ハナコラボSDGsレポート 未来の世代のために考えた企業経営で活躍の場と成長を。産業廃棄物中間処理会社〈石坂産業〉
ハナコラボ パートナーの中から、SDGsについて知りたい、学びたいと意欲をもった4人が「ハナコラボSDGsレポーターズ」を発足!毎週さまざまなコンテンツをレポートします。今回は、ナチュラルビューティーハンターとして活躍するシナダユイさんが、〈三富今昔村〉や〈石坂オーガニックファーム〉などの施設を運営する〈石坂産業〉専務取締役の石坂知子さんに話を伺いました。
みなさんは、産業廃棄物処理についてどれくらい知っていますか?どんなイメージをお持ちでしょうか?私の持っていたイメージはというと、「男性の仕事」「白い壁に覆われていて、中で何をやっているかわからない」「もしかしたら不法投棄をしているのでは」…など(すみません)。そんな閉鎖的なイメージを“体感”で払拭させてくれたのが、環境教育フィールド〈三富今昔村〉です。施設を運営する〈石坂産業〉さんを追いました(ハンター風)。
“ゴミ”を“ゴミ”にしない
ーー「産廃処理業について何も知らない」という方のために、まずはどういったお仕事なのか教えてください。
「日本では、家庭から出る生活ゴミは一般廃棄物、それ以外の事業活動に伴って生じた廃棄物は産業廃棄物と言われ、カテゴリー分けされています。一般廃棄物は国民の税金で、市町村等で処理をしてくれますが、産業廃棄物は民間企業が担当するため、助成金や補助金もなく、廃棄物を排出した企業が支払う費用で処理されています」
ーー具体的にどのようなものを処理しているのでしょうか。
「建設系の廃棄物、例えば家屋を解体した廃材などです。出る量も環境省の調べでは生活ゴミの9倍近く、多く発生していて、我々のような中間処理場がないと最終処分場にそのまま埋めることになってしまいます」
ーー日本にそのような場所があるのでしょうか。
「いまでは法律で禁止されていますが、創業者が事業を始めた1967年頃は『夢の島』(現在のお台場あたり)に海洋投棄に行っていました。次々と海に捨てられていく廃棄物を見たときに、まだまだ使えるものが捨てられていて、これではいけないなと。日本は島国なので資源を大事にしないといけない。ゴミをゴミにしない社会を作りたいという想いでこの会社を立ち上げ、我々もその想いを大切に“ZERO WASTE DESIGN”というヴィジョンを掲げています」
ーー56年前は海に…ショッキングな話です。廃材を集めることまでは知っていましたが、その後のことはなかなか知る機会がありませんでした。
「廃棄物を再資源化してまた世に送り出すのが我々の役割なんです。廃材を破砕し分別分級することで紙の原料やダンボールなどの二次製品、建材として販売できる製品に生まれ変わります。混ざってしまったものを分ける技術というのが本当に大変で、分別分級の工場をカスタマイズして、現在では再資源化・リサイクル率98%という業界トップクラスになりました」
ーー98%も!主にリサイクルをする会社だったんですね。
「現状に満足はせず、100%再資源化を目指しているため、産学官連携で研究開発を進めています。SDGsの12番目の項目に『つくる責任、つかう責任』がありますが、我々はそこに独自に『すてる責任』という言葉を加えています。ものを捨てるという先のことを考え、設計の段階で取り入れてもらいたい。最終処分場のいらない社会を実現するためにモノづくりの製造メーカーさんに対しても発信させていただいています」
見せることで閉鎖的なイメージを払拭
ーー現在は創業者の跡を継いだ代表、専務取締役ともに女性が務めている〈石坂産業〉さんですが、業種的に男性色が強い中で、偏見やご苦労もあったのではないかと想像しますが、いかがでしたか?
「当初、社員は平均55歳という年齢の高い男性ばかりで、職人肌。女に何ができるんだ、お茶汲みしていればいいみたいな雰囲気は当然ながらありました。でも、日本の文化や背景でそうなってしまっているのが残念だなというのを私も代表も感じていて、それはお互い理解をして姿勢を変え、払拭していかなくちゃいけないよね、と。地域に必要とされる企業価値を持っていたので、目先の利益だけでなく、それをどう可視化して、もっと地域に愛される会社に変えていくかをベースに、色々な見せ方の工夫をしてきました」
ーー見せ方の工夫とは?
「私も代表も、工場内で汗水を垂らしながら、自分の素手で手選別をしてくれている社員の姿は本当にかっこいいな、日本の誇りだなと思っていました。我々のプライドを見ていただけたら、きっとたくさんの方がファンになってくれるのではと。当初は根拠のない、そんな想いからのスタートでした」
ーーそれで工場見学が行われるようになったんですね。実際の反応はどうでしたか?
「見学通路が真っ白な壁で無機質だったので、『グリーンアクションストリート』と名付けて、社員は緑のペン、訪れた大人の方は青いペン、お子さんは赤いペンでそれぞれメッセージを残してもらい、想いの可視化のできる場所にしました。お子さんの字で“お父さんかっこいい”とか、訪れた学生の中には“将来、石坂で働きたい”と。海外からも40カ国以上が視察に来られています」
ーーうれしい言葉ですね。
「会社のイベントにも社員の家族に参加してもらい、仕事を理解し安心してもらう。『家族参観日』の場を設け、お父さん、お母さんが活躍する姿を見て知ってもらう活動もしています」
ーー身近なところから仕事の価値が伝わっていったんですね。
「企業さんだと『コラボしてパートナーシップを組みたい』と言ったお声もかかるようになったため、情報開示をすることで、あらゆる方から協力支援していただける、共創できる会社になってきたなと。閉鎖的なイメージだったのを払拭したことで、変わってきたのを感じています」
ーー確かに、見えないからこそ抱いていた不信感は払拭されました。
「いまでは全体の3割が女性で、20代、30代が全体の50%、平均年齢39歳という、この業界の中では人材のダイバーシティ・多様化になっています。4カ国の外国籍の方、知的障がいを持った方、親子2世代や兄弟で働いてくれている家族もいます」
孫の世代まで考えた活動
ーーそういった積極的な情報開示や見学の他に、〈三富今昔村〉の運営と里山保全、〈石坂オーガニックファーム〉で野菜づくりもされていますよね。
「二十数年前だと『こんな奥地に人が来ないよね』『いい人材集まらないよね』と言われていたのですが、逆手にとって四季折々の自然を感じられるこの環境こそ“人間力”にとって必要だと考え、学校教育や家庭教育では学べない体験型の環境教育の場をつくろうと決めました」
ーーこの辺りは当時、何もなかったんですか?
「私が入社した頃は鬱蒼とした森で、死角が多いので不法投棄の温床になりやすく、たくさんゴミが捨てられていました。そんな森を地域の方が見て『昔はヤマユリが自然に群生していた森だったのよ』と教えてくれました。当時はCSR(企業の社会的責任)で、海外に植樹をすることがステータスだった時代でしたが、我々が見られない場所に植樹をしてもどうなのかと。いま地域で困っているこの里山を保全することこそが我々のミッションだろうとプロジェクトを発足させて、不法投棄のゴミを回収し、森の下草刈りや落ち葉掃きをして、部分的に間伐もして下草まで日が届く生きた里山に変えていきました」
ーー不法投棄は見ると悲しい気持ちになりますよね。それを自ら行動して環境を変えるとは地域のためとは言えなかなか大変なことですよね。
「地道な活動を長期的に、諦めずにやっています。それって男性的というより女性的感性なのかなと思います」
ーーこれまでの経済優先の考えでは思いつかないような…。産廃処理業が里山を再生するというのは本当に独自性があって驚きました。〈石坂オーガニックファーム〉では自然の心地よさを体感することができて、レストランではおいしい料理をいただくこともでき、様々なイベントもありますよね。
「そうですね。“循環”というキーワードを軸に、色々とニーズに合わせながらとか、社員からの声で新しいことをスタートしたり、エリアの名称や店舗名は社員からの公募で決めたりしています。社員が“自分ごと”として捉えながら仕事をしてほしいなという想いもあり、あえてトップダウンではなく、時間はかかるけれどもボトムアップにしています」
ーーだからなのか、〈三富今昔村〉で働く人たちは活き活きとしていた印象でした。
「手上げ文化、やりたいことをやりたいと言えるような組織にしたいと思っています。20代、30代の女性が結構活発に学びたいと手をあげてくれているなというのを感じているので、自然環境がよくなるにつれて、組織風土的にもよくなってきているかなと思います」
ーー魅力的な組織の在り方ですね。
「未来を想像して、自分たちの子供の世代、孫の世代まで考えた活動というのが大事だと思っています。自分の孫をこの森で育てたい、そういう感性で森を育てていて、社員も育てているので『母性経営』と言われています」
ーーそういった成長を見守るようなあたたかな目線が、性別問わず、世代も超えて全ての人に活躍の場をつくっている。それが〈石坂産業〉らしさになっている、そんなふうに感じました。ぜひ、みなさんにもそんな“場”を体感しに行ってほしいです。