妊婦が卵を除去すれば赤ちゃんのアレルギー発症リスクは抑えられるのか? 妊娠中は生卵を食べてはいけないの?
妊娠中に生卵を食べてはいけない、ということを聞いたことはありますか。
日本人にとって卵かけごはんや釜玉うどん、すき焼きの生卵はなくてはならないメニューで、妊娠中に生卵を食べられないなんてショックですよね。
では、なぜ妊娠中に生卵を食べてはいけないのか、また妊婦さんが生卵に限らず卵製品を制限することで、赤ちゃんのアレルギー発症リスクを抑えられるというウワサは本当なのか、最新の研究結果をお伝えします。
妊婦が生卵を食べてはいけない理由
鶏卵は、食中毒の原因菌であるサルモネラ菌に汚染されている可能性があります。サルモネラによる食中毒にかかると、腹痛、下痢、発熱、嘔吐などの症状のほか、重症化すると意識障害やけいれん、脱水症状が現れます。
汚染経路としては、卵殻表面に鶏由来の糞が付着しており、その中にサルモネラ菌が存在する場合の「on egg汚染」と、そもそもサルモネラ菌に感染している鶏が卵を産む過程で卵内部に取り込まれる場合の「in egg汚染」の2通りあります。
卵の流通過程で卵殻の洗浄・殺菌がきちんと行われていれば、「on egg汚染」の確立は極めて低いですが、小規模事業者や自動販売機などで販売されている卵で十分な洗浄・殺菌がされていない場合は、汚れが殻の表面に残っている可能性があるので注意が必要です。
また、卵内部にサルモネラ菌が存在する「in egg汚染」の場合は洗浄・殺菌をしても取り除くことはできません。
食品安全委員会の調査によると、鶏卵がサルモネラ菌に汚染されている確率は0.0029%程度と推定されました。
確率的には極めて低い値ではありますが、妊娠中は免疫機能が低下しており食中毒にかかりやすいため、農林水産省及び食品安全委員会では、妊婦は半熟卵を含む生卵の摂取を避けるようにと呼び掛けています。
ただし、加熱したゆで卵や卵焼きであれば食べられます。
ちなみに、スーパーでは卵は常温の置き場で販売されていることが多いですが、購入後は速やかに冷蔵庫、特に温度変化の激しいドアポケットではなく冷蔵庫の奥で保管しましょう。また、卵の殻に汚れが残っている場合も洗ってはいけません。卵の殻には気孔という無数の微細な穴があり、雑菌が水と一緒に卵の中に入る可能性があります。
もしも目につく汚れがあれば、洗わずにふき取るか調理する直前に洗い、念のため妊婦ではなくても加熱して食べるようにしましょう。
妊娠中の卵摂取と胎児のアレルギーの関係性
妊娠中や授乳中に子どもがアレルギーを発症しないために、卵は食べない方が良いというウワサを聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
過去には、鶏卵などの食物アレルギーの原因となりやすい食品は、妊娠中や授乳中の摂取を避ける事が望ましいと考えられていたこともありました。今でも小児科医の中には、授乳中の母親に対して子どもの食物アレルギー予防として、ある特定の食物を食べないようにと指導している医師もいるほどです。
しかし、食物アレルギー診療ガイドライン2016によると「食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない」とされています。
祖父母や近所のおばあちゃんなどから、良かれと思って卵の除去食を勧められる事があるかもしれませんが、妊婦さんのためを思っての発言であることを忘れず、現在の正しい情報を教えてあげましょう。
まとめ
食中毒のリスクから、妊婦さんは生卵を食べるのを控えましょう。万が一、知らずに生卵を食べてしまっても直ちにリスクがあるわけではありませんので、過度に心配する必要はありません。
ただし、妊娠中に食中毒になると薬も十分に飲めない中で妊婦さんが一番辛い思いをすることになります。さらにお腹の赤ちゃんの命を預かっている体でもあるので、予防第一と考えて妊娠中の間だけは生卵は我慢しましょう。
なお、加熱した卵であれば妊婦さんでも安心して食べられますし、そもそも除去しても胎児のアレルギー予防にはなりません。
卵はタンパク質が豊富で妊婦さんにとっても必要な栄養素を豊富に含んでいるので、加熱した卵を毎日の食事にバランスよく取り入れましょうね。
食品安全委員会「生活の中の食品安全-安心して生卵を食べられる国-その1」
https://www.fsc.go.jp/e-mailmagazine/mailmagazine_h2902_r1.html
食品安全委員会「市販鶏卵におけるSalmonella Enteritidis汚染の実態解明とリスク評価法への活用について」
https://www.fsc.go.jp/fsciis/technicalResearch/show/cho99920111004
食物アレルギー診療ガイドライン2016 ダイジェスト版第4章「予知と予防」
https://www.jspaci.jp/allergy_2016/chap04.html