くどうれいんの友人用盛岡案内 〜手土産編〜 #7 フルールきくやの奥州ポテトと三代杉
岩手県盛岡市在住の作家のくどうれいんさんが、プライベートで友人を案内したい盛岡のお気に入りスポットと、手土産を交互に紹介します。
お土産を買うとき、どうしても「その土地らしさ」のことを考えてしまう。岩手でしか手に入らないものをせっかくなら、と。しかしながら、もらうほうとしてはそのお土産がどれだけレアなのか、ということよりも、純粋においしいかどうかのほうが重要な気もする。
そこでしか食べられないものがいい、けれど、やっぱりとにかくおいしいものがいい。きょうはそのわがままを両方叶えたい。
〈フルールきくや〉さんのお菓子から、わたしの鉄板のお土産ふたつを紹介します。
まずは、「奥州ポテト」。
岩手県の南のほうに「奥州市」という場所があるが、「奥州ポテト」はその「奥州市」が誕生する以前から『奥州ポテト』として販売されている。「ひろく東北の皆さまに親しまれるお菓子になるように」と願いを込めて、陸奥国(むつのくに)の『奥州』から名付けられたとのこと。奥州藤原氏と言えば平泉という観光地もある。どちらにしても岩手県南のイメージが強いネーミングである。
しかし、岩手県や奥州市でさつまいもが名産なのかと言われると、正直そうでもない。実際、この「奥州ポテト」に使われている鳴門金時は岩手産ではない(使われているたまごは奥州市産のものだけれど)。だからいつも、岩手のお土産として、盛岡のお土産として買うかどうかすこし悩む、というのが正直なところだ。ただこれ、そんなことはどうでもよくなるほど、とにかくめちゃくちゃおいしい。
直径4センチほどのまんまるのスイートポテト。かわいい。冷やしても常温でもおいしい。わたしは常温のほうがよりとろっとするので好き。常温で持ち歩きができるのもうれしいポイント。
中にはたっぷりカスタードが入っている。このカスタードがとろけて、びっくりするほどおいしい。わたしは実は、スイートポテトの甘ったるく喉が詰まる感じ、しつこく繊維が押し寄せて来る感じが苦手だったのだが、これはちがう。あまりにもなめらかすぎる。甘さ控えめなのに、ご褒美をもらったような、甘いものを食べたぞ!と思えるうれしさがある。とろっとろのプリンが好きな人は間違いなくこの「奥州ポテト」も好きだと思う。とにかくなめらかでおいしい。ああ、よくあるスイートポテトね、と思って侮るなかれ。とても繊細で丁寧な、金貨のようにうれしいお菓子だ。
そして〈フルールきくや〉さんと言えばもう一つ。「三代杉」である。こちらは、本当にここでしか食べられないお菓子だと思う。
まずパッケージが渋い。手触りの良い和紙のような紙に水墨画と「銘菓」「三代杉」の文字。貫禄がある。描かれているのは世界遺産の平泉・中尊寺。その中尊寺の本堂脇には、根っこの繋がった三本の大杉がある。それを奥州・藤原三代(清衡・基衡・秀衡)にかけて「銘菓 三代杉」と命名されたとのこと。
それで、この中身が驚く。どう見ても和菓子らしい見た目をしていて、大きめの落雁などが入っていそうな感じだが、実はがっつり洋菓子なのだ。
見た目はビスケット?と思うけれど、割ってびっくり。
「三代杉」は、なんと、
・バームクーヘンの中に
・ガナッシュチョコレートを詰めて
・クッキーでサンドした
お菓子なのである。すごい。洋菓子の要素、てんこ盛り。チョコレートが入っているので冷蔵庫で冷やして食べる。(わたしの友人にはこれを冷凍庫で冷やして半解凍を食べるのが好きと言う人がいる。今度やってみよう。)
ひとくち食べると、ほろっ、と崩れる。やわらかい。ああ、バームクーヘンがまずおいしい。しっとりしている。驚くべきはこの中に詰められたガナッシュチョコレートだ。シンプルでありながら、すこしだけ癖のある味がする。もしかしてこれは!と思ったらやはり、カルダモンが入っている。ちょっとだけスパイシーでラムが効いている。これを挟んだクッキーはへにゃっとしていて、ラムレーズンサンドのようにほろほろ崩れる。バームクーヘンとチョコレートとクッキーのおいしいところがぜんぶ詰まった恐ろしいお菓子だ。
三つも要素があるのにちっともがちゃがちゃしておらず、さいしょから「三代杉」というお菓子のジャンルがあったのではないかというほど、三つがあたりまえのようにおいしさを仲良く高め合ってくれる。これが昭和58年の発売以来、愛され続けているというのだからすごい。
〈フルールきくや〉さんの「奥州ポテト」と「三代杉」は、盛岡市内では盛岡市永井にある<盛岡本店>、盛岡駅ビル「フェザン」内にある〈フルールきくや盛岡フェザン店〉で購入できる。うれしいことにHPからお取り寄せもできます。