渋谷〈PUFFZ〉を皮切りに、大阪・名古屋・福岡でも順次デビュー! 〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉直営店初のSDGs企画。マダガスカルの農園で育ったバニラのシューアイスの「裏側」が予想以上におもしろかった。
〈THE UPPER〉や〈XIRINGUITO Escribà〉など話題店を次々と手掛けることで知られる〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉。意外にも同社直営店舗初となるSDGs企画として、「マダガスカルバニラのシューアイス」が6月12日の東京・渋谷〈PUFFZ(パフズ)〉を皮切りに、順次、名古屋、大阪、福岡でも販売スタート。試食会で仕掛け人たちを取材したところ……予想以上に面白い裏話が聞けたのでぜひシェアさせてください。生産者の顔が見えるバニラ、そして〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉ならではのSDGs企画の仕掛け方とは?
まずは試食してみた。
JR渋谷駅東口地下広場にある〈PUFFZ〉は〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉が予約の取れないフレンチとして知られる〈Sincere〉の石井シェフと共同開発し、運営するオリジナルベイクブランド。
さっそく、ごろっとボリューミーな「マダガスカルバニラのシューアイス」をほおばってみました。
まず驚いたのが、芳醇なバニラの香り。
マダガスカルの、森のような農園として知られる「アグロフォレストリー」で育った高品質のバニラ=「アグロフォレストリバニラ」を使用しているからこその、濃厚さ。
ハンドクラフトアイスクリームブランド〈HANDELS VÄGEN(ハンデルスベーゲン)〉とコラボし、類まれなるバニラのポテンシャルを最大限に引き出したバニラアイスなのです。
北海道産の生乳と生クリーム、卵、沖縄産の黒糖を使った濃厚かつ、軽いあと味が特徴。ザクザク食感のシュー生地と、溶けだした芳醇なバニラが出合うことで、異次元のおいしさに……。
ある日、アポなしでお店に売り込みに現れた……“マダガスカルの農園に魅せられた男性”。
〈PUFFZ〉と、「アグロフォレストリバニラ」の出合いは、とてもユニークなものでした。
ある日、マダガスカル育ちのバニラビーンズを持った〈Co•En Corporation〉の武末さんが、お店にふらりと現れたのです。当時のことを、〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉の企画担当・田尾さんはこう振り返ります。
「突然、うちのパティシエが、武末さんから売り込みを受けまして。ずっとサステナブル(持続可能)な企画に強い関心があった私は、その話を耳にしてこれだ!すぐに武末さんとお会いしよう!と閃きました(笑)。実際に詳しくお話を伺ったところ、私たちの目指す方向性とすごくマッチしていてトントン拍子に進んでいき、今回の生産者の顔が見えるSDGs企画『FARMER TO YOU』が誕生したのです」
この時アポなしでお店にやってきた武末さんこそ、マダガスカルと日本をバニラビーンズでつなぐキーパーソン。
環境経営コンサルタントとして活躍後、観光で訪れたマダガスカルで、森のようなバニラ農園「アグロフォレストリー」にひと目惚れし、日本にバニラの魅力や生産者の想いを伝えたいと〈PUFFZ〉を訪れたのです。熱いパッションと麗しのバニラビーンズをひっさげて。
「正直、〈PUFFZ〉とコラボできるとはそんなに期待しておらず(笑)。いくつかアポなしで飛び込んだパティスリーやケーキ屋さん、カフェのなかの一つでした」と、武末さんはケロッと語ります。その飄々とした雰囲気に「この人、只者ではない」と、筆者の“おもしろい人察知レーダー”はすぐさま反応しました。
最初は、マダガスカルの人たちにも“怪しまれていた”。
マダガスカルはアフリカ大陸の隣に位置する自然豊かな島国です。
武末さんが魅了されたアグロフォレストリーとは、農業(アグリカルチャー)と林業(フォレストリー)を組み合わせた造語で、一つの農園に多種多様な植物を、まるで森のように植えるのが特徴です。
農薬や肥料は使わず、自然の恵みを最大限に活かして育てられています。
かくして「アグロフォレストリバニラ」を日本に広めようと決意した武末さんですが、なんと、最初はマダガスカルの農園のみなさんにも「この突然現れた日本人は本当にバニラを買う気があるのか? いったい何者なのか?」と怪しまれていたそう。
日本から商社2社の担当者を同行するも結局購入には至らず、その後、クラウドファンディングで集めたお金で2019年に武末さんの会社が買い付けて初めて、「本当に買う気があったのか!」と生産者たちの信頼を得ることができました。
「私は、アナタたちを支援しに来たわけじゃない」。
念願の購入が叶った武末さんは、まず最初に農園のメンバーに伝えたいメッセージがありました。
「私たちはあなたたちを支援したり、お金を寄付したりはしません。とにかく良いバニラを作ってほしい。私がそれを売って日本でマーケットを作るので、対等な関係でいましょう」と。
「“支援慣れ”という言葉があるように、途上国の生産者のなかには『さあ、あなたたちは私たちに何をしてくれるの?』という受け身のスタンスの方もいらっしゃいます。
残念ながら、支援で受け取ったお金はやがて彼らの稼ぐ力を腐らせてしまう場合が少なくありません。だから、もちろん応援はするけれど、それは決してボランティアではなく、対等なビジネスを通じて達成したいんです」
そんな武末さんの想いを、今ではマダガスカルの生産者のみなさんも理解してくれているそう。
メッセージ性の前に、まずおいしさ。〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉ならではのSDGs企画とは?
SDGsは〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉の店舗企画としてずっと手掛けてみたかった分野。今回の企画に挑戦した前出の〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉の担当・田尾さんはこう語ります。
「うちの店だからこそできるSDGs企画ってなんだろと考えたとき、まずは商品力、そして私たちが得意とする若者世代が行き交うお店で、いかに情報発信できるか?だと思いました。
食べたらめちゃくちゃおいしくて、『なんだこれは? どんな企画? 』とその背景にあるアグロフォレストリーや生産者の顔に興味を持ってもらえたらうれしい。別に『おいしい!』だけで完了しても全然OKなんですよ。
興味を持った方が情報を追いかけられるようにチラシなどは用意しますが、最初から手渡すことはしたくなくて。強いメッセージ性が前面に出すぎると、受け取る方によっては押し付けがましく感じ、情報の渋滞が発生してしまう気がするんです」
「キレイゴトを正々堂々と言って、ビジネスをしよう」。
だからこそ、素材力がずば抜けて高い「アグロフォレストリバニラ」との出合いは、〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉の田尾さんが待ち望んでいたものでした。
「サステナブルとかフェアトレードとかSDGsとかサーキュラーエコノミーとか、キレイゴトを堂々と言おう、そしてビジネスをしよう! 生産者に寄付するわけじゃなく、いい商品があるから仕入れる。そしてマダガスカルで利益が生まれる。日本で店を運営している私たちも、負けはしない。このビジネスサイクルが大切かと思います」(〈TRANSIT GENERAL OFFICE〉田尾さん)
「おいしい」のその先に。押し付けがましくならないようにどうやって生産者たちや武末さん想いを消費者まで届けるのか。お店づくりのプロの手腕が光ります。
「バニラ on バニラ」に降伏寸前。
最後に、「マダガスカルバニラのシューアイス」の試食レポに戻りましょう!
ただそこに存在するだけでバニラの香りが漂ってくるのに、提供時にはさらに店員さんが、粉状のオーガニックバニラをふりかけてくれます。「バニラ on バニラ」という口福に、食べる前から降伏寸前。
ハンドクラフトアイスクリームブランド〈HANDELS VÄGEN〉の中野たいじさんは語ります。
「実は、煮出し終わった使用後のバニラビーンズにも香りはかなり残っていて、今回は贅沢なバニラビーンズを余すことなく堪能してもらおうと、乾燥させ、ミルで粉状にしたものをアイスに振りかけることにしたんです」
「今日はおいしいバニラのシューアイスが食べられる」。そんなライトな気持ちで向かい、思いがけず熱い仕掛け人たちに出会えた試食会。「おいしい」のその先の、遠い国に住む生産者たちのこと、地球の未来のために少しでも自分ができることについて考えを巡らせることができました。
〈PUFFZ(パフズ)〉
■東京都渋谷区渋谷2-23-16 東口地下広場B2(渋谷駅 B7出口 直結)
■03-6324-2739
■9:00〜20:00
■無休
■公式サイト