“ベタ”じゃない北海道旅へ。人生で一番おいしいカレーと、伝説の木彫り師との出会い

“ベタ”じゃない北海道旅へ。人生で一番おいしいカレーと、伝説の木彫り師との出会い
車にのって、手しごとが生まれる場所へ Vol.2
“ベタ”じゃない北海道旅へ。人生で一番おいしいカレーと、伝説の木彫り師との出会い
TRAVEL 2024.12.26
車旅のいいところは、好きや安心で満たした空間で、非日常に飛び込めること。そんな車旅に魅了されたひとり、写真家・表萌々花さんは、民藝品の工房を訪ねて各地に足を運びます。本連載は全国の手しごとの生まれる場所、そしてその道中に出合う心と体を満たすごはん屋さん予算2000円以内のその土地ならではのお土産を紹介する車旅日記。Vol.2は“写真の街”ともいわれる、北海道・長沼町〜東川町の旅路です。
表萌々花
表萌々花
写真家

おもて・ももか/「目の前の日々を留めて置く作業」をライフワークとしながら、東京を拠点に活動。2024年3月には、自身、2冊目となる写真集『traverse(r)』の出版。ハナコラボパートナー。

Instagram@fantasy_omote
HPhttps://www.momokaomote.com/

旅のきっかけは、北海道の妖精・コロポックルとの出合い。

ある秋の終わりに、「実家が建て壊しになるから整理してて、ももちゃんが好きそうなの出てきたからあげるよ!」と友人から木彫りのコロポックルをもらった。

コロポックルとは、アイヌの伝承に登場する小人の妖精のこと。貰ったコロポックルの裏を見ると、『西山忠男 考案』と書かれたステッカーが貼られていた。気になって調べてみると、コロポックルを初めて木彫りの作品として作り出し、一大ブームを巻き起こした伝説の木彫師だということが分かった。

現在は北海道東川町で〈ふくろうの店〉という名前の工芸店を構えているそう。会いに行きたい! という直感に従い突如として北海道行きの旅が決まったのだ。

広大な田畑の中にぽつんと佇むインドカレー屋

新千歳空港に到着してすぐにレンタカーを借りて向かったのは、空港から20分ほどの長沼町にある〈Shandi nivas café〉(シャンディーニヴァースカフェ)。本格的なインドカレーと焼き菓子が楽しめるカフェで、広大な田畑の中にぽつんと佇む白壁の可愛らしい古民家で営まれている。

味のある古道具アンティークの家具で設えられた店内で、ぬくもりのある空間にほっと一息。

かねてより、ここのカレーを食べるのが夢だったので、念願の一皿は欲張って3種盛りプレートに。5種類のカレーの中から、チキンマサラ、海老とココナッツ、ベジタブルを選び、お米も日本米かバスマティ米を選べるので、バスマティ米をオーダー。

どのカレーも本格的な味わいなのにとても食べやすくて、あっという間に完食。特にエビの旨味が詰まったまろやかで奥深いココナッツカレーは、食べた瞬間に人生で一番おいしいと思えるカレーに出合えたと確信した。ここに来れて良かったと思えるひとときを過ごし、近いうちにまた必ず食べにいきたいと誓う。

〈Shandi nivas café 〉

住所:北海道夕張郡長沼町東4線南10番地
営業時間:11:00~16:00(LO 15:00)
定休日:火曜日、水曜日
Instagramhttps://www.instagram.com/shandi_nivas

北海道の銀世界をドライブ

お腹も満たされたところで、いよいよ東に向かって車を走らせた。秋の景色から次第に冬の景色へと変わっていき、気がつけばあたり一面は銀世界に包まれた。

幻想的な雪化粧の木々に魅了されていると、道路脇の林でエゾ鹿を発見。こちらの様子を伺いながらじっと見つめる凛とした姿に惚れ惚れする。

車窓から広がる風景に夢中になっていると、あっという間に次の目的地、白金青い池に到着した。

〈ふくろうの店〉への道中にある白金青い池は北海道・美瑛にある景勝地で、十勝岳の噴火による火山泥流を防ぐための堰堤に、偶然川の水がたまって誕生したコバルトブルーの美しい池だ。寒さで水面が凍っていたが、水の青さはそれでも分かるぐらい綺麗だった。通り道のついでくらいの気持ちで立ち寄ったが、静かな風景の中に浮かぶ心癒される青に包まれてちょっぴり得した気分に

車旅の良さは、こういった思いもよらない風景に出合うことができるところだと、改めて実感する。

白金青い池

住所:北海道上川郡美瑛町白金
ホームページhttps://www.biei-hokkaido.jp/ja/shirogane-blue-pond

コロポックルと、心温まるぬくもりの味

翌朝、いよいよ旅の目的地の〈ふくろうの店〉に向かって出発。

事前に電話で昼過ぎに行きますとお伝えしたけれど、予定よりかなり早くお昼前に到着してしまった。雪が積もっている中、奥の建物へと続く細い一本道だけが、こちらへどうぞと言わんばかりに綺麗に雪かきされている。

少し緊張しながら進むと、奥からスキーのストックを両手で突きながら西山忠男さんが「いらっしゃい、家内が鍋を作って待っているのでどうぞ中へ」と出迎えてくれた。お店ではなく、なんと自宅に招き入れてもらったのだ。

忠男さんと妻・営子さんと愛猫のシェリーが暮らす自宅スペースは、忠男さんが世界中を旅して集めた骨董品で埋め尽くされていて、童話に出てくるような幻想的な世界が広がっていた。ご自宅なので写真には収めず、目と心に焼き付けた。

営子さんが作ってくれた海鮮が盛りだくさんの特製お鍋を囲みながら、忠男さんに聞かれた質問に答えたり、聞きたかったことを質問したり、贅沢な時間を過ごした。ぬくもりに味があるとしたらこのお鍋のことだと思えるほど、心の奥まで温まるお鍋だった。

もうすぐ89歳になる忠男さんがコロポックルを作り始めたのは60年ほど前のことらしく、どうして作り始めたのですか?と聞くと「忘れた、もう60年も経ってるから」と潔い一言。

忘れた、の一言に深みを感じたのは初めてだった。その一言に説得を持たせるほど、忠男さんの言葉には重みがある。60年続けるということは、そういうことなのだと感じた。 最近は体調も悪くされているため制作はもうされていないそう。コロポックルの数も店内にある限りと聞き、早速お店を見せてもらうことに。

店内に入ると、これまで忠男さんが作ってきた様々な作品がびっしりと並んでいて圧巻の景色。表情豊かな動物の木彫りたちの中に隠れているコロポックルを数体見つけ、嬉しい気持ちになった。

現在出回っているコロポックルは、忠男さんが作ったものとお弟子さんたちが作ったもの、網走刑務所の受刑者たちが作ったものがあるそうで、私がもらったコロポックルは忠男さんの工房で40年前に作られたものと刑務所で25年前に作られたものだった。一目見ただけでいつのものなのか分かるところに、改めて尊敬の念を抱いた。

【予算2,000円】お土産はやっぱりコロポックルを

せっかくここまで来て忠男さんと営子さんの人柄にも触れることができたので、忠男さんが作った大きなコロポックルを自宅用に、小さなコロポックルをお土産に連れて帰ることに。

木彫りのコロポックル(小)1,500円。店内在庫限り、残り少ないので早めにお店に足を運ぶのが◎

帰り際、「まだ若いんだから、もっともっと頑張りなさい。人が行かないようなところにたくさん行きなさい」と力強い握手で見送られた。

〈ふくろうの店〉

住所:北海道上川郡東川町東2
営業時間:9:00~18:00
定休日:不定休
TEL 0166-82-2001

友人からもらったコロポックルをきっかけに始まった北海道旅は、生涯忘れることのない出合いをもたらしてくれた。旅はいつも言葉の外にある物事に出会わせてくれる気がする。長い寄り道をしながら、そんな出会いを見逃さないように、これからも旅は続いていく。

text&photo_Momoka Omote

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