伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第20回
アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。
(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Tamago)
「終わりの感覚」
何かに行き詰まった時は、「これで最後だから」と思うようにしている。私なんか、ダメでもともとなんだから。これで最後になったって良いじゃないか。そうやって自分への期待を手放して、心の中で別れを告げてから、背水の陣のつもりで取り組む。すると、なぜか意外とうまくいく。そんな経験を、今までに何度もしてきた。
たとえば、乃木坂46のオーディション。「私なんかが受かるわけない。これで最後、これで最後」と自分に言い聞かせながら、都営新宿線の1番ホームに来た電車に乗り込んだのを覚えている。道に迷っても「まぁ、こんな遠いスタジオに行くなんて最初で最後だし」と開き直っていた。始まりの場所にいるのに、すでに終わりの感覚があった。
加入してからも、応援してくれる人に喜んでほしい、誰かから必要とされたいとは思っても、自分自身がやりたいことはそんなになかった。未来をイメージしようとしても白紙のままで、具体的なシーンを空想しても、なぜかそこに自分の顔は見当たらなかった。経験がない上に自信もないから、何もできない。だからといって、もうやるしかないものに対して、苦手とか、不安という後ろ向きな気持ちを持っても気が沈むばかり。だったら、せめて後悔のないように。
ここだけの話、グループから卒業する時に更新するブログを、今までに何回も書いて、下書きのまま保存してある。お世話になった人たちへの感謝、現場で学んだこと、やってみて難しかったこと、辛かったこと、喜んでもらえたこと。行き詰まった時、そういう「前向きな別れの手紙」を本音全開で書いていくと、まだやり残していることにも気づくし、やり切ったって言っちゃってもバチは当たらないんじゃないか、みたいなものも見つけられる。
今まで頑張って得てきたものを失ったらどうなるか、その恐怖はずっとある。でも人に褒められるために頑張るんじゃなくて、自分で自分に胸を張るためなら、虚勢を張らずに頑張れる。何ひとつ上手くいかなくても、これで最後になっても構わないと思えるくらい全力で向き合ったなら、それでいいと思っている。そんな貴重な経験は、もうできないかもしれないから。もし誰かに迷惑をかけても、まず謝って、最後にありがとうございましたと伝えたら、一旦終わりにする。その人に会える機会だって、二度とないかもしれないから。謝って反省して、改善点を見つけたら、罪悪感を持つのはそこで終わり。
私の身に起こることは、きっと起こるべくして起きて、必ず全て過ぎていく。自分に期待できない臆病な人間は、そんな終わりの感覚を持つと、少し大胆になれる。