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せわしない情報社会で暮らす現代人に。 大人になった今、読みたい絵本とは?絵本専門店〈トムズボックス〉店主・編集者のおすすめ。
卒業したままの絵本。大人になった今だからこそ、既成概念から解き放ってくれる絵本の力に触れたい。
『きりのなかのかくれんぼ』情報を遮断しゆるやかな時間を過ごす。

海沿いの街に霧がやってきて、去っていくまでの3日間を描いた作品。美しい絵に注目。
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「霧がやってきて晴れるまでの話だけど、読んでいるとゆったりとした気分になれるんです。僕もそうだけど、現代人って情報の中で生きていて、せわしない。情報を拒絶するまではいかなくても、霧がきて晴れるまでの間は、時間の流れをゆるやかにしてほしいと思います。とにかく絵がきれい。50年も前の作品で、その頃のアメリカの絵本黄金時代を築いたひとり、デュボアザンが霧を見事に描いています」
『やまがあるいたよ』ナンセンスさで発想を柔軟に。

ポンポコ山に住むタヌキのオジサンが散歩をしていたら突然山が歩き出して……!? 日本を代表する絵本作家、長新太のナンセンスワールドが全開!
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「すっとぼけたタヌキに、突然歩き出す山……。長新太の得意とするナンセンスがばっちり入っている。これが、子供から大人まで僕ら人間が本来持っているユーモアセンスを呼び起こしてくれる感じがするんです。“いない、いない、ばぁ”で赤ちゃんは笑うでしょ、でもなんで笑うのかよくわかんない。そういう本質的なものを長新太は追い求めていた。この作品で既成概念にしばられた心をほどいてほしい」
『ねこのセーター』不器用な愛おしさに心がやわらぐ。

「さむがりで、なまけもので、せっかちで、おぎょうぎがわるく、はずかしがりやのなきむしで、ちょっとだらしがない」けど、憎めない「ねこ」の話。
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「猫というのはそもそもかわいいんだけど、もっと内面からかわいくした姿を描いちゃうのが100%ORANGE(及川賢治・竹内繭子のユニット名)のすごさだと思います。グラフィック的に美しい絵本なんだけど、内容もすごく好き。なまけもので、せっかちで全然取り柄がない猫が大きな穴が開いたセーターを毎日着ているというだけの話で。これが読んでいて、僕はどこか救われるんです」
これからの時代に必要な絵本からのメッセージ。
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絵本の専門店〈トムズボックス〉を1993年に吉祥寺でスタート、今年6月に西荻窪へ移転オープンした店主の土井章史さん。大人にとっての絵本の魅力とは?

「大人になると数字とか結果とか、要は答えが大切。でも絵本は、そんなことはどうでもいいよ、というメッセージを持っていると思う。子供は次どうなるかなってワクワクドキドキしながら絵本のページをめくる。これからの時代、大人にもその気持ちが大事だと思う。ワクワクドキドキした果てに何があっても、それが楽しかったって思えるような。そんなに急いで生きなくても大丈夫だよ。なんて思わせてくれるんだよね」
(Hanako1178号掲載/photo : Aya Sunahara, Megumi Uchiyama (still) text : Nao Yoshida)