寺社につき喫茶。絵になる京都ご多幸散歩 Vol.6 神社編 オフィス街に溶け込む小さなオアシス〈六角堂〉で心のデトックス。
独特の吸引力に惹きつけられ何度でも足を運びたくなる。そんな街といえば、やっぱり京都。飽きない点も魅力だけど、知られざる美しい心の保養地がこの街にはまだまだあるんです。知っているとちょっと“粋”な神社仏閣、そしてその道すがらに出合った“秘密にしたい”素敵な喫茶店、教えちゃいます。案内人は寺社を愛する京都在住のモデル・本山順子さん。今回訪れたのは、いけばな発祥の地としても知られる〈六角堂〉と、レトロな近代建築を愛でながら、珈琲時間を優雅にさせる〈salon de 1904〉。前編では〈六角堂〉をお届けします。
オフィス街に佇む、生き物たちの楽園。
銀行が立ち並ぶ京都のウォール街である四条烏丸の交差点を抜けると、上質なスーツを身に纏った人々が、スタバを片手に足並み早く行き交うオフィスビル街。そこへどこからともなく鳥の囀りとともに初夏の蒼い風が爽やかに吹き抜けます。
燦々と降り注ぐ太陽の日差しを木々が受け止め、グリーンに輝く境内はまるでビルを掻き分けて見つけた楽園。聖徳太子が大阪・四天王寺建立の用材を求めて訪ねた地“六角堂”が現れます。
聖徳太子創建の寺として伝わる〈六角堂〉は、587年建立と歴史が深く、京都の方からは“六角さん”の名で親しまれてきました。六角堂の正式名称である寺号は「頂法寺」。初代住職はなんと遣隋使(※1)で有名な小野妹子だというから驚きです。
平安京遷都(※2)より先に創建されていたため、平安京造営時、本堂の位置に道を通すため桓武天皇が「少し動いてください」と使者をたてて祈ったところ、一夜にして本堂が“へそ石”を一つ残し5丈(約15m)北に動いたという伝説が伝わっています。
六角堂のご本尊は、如意輪観音菩薩様(にょいりんかんのんぼさつ)。片足を上げ、そこに肘をかけて指先を頬に当て思惟(しゆい)されている様子は、どうしたら人々を救えるのかと悩んでいるお姿。人々に救いの手を差し伸べ、苦しみを除き、願いに耳を傾けられておられます。
また、聖徳太子につかえていた小野妹子氏が出家して、毎朝夕欠かさず仏前に花を供えたことが華道の由来とされており、いけばな発祥の地としても知られています。そう、六角堂の住職は、最古かつ最大の華道家元、「池坊」(いけのぼう)でもあるのです。
本堂を見上げると鳩の雛が元気に鳴いており、親鳩がせっせとご飯を運びます。なかには地面にペッタリと羽をあずけて日向ぼっこしている子も。鳩のこのような姿は初めて見たので驚きました。
境内にはさまざまな生命で溢れ、生物たちが自ら住まう場所として安心して〈六角堂〉で過ごしている様子が伺い知れます。それは代々の住職さんが愛を持って生き物たちと接してこられた証でもあるような気がしてならないのでした。
本堂裏の聖徳太子が祀られている太子堂へ向かうと、白鳥が涼しげに水面を滑る不思議な光景が。聞けば、この地で育った親鳥が卵を産み、この場所で大人になったのだそう。
その池の中にある井筒は聖徳太子沐浴の古跡と伝えられる場所です。その池のほとりに僧侶の住坊が建てられ「池坊」と呼ばれるようになりました。
池坊は小野妹子が道祖であり、いけばな理論を確立した池坊専応(いけのぼう せんおう)により、いけばなの原点『池坊専応口伝』が残されています。
野山水辺に生きるありのままの自然の姿を大切にしつつ
“よろしき面影”へ導く。
“よろしき面影”とは美しく咲き誇ってる状態だけを「美」とするのではなく、枯れゆく様にも趣があり、そこにも「美」を見出せるということ。
それは人間にも同じことがいえます。どんなに体が衰えても、日々の考え方や心の在り方によって歳を重ねた深み、すなわち「美」を見出すことができるのです。
“つぼみを見て未来を感じ、枯れた花にいのちの軌跡を想う”
「花をいける」とは、ありのままの花の姿をいかし、どういけたいのか、という理想とする形に捉われ過ぎることなく、花と心を通わせ“今この瞬間”の花の表情を見て、いかす。
オフィスビルに溶け込み、たくさんの生物に溢れ、木々や生き物、私たち人間との境界線を感じさせないような〈六角堂〉。花と人との一生涯を重ね、花による悟りの種をいただき、自らの命も生かして・活かして、生きてゆこうと、この楽園の陽を浴びながらいつか辿り着く死までの道のりを想うのでした。
紫雲山 頂法寺 六角堂
住所:京都府京都市中京区六角通東洞院西入堂之前町
TEL:075-221-2686
参拝時間:6:00〜17:00(納経は8:30〜17:00)
HP:https://www.ikenobo.jp/rokkakudo/