娘から父へ…おいしい日本酒おしえます! 【特別篇】出張!『伊藤家の晩酌』 in 尾道 vol.1/今田酒造本店の「富久長 純米吟醸」飲み比べ~
弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 通常回をちょっとお休みして今回から全4回の特別篇をお届け! なんと伊藤家を飛び出し、父・テツヤゆかりの地、広島県尾道市で特別ゲストをお迎えしてイベントを開催した模様をレポートします。
(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
父・テツヤが尾道との深い縁がきっかけで「伊藤家の晩酌」in 尾道が実現!
娘・ひいな(以下、ひいな)「尾道に出張に参りました! 『伊藤家の晩酌』 in 尾道!」
父・徹也(以下、テツヤ)「記念すべき、第1回の出張開催だね」
ひいな「しかも、父にゆかりのある尾道で開催だからね」
テツヤ「いやぁ、うれしいよ」
ひいな「尾道とのご縁を聞かせてよ」
テツヤ「中3の時にさ……」
ひいな「え? そんなに前までさかのぼっちゃうの(笑)?」
テツヤ「そうなんだよ。中3の時に、卒論を書かないといけなくて。最低100枚も。俺は旅行記にしようと思って。行ったことなかったから広島に決めて。大林監督の映画の影響で尾道にも来てみたくて。広島、尾道、鷲羽山の3カ所を1週間かけて周って。お金がないからユースホステル泊まって。尾道が一番長くて3泊したのかな」
ひいな「へぇ、1人旅か、楽しそうだね」
テツヤ「2回目は大学生の時。入ってすぐつまらなくなっちゃって行かなくなって。暇だからヒッチハイクして、最後にたどり着いたのが尾道だったの」
ひいな「それは運命的だねぇ」
テツヤ「2012年くらいから尾道で仕事させてもらっていて。『Casa BRUTUS』の撮影で『せとうち 湊のやど』がオープンする前から撮ってたり、サイクリストためのホテル『ONOMICHI U2』、坂の途中にあるホテル『LOG』、この会場の『ONOMICHI SHARE』、瀬戸内海に浮かぶ海の上の旅館『ガンツウ』、水陸両用飛行機『せとうちSEAPLANES』とかも撮らせてもらってます」
ひいな「それはそれは、尾道にゆかりがあるんだね」
テツヤ「だから、こうやって尾道でひいなと一緒に『伊藤家の晩酌』を開催できることになって、本当に感慨深いよ」
ひいな「それは私もうれしいな」
尾道の人気ビストロ〈BISOU〉の岡本ご夫妻を特別ゲストにお迎え!
テツヤ「それはそうと、横の席が空いてるんじゃない?」
ひいな「だよね。さっそく本日のゲストをお呼びしたいと思います!」
テツヤ「尾道のビストロ〈BISOU(ビズー)〉のおふたりです! まずは、自己紹介していただけますか?」
岡本真人(以下、岡本)「尾道で〈ビズー〉というワインの店をやっています、岡本と申します」
岡本久美子(以下、久美子)「妻の久美子です。今日はよろしくお願いします!」
テツヤ「岡本さんたちと知り合って、もう何年になりますかね?」
久美子「え〜っと、何年ですかね(笑)」
テツヤ「俺もわかんないや(笑)。もう長いですよね。仕事で尾道にお邪魔するたびに〈ビズー〉に行くんですよ。すごく駅から遠いし、カードも使えないし、不便極まりないんだけど(笑)、行くと必ず寄らせてもらっています。前に3日間、連続で通ったこともあったよね?」
ひいな「そりゃ、すごい。父がいつもお世話になっております」
岡本夫妻「こちらこそ」
テツヤ「最近は、ホテルも取らずに岡本さん宅に泊まらせてもらったりしてね。2019年の『Casa BRUTUS』の猫と家。特集でも、岡本さん家を取材させていただいて。岡本さんとこの猫ちゃんが中刷りになったりね」
久美子「その節はお世話になりました」
ひいな「そんな仲良しの岡本夫妻をお呼びして、おふたりが日本酒をどう捉えてくださるかな?というのが今日とても気になっているのと、尾道についてもいろいろ伺えたらなと思っています!」
テツヤ「よろしくお願いします!」
岡本夫妻「こちらこそ、よろしくお願いします!」
酒米によって味わいが違う「富久長 純米吟醸」を飲み比べ。まずは、広島酒米のルーツ「八反草」から。
ひいな「岡本さんたちは普段、日本酒は飲まれますか?」
岡本「飲みますよ。妻の実家が東北の福島なので、なじみがあるのは東北のお酒で。僕自身は山口県出身なんですが、広島のお酒に実はなじみがなくて。今日は広島のお酒が飲めると聞いて興味津々です」
ひいな「うれしいです。では、説明は後にして、さっそく飲んでいただこうかな。本日は2本ご用意しています」
テツヤ「よっ! 『富久長』!」
ひいな「この間、『富久長』の蔵、今田酒造本店にお邪魔して、たくさんお話を聞いてきたんです」
岡本「今田酒造本店はどちらにあるんですか?
ひいな「東広島市の安芸津にあります」
久美子「あぁ、安芸津なんだ」
岡本「じゃがいもが有名だよね」
ひいな「そうなんです。杜氏は、今田美穂さんという女性なんです。今回は、酒米違いで2本ご用意しました」
岡本「女性杜氏って珍しいんですか?」
ひいな「男性の杜氏が圧倒的に多いですね。でも、最近は、女性の杜氏も活躍されていて、美穂さんは、2020年のBBC『今年の100人の女性』に唯一日本人で選ばれたんですよ」
岡本「ワインも、女性の醸造家さんが結構いらっしゃるんです」
ひいな「へぇ、いらっしゃるんですね。ワインって力仕事が多いんですか?」
岡本「僕たちが扱っている自然派ワインといわれるものは、半分以上が農作業ですね」
テツヤ「農作業?」
岡本「雑草を採ったり、馬で耕したり。醸す過程よりも前の畑づくりのほうに重点が置かれている感じかな」
テツヤ「なるほど」
岡本「このお酒のお米は、どちらで作られてるんですか?」
ひいな「八反草(はったんそう)は広島、山田錦は書いていないので、おそらく広島ではないのかなと。この八反草というお米は広島とゆかりのある酒米で、『富久長』でだけ使っている幻の酒米なんです」
岡本「へぇ。それはどんな味なのか気になるね」
テツヤ「じゃ、さっそく飲んで乾杯しようかね」
ひいな「まず、2つ同じ、おちょこかグラスを選んでいただいたと思うんですが、同じもので2本のお酒を飲み比べてもらいたくて」
岡本「僕はこのワイングラスですか?」
ひいな「岡本さんには、やっぱりワイングラスで飲んでいただきたくて」
テツヤ「どうして俺のグラスは小さいんだ?」
久美子「ほんとだ(笑)」
ひいな「いつも飲みすぎて眠くなっちゃうから。ほどほどにと思って小さめにしてみたよ」
テツヤ「お、お酒の色が違うね」
ひいな「そう、そこも気づいてほしかったの」
久美子「山田錦のほうが若干濃い?」
岡本「そうだね。八反草のほうが透明だね」
テツヤ「確かに。でも写真じゃ写らないや」
ひいな「酵母も同じでお米の削り具合も一緒なのに」
久美子「造っている期間も一緒?」
ひいな「はい、一緒です」
テツヤ「お米が違うだけで色が違うっていうことは、きっと味も違うんだろうね」
ひいな「ではみなさん、グラスを持っていただいて。では、まず八反草から」
一同「乾杯〜!」
久美子「いただきます!!」
テツヤ「うわ、めっちゃフルーティ!」
岡本「うん、フルーティだね」
テツヤ「ワインみたいじゃない?」
ひいな「お、ワインみたい? 岡本さん、いかがですか?」
岡本「うん、ワインみたいですね」
ひいな「お父さん、チャレンジャーだね(笑)。プロの前で『ワインみたい』という発言をしちゃうなんて……」
テツヤ「思わず、いつもみたいに言っちゃったけど、岡本さんが賛同してくれてよかった(笑)」
ひいな「透明感はあるけど、しっかりと甘みを感じて、余韻が長い感じありませんか?」
久美子「うん。舌に残るというか……」
ひいな「そう、なんか口の中を優しく包み込むような感じというか」
くみこ「そうそう」
岡本「日本のワインみたいですね」
テツヤ「うん、うまいね」
第2回へつづく
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