストローが刺さった動画が世界的に拡散していたんです。ちょうど2018年頃のことですね」。
ーーあぁ、とても痛ましい動画ですよね。
「あの動画をきっかけに、世界的にプラスチックストローの排斥運動が始まって、紙やステンレスのストローに切り替えようという動きが本格化しました。そこで、ふと本当に海にストローは落ちているのだろうかと思い、私が住んでいる石川県の海岸を歩いてみたんです。そうしたら、ストローはほとんど見つからなかったものの、大量のプラスチックごみが流れ着いている現状を目の当たりにして。それまで家族で海水浴に行ってもプラスチックごみはそんなに目につかなかったのですが、改めて『ごみがあるか』という視点で見てみるとものすごい量で。プラスチックストローも問題だけど、それ以上に大変なことが起きていると実感しました」。
ーー確かに写真を見ても、すごいごみの量です。
「一般的に金沢のイメージは歴史と伝統工芸の街で、小京都と言われるぐらいきれいな街並みを思い浮かべる方が多いと思うのですが、海岸に行くと写真のような状況なんです。海辺はいわゆる観光地ではないですし、海水浴場でもないので、どうしても放置されてしまう。きっと近辺にお住まいの方でも、ほとんどの方がこの現状を知らないと思います」。
ーープラスチックごみの多さに圧倒されて、どうにかしたいと考えられたわけですね。
「はい。クリエイターの力でなんとか解決できないだろうかと考えました。布でも紙でも鉄でも、廃棄されるものをデザインやクリエイティブの力で商品として蘇らせることを『アップサイクル』と言いますが、このプラスチックごみもアップサイクルができるのではないかなと。その後、知り合いのアクセサリーデザイナーである川﨑朱美子さんと、グラフィックデザイナーである井上和真くんに相談し、3人で〈カエルデザイン〉というユニットを始めました」。
ーー〈カエルデザイン〉は、リハビリ型就労支援施設〈リハス〉のみなさんと協働されているそうですね。
「〈カエルデザイン〉を始めたのが2019年の春なのですが、ちょうど同じ年の6月に、私が〈リハス〉のディレクターという立場になって。元々〈リハス〉では、能登ヒバという木材を薄くして葉書やしおりを作ったり、革の製品を作るなど、総合的なディレクションをしていました。プラスチックごみのアップサイクルが何とかできそうだという見通しがついた段階で、〈リハス〉のみなさんとご一緒できないかとご提案したんです。そうしたら、施設長も賛成してくれて」。
ーー障害のあるみなさんと協働するというのは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念にも通じると思うのですが、高柳さんはどのような点で協働に可能性を見出されたのですか?
「障害者の就労支援施設は全国にたくさんあります。A型とB型という制度上の区分があり、B型は障害が重い方、A型はもう少し障害が軽い方という区分です。A型の場合、施設と雇用契約を結ぶので最低賃金をお支払いする。最低賃金をお支払いするということは、1時間に最低賃金以上の価値を持つサービスやモノを生み出さないといけないわけです。
さらに、その2倍も3倍も売り上げを出さなくてはいけない。例えば何か製造業をやっている会社が、その施設を運営していれば、その仕事を下請けとして障害を持っている方にお仕事をお任せできるのですが、そういう関わりが全くない施設もたくさんあるんですね。作業する場所はある。テーブルとイスも用意した。さぁ何を作りましょう。どうやったら最低賃金を稼げるでしょう。そんな手探り状態で苦労している施設が世の中にはいっぱいあるわけです。
僕は〈リハス〉の事業に関わって、そういった状況を目の当たりにしてきました。一方、〈カエルデザイン〉がやろうとしているアップサイクルのブランド、特に海洋プラスチックのアップリサイクルブランドは日本にほとんどない。商品の差別化という意味では、きちんと稼いでいくことにつながるだろうと。根拠のない確信があったんですね」。
ーーなるほど。ビジネスとしての可能性が見えたわけですね。
「はい。それは僕だけではなく、施設の責任者も見えたのだと思います」。
ーー1つ1つのアクセサリーが生まれる過程を詳しく伺いたいのですが、最初にプラスチックを海に拾いに行くんですよね。そのあとはどうなるんですか?
「拾いに行った後は、そのプラスチックを洗います。できるだけ環境を汚さないように、重曹だけを使い、こびりついた泥を落とします。そしてはさみで大体1cm角くらいの大きさにカットします。それを青、赤、緑など色別に分けた後にプラスチックをブレンドして、アイロンでプレス。プレスすると板状のものが出来上がるので、それをアクセサリーの形にカットして、樹脂でコーティングし、金具を付けて完成です」。
ーーおもしろいなと思ったのが、日本全国から拾ったプラスチックゴミが届くそうですね。
「最初はそういうことは全く考えていなかったのですが、ある日、神奈川県の茅ヶ崎の方から『ビーチクリーン活動をしているので、拾ったごみをアクセサリーにしてもらえませんか』とご依頼いただいて。一生懸命ビーチクリーンをされて、集めたものは自治体に頼んで焼却してもらうという流れが一般的。ただプラスチックごみを燃やすのではなく、それがアクセサリーになったらみんなに喜んでもらったり、共感の輪が広まったりする。それは素敵なことだなと思って『もしビーチクリーンをされてる方で、その拾ったプラスチックを送ってくださる方がいらっしゃったらどうぞ』と何回かSNSで告知をしました」。
ーーそんな経緯があったのですね。ちなみに、販売されているアクセサリーの価格帯が微妙に違うのは何故なのでしょうか?
「制作にかかる時間やアクセサリーの大きさ、使用する金具などで価格に変化をつけています。一番最初のアクセサリーのデザインは、アクセサリーデザイナーである川﨑さんにお願いしているのですが、どんな色、形にするかは任されています。それぞれの個性が出るので、一つとして同じものはない、一点もののアクセサリーができます」。
ーー高柳さんご自身、環境問題やSDGsに目覚められたきっかけはなんですか?
「30年以上前ですが、〈ODA〉のプロジェクトで、モルディブにに3ヶ月ぐらい滞在したことがありました。当時はいまほど地球温暖化が叫ばれてないときでしたが、このまま温暖化が進むと、最高海抜1.8mのモルディブは、国そのものが沈んでしまうということが言われていました。それが衝撃的で。美しいリゾートがやがてなくなってしまうという悲劇と、観光客がキャーキャー言いながらビーチで楽しそうに遊んでいる現実のギャップ。それ以来、ずっと環境のことは頭の中にありましたね」。
ーーモルディブのご経験から、いままで呼吸するようにSDGsに取り組まれてると思うのですが、高柳さんご自身が心がけていることはありますか?
「SDGsの17の項目のうち、私自身は自分の活動がどの項目に当てはまるか、実は全く意識していません(笑)。あえていうなら、『海の豊かさを守ろう』と『働きがいも経済成長も』という2つに関わっていると思うのですが、別にそれが何番だろうがどうでもよくて。自分たちがやってることが誰かの幸せに繋がり、地球を守ることにも繋がることであればいいなと思っています。でも活動している限り、必ず環境には負荷をかけてると思います。例えば、北海道や石垣島からプラスチックを送ってもらう場合、それだけで間違いなくCO2は発生している。やっていること全てが環境に良いわけではないと思っていますが、トータルとして、これが海や地球のためにプラスになり、障害を持ってる人が夢を持って生きていける。総合的に間違いなくプラスになっているのであれば、それでいいかなと思っています。
環境に負荷をかけている部分があるとすれば、それを少しでも減らしていきたいし、その努力はしていこうと思っています。例えば、いまのアクセサリーをつけている台紙は、普通の再生紙を使っていますが、廃棄される花をすき込んだ紙に変えようとしていたりとか。それから、アクセサリーを樹脂コーティングする際に使うUVランプを、普通の電力ではなく、自然エネルギー由来の電力に変えてみようと思っていたりしています」。
ーーそんなことまで!すごいです。では最後に、今後の活動の展望を教えてください。
「いまは全国から金沢に海洋プラスチックごみを送ってもらって、金沢でアップサイクルをしていますが、今後は北海道のプラスチックごみは北海道、沖縄のものは沖縄など、地産地消でアップサイクルしていきたいなと考えています。また、海洋プラスチックだけではなく、紙や布などほかの素材でのアップサイクルの可能性もあると思うので、そこにも挑戦していきたいと思います」。